連続して形が変わる結び目の数学、数式を駆使して研究を深める

理工学部情報理工学科 
准教授 
大城 佳奈子

靴紐などを結ぶときに誰もが目にする結び目はとても身近な存在です。ところが今、その結び目が世界中の数学者たちが競って研究するテーマの一つになっています。理工学部の大城佳奈子准教授もそんな研究者の一人です。

結び目の研究は、「トポロジー」と呼ばれる位相幾何学の一種です。トポロジーとは、連続的に変形できる図形を同じと捉える幾何学を意味します。たとえば綾取りでは、3次元空間内で紐を連続的に変形させて、さまざまな形をつくり出します。綾取りで作られる形は、見た目はまったく違うけれども、同じ紐を使って変形させているだけなので、トポロジー的には同じと考えます。

ただし変形させるときには、途中で切ったり貼ったりしないというルールを守らなければなりません。つまり、つながり方を変えてはいけないのです。また、紐の絡まり方を議論するときには、綾取りの例のように3次元空間内で紐を動かすというルールがあります。このようなルールがあるトポロジーをうまく活用しているのが、鉄道の路線図です。駅の切符売り場に掲示されている路線図の形は、実際の鉄道路線とはまったく違います。けれども、路線図を見れば目的地までの最短ルートが分かる。なぜなら路線図はトポロジーに基づいて描かれている、すなわち実際の路線と同じつながり方をしているからです。

重なり合わない証明は難しい、だから代数を使う

たとえば、二つある結び目が重なり合うかどうかを証明したいとき、二つの結び目をいろいろ動かしてみて最終的に同じ形になれば、それで証明できたことになります。問題はどうやっても重なり合わない場合です。重なり合わない、つまり違う結び目であると結論づけるためにも証明が求められます。実はこれが極めて難しい問題であり、証明のためには何かしらの数学を使う必要があります。結び目は幾何的な対象ですが、証明の際には幾何を代数に置き換えて考えることもあります。その際に使われるのが、結び目の性質から得られる公理に基づくカンドル代数であり、1982年に結び目研究のために開発されました。

結び目理論そのものが19世紀に始まった新しい研究領域であり、本格的に発展したのは20世紀に入ってからです。研究の進展に伴い、実社会への応用についてもさまざまな可能性が期待されています。たとえば生命科学の分野では、環状のDNAを持つ原生生物が見つかっています。環状DNAは結び目の構造を持ち、このDNAに遺伝子入れ替え酵素を加えると結び目の構造が変わります。その変化をみれば、酵素の効果を確認できる。このように結び目理論は、数学以外の分野でも役立つと期待されています。

手を動かす、コンピューターを使う、ゲームでも学べる

結び目の研究をする際には、実際に図をたくさん描いて違いを調べたり、複雑な数式を使って計算したりする場合もあります。込み入った計算をするときは、コンピューターも使います。

一方で、結び目で楽しむこともできます。結び目理論から生まれた「領域選択ゲーム」です。このゲームはインターネット上に公開されていて、図形の領域を順にクリックしていき、すべての交点を点灯できれば終了です。これを楽しむために、難解な結び目理論を理解する必要はありません。むしろ直感や想像力が試されるゲームで、攻略法を自ら考えてみるのも面白いかもしれません。ゲームを通して結び目の世界に触れてみてほしいと思います。

大学での数学には、高校までの数学とはまったく違う世界が広がっています。仮に高校で数学が苦手だったとしても、新しい数学の世界は面白いと思える可能性が大きいのです。ぜひ、未知の世界を楽しんでみてください。

この一冊

『四次元が見えるようになる本』
(根上生也/著 日本評論社)

ふだん見ている世界は3次元ですが、4次元にまで世界を広げると不思議な現象が起こります。3次元では解けない結び目も、4次元の中ならすべて解ける。そんな新しい世界へと誘ってくれる一冊です。

大城 佳奈子

  • 理工学部情報理工学科 
    准教授

広島大学理学部数学科卒、同理学研究科数学専攻博士後期課程修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員DC1、日本学術振興会特別研究員PD、日本女子大学理学部数物科学科助教、上智大学理工学部情報理工学科助教などを経て、2018年より現職。

情報理工学科

※この記事の内容は、2024年7月時点のものです

上智大学 Sophia University