上智大学

ニュース プレスリリース

ピアニストの手指の卓越した巧緻性を生み出す生体の仕組みを発見

音楽家と非音楽訓練経験者では巧緻運動機能の個人差を生み出す要因が異なる

上智大学の古屋晋一特任准教授と同大学大学院理工学研究科情報学領域博士前期課程の木本雄大らのグループは、外骨格ロボットを用いた運動機能評価や機械学習を通して、ピアニストの手指の巧緻性を生み出す神経機能要因と解剖学的要因の同定に成功しました。この成果は、学術雑誌Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ誌)に、2019年8月21日付でオンライン版で公開されました。

本研究の要点
  • ピアニストの手指の様々な機能を、手指外骨格ロボットをはじめとする各種センサーシステムによって評価
  • 指を巧緻に動かす背景にある手指の脳神経・筋骨格要因を機械学習によって同定
  • 非音楽家は脳神経要因が、ピアニストは筋骨格要因が,手指の巧緻運動技能に関与していることが示唆
  • エビデンスに基づいた音楽教育(Evidence-based Education; EBE)の礎となる知見の提供と研究手法の開発
論文名および著者

雑誌名 :

Scientific Reports (サイエンティフィック・リポーツ)

論文タイトル :

Neuromuscular and biomechanical functions subserving finger dexterity in musicians.

オンライン版URL

www.nature.com/articles/s41598-019-48718-9

著者(共著) :

Yudai Kimoto(木本 雄大・上智大)、Takanori Oku(奥 貴紀・Sony CSL)、Shinichi Furuya*(古屋 晋一・上智大/Sony CSL

薬指を動かそうとすると、同時に中指が意図せず動いてしまいます。このように、指同士を独立させて動かすことは、人でもサルでも困難なことが知られています。そのため、5本の指を巧みに操ることが求められる楽器演奏や手術では、指同士を独立させて動かすために、膨大なトレーニングが必要です。この指同士を独立させて動かす能力が不十分であれば、薬指でピアノの鍵盤を打鍵しながら、中指で多彩な音色や音量、リズムで打鍵できないといった、思い通りの演奏表現をする妨げとなり得ます。しかし、このような複数の指を自在に動かす背後にある脳と身体の働きについては、未解明でした。

本研究は、ピアニストと楽器演奏訓練未経験者(非音楽家)を対象に、力センサーや手指外骨格ロボット(エグソスケルトン)を用いて、手指の解剖学的特性や、巧緻運動機能、敏捷性や筋力といったさまざまな機能を評価し、ピアニストと非音楽家の間の差異と、ピアニストの個人差について、それぞれ調べました。

その結果、ピアニストと非音楽家の間で、指の独立運動機能の差が、中指において認められました。その差を生み出す要因は、脳神経要因と解剖学的要因のうち、脳神経要因が関与していることが明らかとなりました。即ち、脳神経系の機能に可塑的な変化が生じることにより、ピアニストは非音楽家に比べて指同士を独立して動かせることが示唆されました。また、手指の解剖学的特性は、両者の間で差は認められませんでした。

一方、ピアニスト同士でも手指の巧緻運動機能の個人差は存在します。この個人差を説明する要因は、解剖学的要因(特に指の柔軟性)と筋力であることが、Elastic Net回帰と呼ばれる機械学習手法を用いて明らかになりました。また、ピアノを始めた年齢や総練習時間と、指の独立運動機能の間に関連は認められませんでした。

手指を巧みに動かすためには、脳神経系や筋骨格系の多数の要因やその個人差が関与し得るため、どの機能を高めるトレーニングが有効かを同定することは容易ではありません。そのため、非効率なトレーニングや練習を通して、手を傷めてしまうことや、上達が見られず見かけの才能に苦しむことは、アーティストと指導者の両方を悩まし続けている問題です。本研究を通して、熟達度を考慮に入れた最適なトレーニングをデザインする方法やその有効性が示唆されました。得られた知見は、演奏家が高精度のパフォーマンスを行うためのトレーニング法や指導法の開発の基盤となるエビデンスを提供するだけではなく、神経科学、医学、スポーツ科学、教育工学など幅広い分野への波及効果が期待できます。本研究は、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(Sony CSL)との共同研究として行われました。


本リリース内容に関するお問合せ

上智大学 特任准教授 古屋晋一
TEL:03-3238-8575
sfuruya@sophia.ac.jp