ノートル=ダム大聖堂の火災復興過程と文化財保存についての学術調査は日本初
ポイント
- 日本の大学として初めて、再開後のパリのノートル=ダム大聖堂の木造小屋組や鐘楼の実地調査を行った。
- 修復において、日本で採択された世界遺産の価値に関する考え方が、基本におかれたことを確認した。(特に木造修復部分)
- ノートル=ダム大聖堂の修復の監督者への単独インタビューで、修復の舞台裏を把握。

上智大学(東京都千代田区、学長:杉村 美紀)の研究チームは、2025年3月、火災からの復旧工事が進むフランス・パリのノートル=ダム大聖堂において、小屋組や鐘楼の現地調査を日本の大学として初めて実施しました。
調査チームを率いる文学部史学科の坂野 正則教授らは、「宗教モニュメントのもつオーセンティシティ」(※1)をどのように保ち伝えているのかを探ると同時に、1994年に採択された「奈良文書」(※2)の意義が修復過程でどのように生かされているかを現地で確認。
さらに、同大聖堂の主任修復官フィリップ・ヴィルヌーヴ氏への単独インタビューを通じ、文化財保存や宗教的な文化財としての価値の継承に関する貴重な知見を収集しました
(※1) 文化財として歴史的真正性が保存されると同時に、信仰空間として宗教性の伝統が継承されること
(※2) 1994年に奈良県奈良市で開催された国際会議「世界文化遺産奈良コンファレンス」で採択された文書。文化遺産の真正性は、文化の多様性や地域固有の文化を踏まえたものであるべきとし、オリジナルな状態の厳密な保存が難しいが、その加工技術や使用の伝統を継承している木造建造物などの価値を認めたもの
研究プロジェクトの活動背景
本調査は、本学の重点研究施策として「上智大学学術研究特別推進費」に採択された「歴史的ヨーロッパの宗教モニュメントに関するアーカイブズの構築と世界遺産オーセンティシティの再考」プロジェクトの一環として実施したものです。このプロジェクトは、ヨーロッパの教会が持つ宗教的な性格やそこに集う人々の精神や感情といった無形の歴史的・社会的価値に光を当て、新たな基準で世界遺産の価値を再考することを目的としています。
今回の実地調査の目的
ノートル=ダム大聖堂は大部分の修復が完了し、教会堂として使用され始めています。しかし、火災以前とは異なるマテリアルも建築資材として用いられ、また、教会堂内部の空間の状態も火災以前とは異なる部分があります。こうした変化の中で、どのようにして歴史的な文化遺産としての価値を保ち続けているのかを直接確認するため、現地での調査および修復担当者へのインタビューを実施しました。


調査概要
- 日程
2025年3月18日(実地調査および聞き取り調査)
- 場所
ノートル=ダム大聖堂(フランス・パリ)
- 主な調査事項
- 大聖堂の屋根と尖塔、小屋組の巡検、鐘楼の構造や現況把握
- 主任修復官フィリップ・ヴィルヌーヴ氏へのインタビュー(復興方針、文化財保存、宗教的オーセンティシティの継承に関する見解など)
今回の成果と今後の展望
今回の主な成果は下記の通りです。
- 1. 奈良文書の精神と通底する修復の方針
火災により損傷した小屋組や鐘楼を修復する際、オリジナルな状態の厳密な保存が困難な木造建造物でも、その加工技術や伝統的構法を重視するアプローチが実践されていることを確認しました。
- 2. カトリック教会と国家事業の関係性
カトリック教会側の意向と国家としての文化財保護の方針とを両立させる形で、修復が進められている現状を把握しました。宗教施設としての神聖性と、世界遺産としての歴史的・文化的価値の両面をバランスよく維持しようとする取り組みであることが伺えました。
- 3. 修復担当者のインタビューで得られた知見
ヴィルヌーヴ氏への単独インタビューにより、修復において基礎に置いている考え方や各分野の職人をふくむ修復集団の方々とのコミュニケーションの取り方など、今まで外部にはあまり知られていなかった知見を得ることができました。
今後、研究チームでは、カトリック教会側の修復担当者から、修復に関する理論的骨格や工夫などについても調査を継続していく予定です。
本リリースの内容に関するお問合せ先
上智大学文学部史学科 教授 坂野 正則 (sakano@sophia.ac.jp)
報道関係のお問合せ先
上智学院広報グループ (sophiapr-co@sophia.ac.jp)