自動運転や仮想空間といった新しい技術は、従来の法では対応しきれない場面を生む可能性があります。法学部の白石友行教授は、最先端技術の進歩のなかで人の責任と義務をどう規定するかを研究しています。
私の専門は民法全般ですが、最近おもに取り組んでいるのは自動運転、AI、仮想空間、アバターといった最先端技術に関する法的な研究です。
現在の損害賠償責任に関するルールは、人間の判断や行動に落ち度や過失があった場合にその人間に責任を課すというものです。主語は人間なのです。しかしAIが自律的に判断や動作をする場合、人はその判断や動作に関わっていません。損害賠償を誰が負うべきかが問題になります。
代表的な例はAIによる自動運転です。従来、自動車事故の責任を負うのは運行供用者、つまり自動車の運行を支配しこれによって利益を得る人でした。しかし自動運転の場合、運転を支配しているのは人間ではありません。責任を負うべきなのは、運転席に座っている人なのか、自動車製造者なのか、あるいはAIそのものなのか。
現状では運転供用者が責任を負うことになっていますが、完全自動運転の実現まであと10年未満とも言われます。そこを見据え、法的な整備はもちろん、企業のガイドラインや倫理原則にも着目して研究を進めています。
仮想空間で被害を受けたとき、現実の「私」は被害者か
新しい技術と法の関わりを探るためには、その技術を理解する必要があります。自動運転についても、技術開発に関わる研究者から教わったり、自動運転車に試乗させてもらったりしています。
仮想空間における法的な責任についても興味があり、どんな問題が起こるかを知るために、私自身もアバターをつくって仮想空間を体験してみました。アバターの性別は女性です。私個人とはまったく別のキャラクターで活動する面白さを実感しましたが、逆に不安も感じました。もし仮想空間で女性の私が誰かに襲われた場合、それは現実の私自身への危害として、法的に訴えることができるのでしょうか。非常に難しい問題です。
現在、仮想空間固有の法はありませんし、今ある法がそのまま適用されるかどうかも不明確です。また、仮想空間には世界中の人たちが集まってきますから、問題が起きたときに、日本の法を使えるのかも定かではありません。仮想空間がどの国に所属するかも決まっていないので、法における国際的な調和も今後の検討課題です。
技術の発達を促進しながら、人の存在を忘れないために
技術の進歩を法で制御するのか、あるいは進歩を支える形で法を制定するのか、これは常に人類に問われているテーマです。AIは、現代におけるその代表と言えるでしょう。
AIに関わる人の責任を重くしすぎると技術の開発が遅れます。だからと言ってその責任を軽くしすぎると、人の権利が十分に保障されません。イノベーションの促進と権利保障のバランスには注意が必要です。
私の研究の発端は、法が人をどう捉えているかを知りたいという思いです。民法が主に扱うのは財産や家族で、個人はあまりクローズアップされません。人の多様性が重視される現代、個人の多様な側面に光を当てる法の設計ができないかと、私は考えるのです。極端な例のようですが、アバターのような「自分ではない自分」の人格にも法が手を差し伸べることができるか、そんな少し先の未来を見据えて法の在り方を考えています。
この一冊
『ローマ人の物語1 ローマは一日にして成らず(上)』
(塩野七生/著 新潮文庫)
ローマ全史を扱った全43巻の長大な物語です。小説としての面白さはもちろん、民法の原型である、ローマ法の背景にある人の生き方を知る意味で興味深い。個人的には8~13巻のカエサルの章が真骨頂だと感じます。
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白石 友行
- 法学部法律学科
教授
- 法学部法律学科
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慶應義塾大学法学部卒、同大学院法学研究科修士課程修了、博士(法学)。三重大学人文学部准教授、筑波大学ビジネスサイエンス系准教授、千葉大学大学院社会科学研究院教授などを経て、2025年より現職。
- 法律学科
※この記事の内容は、2025年6月時点のものです