アメリカ生まれのフライングディスク競技、アルティメットの普及を目指して

基盤教育センター
教授
島 健

スポーツ科学の見地からフライングディスクを使ったスポーツ、アルティメットの研究を続ける基盤教育センターの島健教授。アルティメットを含め10種目あるフライングディスク競技のスロー技術向上のために構築したシステムとは? 一般的な球技とは異なる競技の特性や魅力を語ります。

アルティメットは、1968年にアメリカ・ニュージャージー州の高校生が考案した7人制のチームスポーツです。100m×37mのフィールドでフライングディスク、一般的にいうフリスビーをパスして運び、コート両端のエンドゾーン内で味方がディスクをキャッチすれば得点に。アメリカやカナダ、北欧で盛んに行われており、世界30カ国以上でプレーされています。日本では大学を中心に240のチームがあり、日本代表が世界大会での優勝経験もあります。私はこのアルティメットをはじめとするフライングディスクのスローに関する技術分析や投げ方を学ぶための教材の開発に取り組んでいます。

私がこの競技に出会ったのは教員として上智大学に赴任した1988年に、アルティメットサークルの顧問から見学に誘われたのがきっかけです。このサークルは現在、上智大学体育会のフライングディスク部として活動しており、日本代表選手も多く輩出している強豪チーム。見学に行った私は、選手たちの投げたフライングディスクが浮遊したり、コート外に出てもカーブして戻ってきたりという、目を見張るような飛行特性にすっかり魅了されました。ためらうことなく社会人向けのクラブチームに加入し、選手としてプレーし続けるとともに指導者として活動するようになりました。こうした中で、研究テーマもアルティメットを中心としたフラインディスクにシフトしてきたのです。

フライングディスクを学ぶデジタル教材を開発

アルティメットは、スポーツには珍しい審判のいないセルフジャッジ制でプレーされるため、大会では勝利したチームとは別にフェアプレイで臨んだチームも表彰されます。そういった協調性や道徳性なども身に付く点が評価され、2012年以降は中学校の体育授業で採用されていますが、見たこともないスポーツを言葉だけで理解してもらうのは困難です。とくにフライングディスクは一般の球技と違い、上手に投げるのも難しい。そこで、初心者を対象に、ビデオや写真、アニメーションなどを用いたフライングディスクのデジタル教材を開発しました。

ゲーム機のデバイスを利用したシステムを構築

最近ではアルティメット競技者が、フライングディスクの投げ方を自分で学ぶためのシステムの構築にも取り組みました。システムはゲーム機「Xbox 360」のデバイスとして知られる「Microsoft Kinect」を利用し、フライングディスクを投げる時の「腕の高さ」「腰のひねり」「ひじの曲げ伸ばし」などの動作を計測。不十分と考えられる動きに対して修正点が画面に表示されます。検証によって、投げ方に課題のある中級者や初心者でフォームの改善効果が見られました。現在はこのシステムの長所を生かして、新しいシステムを検討しているところです。この研究がきっかけでフライングディスク競技に関わる人が増えることを期待しています。

体力の向上や、競うことだけがスポーツではありません。他の人と関わることで自分の役割を考えたり、自分の身体を意識できたりと多くのことを学びます。スポーツで得たそれらの学びは社会に出てからも非常に役立つでしょう。上智大学ではスポーツの選択科目でフライングディスクの競技を学べます。履修した学生には新しいスポーツの体験を通して、多くの刺激を受けてほしいと願っています。

この一冊

『センス・オブ・ワンダー』
(レイチェル・カーソン/著 上遠恵子/訳 佑学社)

『沈黙の春』で知られる著者の最後の本です。可愛がっていた甥っ子との日々から、地球や生命の美しさを身体で感じ取ることの喜びと大切さが描かれています。スポーツにも共通する部分がありますが、身体で感じ・考える経験を、学生にも伝えていこうと考えています。

島 健

  • 基盤教育センター
    教授

横浜国立大学教育学部体育科卒、同大学院教育学研究科修士課程修了。修士(教育学)。上智大学文学部講師、准教授などを経て、2014年より現職。

基盤教育センター

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University