経済政策が専門分野である外国語学部のモンフォール教授。フランス政府や国際機関でのリサーチ経験も活かしながら、現在は日本の経済政策に注目し、起業やイノベーション支援に必要な政策立案の在り方について研究しています。
私の研究対象は、経済政策です。例えば、優れた政策はどのように立案されているのか、政策で失敗が起きる原因はどこにあるのかというようなことを研究しています。世界は今、気候変動やデジタルトランスフォーメーション、高齢化社会など、難しい課題を抱えており、試行錯誤や失敗を何度も繰り返す余裕はありません。事例を検証し、そこから洞察を得て、よりよい政策立案に貢献したいと考えています。
私はこれまで国際通貨基金(IMF)やフランス財務省での勤務に加え、各国の経済活動に関する研究に携わってきました。IMFでは米国ワシントンD.C.を拠点にアフリカや南米諸国を担当、フランス財務省時代は東京を拠点に北東アジアやオセアニアの経済について調査し、レポートしていました。現在は、日本の経済政策について研究しています。
格差問題と環境問題を置き去りにしたアベノミクス
私は日本の「失われた10年」をテーマに、セバスチャン・レシェヴァリエ先生と共同で日本のマクロ経済政策および経済の回復になぜこれほど時間を要したのかについて考察しました。成長鈍化など要因は複合的ですが、当時の政府や市場関係者、国際機関のすべてが日本経済に対して過度に楽観的な予測をしていたため、痛みを伴う迅速な対応策を取ることを遅らせたと指摘しました。
また、安倍晋三元首相が推進した経済施策であるアベノミクスの成果についても論文を執筆しました。国際貿易条約の締結、外国人労働者の受け入れ、訪日外国人客の積極誘致などの分野で成果を出したことは、保守派の首相としては異例でした。その一方、格差問題や環境問題は置き去りにされ、その後の内閣に委ねられることになったのです。
今は、日本が抱える課題の一つ、起業やイノベーション推進を促すために必要な経済政策について研究しています。元米国財務長官のラリー・サマーズ氏とノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン氏による2012年の対談では、日本の成長鈍化が深刻化した理由に言及がありました。高齢化の影響は否定できませんが、その一因を日本の島国根性や起業家精神の欠如にあるといったコメントには同意できません。
日本は多くの起業家を輩出してきた
日本のユニコーンと呼ばれる評価額10億ドル以上の新興企業の数は、日本より人口が少ないドイツやフランスなどの3分の1ほどしかありません。日本の経済規模を考えると、なぜユニコーンが増えないのかという疑問が湧いてきます。
私はまず、文化的な要因と、政府の政策という2つの仮説を立てて検証しました。歴史を振り返ると、明治時代から昭和の高度成長期まで、日本は数えきれないほどの起業家を輩出しており、最初の仮説である文化的要因は当てはまりません。そこで、今は他国と比較しながら政府の政策や制度的な環境について検証を進めています。
アメリカ・シリコンバレーと比較するだけでなく、世界銀行によるビジネス環境ランキングや世界経済フォーラムの指標、さらにこうしたランキングや指標の元となるデータの詳細やその収集方法の詳細も確認しています。法人税率といった特定の要因により順位が大きく変動することも考慮し、起業の促進に必要な要素を見極めています。
世界で最も高齢化が進む日本にとって、制度を自由化し、イノベーションを促す現実的な解決策を打ち出していくことは、非常に重要なことだと考えています。
この一冊
『Thinking, fast and slow(邦題:ファスト&スロー)』
(Daniel Kahneman(ダニエル・カーネマン)/著、ペンギン・ブックス)
ノーベル賞経済学者による本ですが、心理学的な視点も含まれています。「資本主義のエンジン」と題した章では、起業のリスクや困難に耐えられる強さの源は楽観主義と論じています。自信過剰はいけませんが、若者には元気な楽観主義者であってほしいです。
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ブリウー・モンフォール
- 外国語学部フランス語学科
准教授
- 外国語学部フランス語学科
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フランスの社会科学高等研究院で経済学博士、国立統計・経済行政研究院で経済統計士資格取得。パリ高等師範学校を経て、国際通貨基金(IMF)、フランス財務省に勤務したのち、2017年より現職。
- フランス語学科
※この記事の内容は、2022年9月時点のものです