原子がちょっと変わった規則で並んだ固体を「準結晶」、不規則に並んだ固体を「アモルファス」といいます。理工学部の酒井志朗准教授は原子の並び方と固体の性質の関係を研究しています。まだ、わからないことが多い、この分野を研究する魅力について語ります。
私の専門は物性物理学で、このうち、固体の性質を理論的に調べる研究をしています。特に力を入れているものの一つが「準結晶」です。固体はたくさんの原子が集まってできており、この原子が周期的に並んでいるものを通常「結晶」といいます。準結晶はこれとは違い、原子が周期性とは別の規則に従って並んでいる固体です。
原子は正の電荷を持つ原子核と、負の電荷を持つ電子でできています。電子は原子から少し離れた位置で動き回っており、この動きが物質の性質の多くを決めています。固体中の原子の並び方が変わると電子の動き方が変わるため、物質の性質が変化します。例えば、電気の流れやすさの違いは、車が碁盤の目に道路が張り巡らされている街ならスイスイ走れるのに対し、曲がった道路が入り組んだ街では走りにくいのに似ています。
私は、原子の並び方の規則性を変えたときの電子の動き方の変化を、コンピューターシミュレーションを使って解析し、物質の新しい性質を見いだすことに取り組んでいます。
身の回りに見つかる新しい固体構造のヒント
もう一つ、固体物理学に「ハイパーユニフォーム構造」を導入する研究も行っています。この構造は、原子がたとえ不規則であっても、全体としては粗密がなく均一に分布しているのが特徴です。ハイパーユニフォーム構造は身の回りのさまざまな場面で見つかっています。たとえば、視力に優れる鳥の網膜の光受容体や植物の葉の葉脈の分布などがあり、粗密の少ない構造が生存競争の結果として選ばれてきたと考えられています。
私は準結晶中の電子の分布がハイパーユニフォーム構造であることを発見しました。準結晶中では電子は不思議な模様を描いて分布しますが、その分布を特徴づけるのにハイパーユニフォーミティの枠組みが役に立つことも見いだしました。電子が描く模様は準結晶の性質にも影響しますので、むしろ模様の変化を積極的に利用すれば、物質の性質をコントロールする新しい指針が得られるのではないかと考えています。また、ハイパーユニフォーミティの枠組みをアモルファスも含めた、さまざまな固体へ展開していこうとしています。
超伝導や磁石に準結晶の構造を導入する取り組みも
私がコンピューター上でシミュレーションした結果を、実際の物質中で見いだしたり、具現化するには実験系の研究者の協力が不可欠です。このため、さまざまな分野の研究者と共同研究を進めています。固体物理学の世界では私のように「結晶でない固体」を研究対象にしている人は少なく、ごく基礎的な事柄ですら未開拓なことが多いため、やりがいを感じています。このほか、超伝導や磁性体の研究も行っています。これらを準結晶や不規則ハイパーユニフォーム構造と合わせると、研究にさらなる広がりが生まれます。
学生の皆さんには、こうした未開拓分野を研究する面白さを伝えていきたいと思います。また、国内外の研究室と数多く共同研究を行っていますので、希望する学生には研究滞在などの機会を作り、さまざまな国・大学の人々と交流し、多様な考え方に触れられるようサポートをしたいと思っています。
この一冊
『第二の不可能を追え!』
(ポール・J・スタインハート/ 著 斉藤隆央/訳 みすず書房)
著者は準結晶の概念を考え出した理論物理学者。自然界に準結晶はあるのか、という問いの答えを追い求めて、仲間たちと世界中を渡り歩く話です。その展開はスリルに満ちていてさながらミステリー小説のようです。研究のワクワク感が伝わってくる一冊です。
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酒井 志朗
- 理工学部機能創造理工学科
准教授
- 理工学部機能創造理工学科
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京都大学理学部卒、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。博士(理学)。東京大学大学院工学系研究科、ウィーン工科大学、仏エコール・ポリテクニークでの博士研究員・助教、理化学研究所上級研究員などを経て、2025年より現職。
- 機能創造理工学科
※この記事の内容は、2025年6月時点のものです