経済学部経営学科のアダム・ジョンズ教授が担当するゼミでは、2019年度からグローバル市場における文化・創造性産業を取り上げる産学連携プロジェクト「SOTOBORI PROJECT」を実施しています。工芸やものづくりなどのクリエイティブ産業を授業で取り上げ、各業界の課題解決に対してゼミ生たちが協働して考えた海外展開やリブランディング企画を企業担当者に提案してきました。ゼミ生たちは、こうした学生同士の協働を通じて、チームでの問題解決スキルを養い、業界の経営課題について理解を深めています。
今年度秋学期は、“次世代のリーダーの視点から東京の工・芸・術の海外展開を考える”をテーマに日本の伝統産業・伝統工芸を取り上げました。非常に長い歴史を持つにもかかわらず、国内市場が縮小の一途をたどっている日本の伝統産業・伝統工芸。日本の伝統的かつ文化的特性を活かして海外市場へ展開していかなければ、需要の低迷や人材の不足によって産業がさらに減衰していく危機的な状況を前に、業界・行政がどう対応していくのか未だ検討中です。この状況を受けジョンズ教授のゼミでは、伝統的な技術を現代のニーズにどう当てはめていくのかを考える課題を提示しました。
ゼミに協力いただいたのは、株式会社龍工房(組紐)・有限会社丸久商店(注染「新江戸染」)・株式会社江戸切子の店華硝(江戸切子)の3社。3社とも東京都「江戸東京きらりプロジェクト」モデル事業者に選定され、国内外から注目を集めています。また、授業のアドバイザーとして、第一線で工芸品を海外展開している株式会社Culture Generation Japanの堀田卓哉氏にも協力していただきました。
初回授業では、海外展開に取り組む産業側と、海外展開を後押しするコンサルティング側から、伝統産業・伝統工芸の現状について説明がありました。最初に、堀田氏が「伝統的モノづくりの海外展開」と題して、伝統工芸の市場規模と世界から見た日本への期待について解説。「世界で見ると勝ち筋の市場。まずはマイナスなイメージをなくしてほしい」と伝統工芸への期待を強調し、海外展開していくプロセスを具体的な事例を挙げながら紹介しました。
次に、実際に海外展開に取り組む3社から、海外展開の過去事例とともに、現状抱える課題について説明がありました。
実際に伝統工芸品を見ながら、その魅力を肌で感じる場面では、そのクオリティの高さにゼミ生たちから感嘆の声があがりました。
また、授業期間中、ゼミ生たちは5人ずつ3つのチームに分かれ、それぞれの企業とタッグを組み、工房視察を行いました。生産現場の見学や社員へのヒアリングを通して、ものづくりの生産プロセスや直面する課題について深い理解を得ることができました。
最終授業日のプレゼンテーションでは、各企業の担当者や堀田氏をはじめとした審査員を前に、ゼミ生らが各企業の課題に対して改善提案を行いました。有限会社丸久商店(注染「新江戸染」)チームは、小学生とその保護者をターゲットに伝統工芸を身近に感じてもらうための防災頭巾カバーの制作・販売を、株式会社龍工房(組紐)チームは、組紐による空間装飾の可能性を広げる神社・空港でのイベントを、そして株式会社江戸切子の店華硝(江戸切子)チームは、海外顧客獲得を目的としたクライアントカルテの作成やInstagramの運用方法を提案しました。いずれも学生ならではの着眼点と大胆な発想があると高く評価され、参加学生にとっては貴重な学びの場となりました。
本プログラムのコーディネーターを務めた経済学部経営学科のアダム・ジョンズ教授は、「このプロジェクトの目標は、単に『学生にしては良い提案』に留まらず、クライアントが持続可能な事業として取り入れたいと感じるような、革新的な提案をチームが生み出すことです。3社の協力企業から実施に向けた前向きなフィードバックをいただき、大いに感謝しています。今後は、実施計画に取り組みながら、少しでも工芸をより身近で魅力的なものへと変化させていくことを楽しみにしています」と振り返っています。