アフリカ研究が専門の総合グローバル学部の眞城百華教授はおもにエチオピア北部に足を運び、地道なインタビューを重ねながら、アフリカが抱える諸問題を政治・歴史・社会・ジェンダーなど多角的に分析しています。
アフリカでは頻繁に災害や民族紛争が起こり、多くの難民が生まれています。なぜアフリカはそのような問題を抱えるのか。その疑問がアフリカ研究のきっかけでした。
私がおもに調査をしているのは、エチオピア北部ティグライ州の人々です。ここは1984年から85年にかけて、大飢饉が起きた地として知られています。また1974年に始まった軍事政権に対抗し、反政府軍がゲリラ戦を展開した地域でもあります。紛争は1991年まで18年続きました。私は紛争の原因を社会的側面からも分析しようと考え、2002年から調査を開始しました。
「ゲリラ時代はすばらしかった」と語る元女性兵士

現地でインタビューを重ねるなかで、「私はゲリラ部隊の元兵士だった」という女性に出会いました。その後、調査を進めるなかで、2万人から3万人の女性兵士がいたことが分かったのです。
エチオピアは家父長制が強く、女性の地位はとても低い。1970年代には10歳未満で結婚させられることも少なくありませんでした。反政府ゲリラたちは社会主義を標榜して、階級や民族の解放に加えて、古い家父長制の慣習から女性を解放する政策を実施しました。その呼びかけに多くの女性たちが賛同し、兵士や後衛支援として協力したのです。
ある元女性兵士は「ゲリラ時代はすばらしかった。あんなにも輝かしい時代はない」と語りました。山野に立てこもってのゲリラ戦でしたが、そこで女性たちは、同じ部隊の一員として、男性と同等に扱われ尊重されたのです。しかし、内紛が終わると古いジェンダー観が戻り、女性が武器を持って戦ったことは隠ぺいされました。文字が書けない女性も多く、女性兵士の存在は十分に記録されていないため、私は彼女らの言葉を少しでもすくいあげたいと考えました。
研究者だからこそできる情報発信がある
アフリカの戦争を語るとき、女性は常に被害者として語られがちですが、女性にも政治参加に対する強い意志があり、コミュニティーを守るために戦っていたと知りました。戦後も女性の政治や社会を変革する動きは紛争後のNGO活動に継承されました。草の根で女性の相互支援が広がり、エチオピアの州人口約500万人のうち約80万人が所属する大きな組織となったのです。
2020年から2年間、ティグライ州で再び紛争が起こりました。この戦争にも女性兵士が投入されましたが、前回の戦争と違って短期間の訓練で戦場に送られ、多くの犠牲者が出ました。また今回は戦時性暴力が激しく、女性たちの被害は甚大でした。
これらの被害状況を即座に把握し、いち早く支援に乗り出したのが前述したNGOの女性たちです。私はこの組織の存在を、JICAを始めとするいくつかの国際機関に紹介し、国際支援につなげることができました。
私はジャーナリストでも国際援助機関の一員でもありませんが、この地域を長く研究する者の一人として多方面から意見を求められることも増え、研究者だからこそ伝えられる情報があると再確認しました。今後もアフリカの女性たちの声に耳を傾け、活動を記録し、研究することでその活動や経験をもっと多くの方々に知ってもらい、女性を主体とした問題解決の道へとつなげていきたいと思っています。
この一冊
『解放と暴力 植民地支配とアフリカの現在』
(小倉充夫、舩田クラーセンさやか/著 東京大学出版会)

アフリカが抱える諸問題を、歴史的な視点から深く読み解いている本です。高校の世界史で学んだ知識と、ニュースで流れるアフリカの現状をつないでくれるはずです。
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眞城 百華
- 総合グローバル学部総合グローバル学科
教授
- 総合グローバル学部総合グローバル学科
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津田塾大学学芸学部国際関係学科卒、同大学院国際関係学研究科博士課程修了。博士(国際関係学)。津田塾大学学芸学部国際関係学科助教、上智大学総合グローバル学部助教・准教授などを経て、2022年より現職。
- 総合グローバル学科
※この記事の内容は、2024年9月時点のものです