保険制度が健全的かつ効率的に機能するように、法的な視点からチェックする

法学研究科法曹養成専攻 
教授 
深澤 泰弘

事故、病気、天災、そして死。そうした「もしも」のときに、私たちを支えてくれるのが保険です。法学研究科の深澤泰弘教授は、保険制度の健全性と効率性が維持されるために法律がどのように機能すべきか、研究を続けています。

私たちの日常生活にはさまざまなリスクがあります。火事で家が焼ける、自動車事故を起こす、病気で入院する、家族を残したまま死亡する……。これらを未然に防ぐことはなかなか難しいですが、事後の救済方法として経済的な損失を軽減することはできます。それが保険制度です。

民間の保険会社は、さまざまなリスクに備えて保険商品を開発し、私たちはその中から必要な保険を購入することができます。しかし保険は、家電や化粧品などと違って買う前に試してみることができませんし、保険料の対価である保険金を受け取ることができるのは「もしも」のときだけです。それでも「保険があれば安心できる」と思うから、多くの人は保険契約を結ぶのです。その信頼を維持するためには、保険法を始めとする法律が必要です。

不当に保険金を受け取る人がいては絶対にいけない

私の専門は、保険制度にかかわる法律です。なかでも注目しているのは、保険制度の健全性と効率性の調和です。

健全性とは、保険金が支払われるべきときには確実に支払われ、支払われてはいけないときには絶対に支払われないという正しさです。たとえば保険金目当ての殺人や不正請求といった保険金詐欺等に対して、容易に保険金が支払われてしまうのでは、保険制度は信頼を失います。一方で、健全性ばかりを意識しすぎるとコストがかさみ、かえって保険制度を利用しにくいものにしてしまいます。ゆえに、効率性も重要になります。

この2つの調和を図るために、加入段階で契約者が保険会社に伝えるべき情報を規定する告知義務や、受取人に関するルールなどが保険法に定められています。現在の保険制度に対して、法律は十分な機能を果たしているのか、果たしていないとすればどのような運用がなされるべきなのか、海外の事例なども参考に研究しています。

新しいリスクに対する保険商品に必要な法制度とは

また、私は新しいリスクに備えた保険商品に対する法規制にも関心があります。サイバー犯罪やサイバートラブルは増加中ですし、AIの発展でさらなるリスクにさらされる可能性があります。地球環境の変化で大災害も増えていますし、超高齢化で、長生きすることがリスクとして顕在化しています。

これらの危機に備えて新しい保険商品が開発されていますが、法的な問題はないか、抜け穴はないか、現在の法律で十分でない場合にはどのような新しい制度が必要なのか、それも私の研究テーマです。

保険の信頼性が高まることは、社会全体の豊かさにも寄与します。たとえば0.1%の確率で1000万円の損失が発生する「もしも」に備えて、収入の多くを貯蓄に回して1000万円を用意しなければならないのでは、買い物や旅行等を我慢する家庭が増えてしまい、経済はまわりません。

しかし保険制度があれば、このような場合1万人が1000円を出しあうことで、不幸にもその損失が発生した人に1000万円を届けることができます。最小の資金でリスクに備えられるので、他のことにお金を安心して使うことができます。極端な言い方をすれば、保険とはただの約束です。でもその約束は、けっして裏切られてはいけない。その信頼を守るために法律はどうあるべきか、これからも追い続けていきたいと考えています。

この一冊

『保険法』
(山下友信・竹濵 修・洲崎博史・山本哲生/著 有斐閣)

大学院生のときに初版本を手に取り、この本を熟読して保険法を学び、研究テーマを探しました。初心者向けのようでいて奥の深いこの本は、今も新版が出るたびに精読しています。私の人生で、最も繰り返し読んでいる本の一つです。

深澤 泰弘

  • 法学研究科法曹養成専攻 
    教授

国学院大学法学部卒、東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了、同博士課程後期単位取得退学。修士(法学)。岩手大学人文社会科学部准教授、同大学教授を経て、2025年より現職。

法曹養成専攻(法科大学院)

※この記事の内容は、2025年6月時点のものです

上智大学 Sophia University