省エネルギーな次世代磁気デバイス開発に新たな道

本研究の要点

  • これまで研究の主流ではなかった、電気分極が反転しない「磁性焦電体」という物質群に秘められた、新しい電気磁気効果を発見した。
  • 電場の向きという新たなスイッチで磁性をON/OFFする、省エネルギーな電磁石など、これまでにない応用への可能性を示した。

研究の概要

上智大学と東北大学の共同研究グループは、焦電性フェリ磁性体 CaBaCo4O7の単結晶を用いて、電場をかける方向によって磁性が変化する新しい電気磁気効果を発見しました。持続可能な社会の実現に向け、電子機器の省エネルギー化は急務です。その解決策として、電気と磁気の性質を併せ持つ「マルチフェロイック物質」が注目されています。従来の研究は、電場で電気分極の向きを反転できる「強誘電体」が中心でした。しかし本研究では、電気分極の向きが固定されている「焦電体」に着目し、磁性の安定性を電場の向きで制御できることを明らかにしました。

本研究成果は、2025年9月発行の物理学分野の学術雑誌「Journal of the Physical Society of Japan (JPSJ)」に掲載され、特に注目度の高い論文として「Editors’ Choice」に選出されました。

※2025年10月29日追記:下記論文及び著者名記載の媒体名に誤りがありました。深くお詫び申し上げますとともに、次のとおり訂正させていただきます。

(誤)Journal of Physical Society of Japan
(正)Journal of the Physical Society of Japan (theを追記)

論文および著者

媒体名

Journal of the Physical Society of Japan

論文名

Magnetoelectric Effect Dependent on Electric Field Direction in a Pyroelectric Ferrimagnet CaBaCo4O7

論文掲載日

2025年9月10日

オンライン版URL

https://doi.org/10.7566/JPSJ.94.103702

著者(共著)

Takumi Shirasaki, Masaaki Noda, Hinata Arai, Mitsuru Akaki, Haruhiko Kuroe, and Hideki Kuwahara

研究の背景

現代の多くの磁気デバイスは、コイルに電流を流して発生させた磁場を入力として駆動する方式ですが、電力消費が大きいという課題があります。そこで、より電力ロスの少ない「電場」で磁性を制御する「電気磁気効果(※1)」を示すマルチフェロイック物質(※2)が期待されています。これまでの研究は、電場の反転で電気分極を反転させ、それに伴い磁化を制御する「磁性強誘電体(※3)」が中心でした。一方、電気分極が反転しない「磁性焦電体※3」は、同様の原理が働かないため、あまり注目されてきませんでした。しかし研究グループは、この「電気分極が反転しない」という特性が、電場と電気分極の向きの相対的な関係(平行/反平行)という、強誘電体にはない自由度を生むと考え、研究を行いました。

本研究では、焦電性フェリ磁性体CaBaCo4O7の単結晶に対し、電場と磁場を4パターンの組み合わせで印加した状態での磁化を測定しました。その結果、CaBaCo4O7内部に存在する電気分極と印加した電場が平行な場合は磁性が安定化し、反平行な場合は不安定化する現象を発見しました(図1)。さらに、現象論的な考察から、この現象が電気分極と電場の向きの相対的な関係に由来する、磁性焦電体に特有の現象であることを結論付けました。この発見により、磁性焦電体には電場の反転により電気分極が反転しない弱点がある一方で、電場の向きで磁性の安定性を制御できる、磁性強誘電体には無い強みがあることが示唆されました。

図1. 電場と磁場の組み合わせが異なる、各測定配置における磁化の温度依存性。ゼロ電場での磁化の振る舞い(黒曲線)に比べて、電場と電気分極が平行な場合(赤曲線)は磁性が安定化し、反平行な場合(青曲線)は不安定化する。

今後の展望

本研究で発見された現象は、「磁性焦電体」という広大な物質群の新たな可能性を切り拓くものです。今後、同様の機能を持つ新物質の探索が加速することが期待されます。また、電場の向きだけで磁気秩序のON/OFFを切り替えられることは、例えば「電場で駆動する省エネルギーな電磁石」など、これまでの磁性強誘電体とは全く異なるアプローチの新しい磁気デバイスへの応用に繋がります。

助成情報

本研究の一部は、JSPS科研費(課題番号:JP15K05184, JP16K05420, JP19K03745)の助成を受けて実施されました。

用語

(※1) 電気磁気効果: 電場をかけると磁性が、逆に磁場をかけると誘電性が変化するという、電気と磁気が相互に影響し合う現象。

(※2) マルチフェロイック物質: 磁性と誘電性を1個の物質内に併せ持ち、電気磁気効果の舞台となる物質のこと。

(※3) 磁性強誘電体と磁性焦電体: どちらもマルチフェロイック物質の一種。磁性と自発電気分極を併せ持つ物質であり、電場により電気分極が反転する物質を磁性強誘電体、反転しない物質を磁性焦電体と呼ぶ。


研究内容に関するお問合せ

桑原 英樹 教授 (上智大学 理工学部 機能創造理工学科)

h-kuwaha@sophia.ac.jp

報道関係のお問合せ

上智学院広報グループ

sophiapr-co@sophia.ac.jp

上智大学 Sophia University