電気エネルギーの節約につながる、光通信デバイスの開発に取り組む

コンピューターの集積回路を光通信に変換する新たな光デバイスを研究、開発している理工学部の下村和彦教授。この研究がなぜ今、必要とされているのか、さらに、実用化への一歩となった、集積回路の基板と半導体の接合技術などについて語ります。

私たちの生活に欠かせないスマートフォンやパソコン。こうした情報端末からインターネットを通過するデータ通信量は10年ほど前から年率約30%ずつ増加し、2020年は前年比57.4%と急増しました。これは新型コロナウイルス感染症の影響で在宅ワークなどが普及したためです。こうした環境下でも大きなトラブルなく、インターネットが使えているのは大容量のデータを高速で送ることができる光通信が普及しているから。一方で技術的な問題から光通信でなく、まだ電気で動いている部分があります。

例えばインターネットの中継施設であるデータセンターには、サービスを24時間、利用者に提供するためのサーバ用コンピューターが何万~何十万台と設置されていますが、サーバ間やコンピューター内の集積回路は電気配線です。アメリカ、Google社のデータセンターの消費電力は原子炉一基分と報告されており、大量の電力をどう確保するかが課題となっています。新たな光通信デバイスができれば、光通信がさらに広がると同時に電気エネルギーの節約につながるのです。

接合部にすき間が少しでもあると、光に変換されない

私が取り組んでいる光通信デバイスは、コンピューターの集積回路に取り付ける「シリコン基板レーザ」。これまで電気配線だったものを光通信配線に置き換えたものを作ろうとしています。そのためには集積回路に送られてきた電気信号を半導体レーザで光の点滅に変換する仕組みを実現する必要があります。しかし、集積回路の基板はシリコンでできていて、光とは相性がよくない。レーザの光源となる半導体のインジウムリンという材料を接合しても、一向に光に変換されませんでした。

研究を進めるうち、シリコンとインジウムリンの接合部に、気泡やすき間が少しでもあると、光が出ないことが分かりました。そこでインジウムリンを金箔より薄い1マイクロメーターの薄膜にして貼り付ける方法を考案しました。これがうまく行き、光を出すことに成功しました。

あきらめかけたとき、研究者仲間のアドバイスが突破口に

次の課題は、光を放出する層の耐久性でした。電流を流すと熱でこの層が劣化してしまうため、基板を常に冷却させなければならなかったのです。これでは実用化ができないので、強度を高める研究を重ねました。そして2016年、室温で電気を光に変換することに成功。ただし、これは電流がパルス状に変化して瞬間的に流れるパルス電流下で実現したものであり、現在は、直流電流の状態で光を出し続けることを目標に、研究を継続しています。

研究開始後1~2年はレーザのチップを何千個と作っては失敗し、行きづまりかけました。この状態を救ってくれたのは、関連学会や他の大学の研究者仲間です。とくに半導体レーザの研究者たちからのアドバイスが突破口になりました。研究の原動力はこうした仲間たちの支えと、「研究を通して社会に貢献したい」という気持ちです。エネルギー問題の解消に役立てるために、1日も早く、実用化につなげたいと考えています。

最近では、「半導体ナノワイヤ構造」の研究も行っています。ナノワイヤとは1mmの100万の1の細線のこと。半導体をナノワイヤ状にして集めると表面積が大きくなるので、太陽電池への応用が期待されています。光デバイスと同様に省エネにつながる研究であり、こちらもやりがいを感じています。

この一冊

『磁力と重力の発見〈3〉 近代の始まり』
(山本義隆/著 みすず書房)

古代・中世〈1〉、ルネサンス〈2〉との3部作のうちの近代編。シリーズで読むと電磁気学の歴史がよく分かります。中世までは磁力が魔術などと関連していたこと、物理学者のクーロンの実験から近代物理学が急速に形成されて行ったことなど、物語のように読めます。

下村 和彦

  • 理工学部機能創造理工学科
    教授

東京工業大学工学部電子物理工学科卒、同理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。東京工業大学工学部助手、上智大学理工学部専任講師、助教授などを経て、2002年より現職。

機能創造理工学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University