7月27日、四谷キャンパスにおいて、ノーベル平和賞カンファレンス in Tokyo 「核兵器の脅威への対応」を開催しました。本カンファレンスは、ノーベル平和賞の選考を担うノルウェー・ノーベル委員会の事務局でもあるノルウェー・ノーベル研究所が主催し、上智大学および日本原水爆被害者団体協議会(以下、「日本被団協」)が共催するもので、本学学生、教職員、高校生、一般の方、報道各社合わせて約700名が来場しました。カンファレンスの様子は本学YouTubeチャンネルでも同時配信されました。
今年は原爆投下80周年の節目の年であり、昨年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことも重なり、核兵器問題への関心が世界的に高まっています。この夏、日本から世界に向けて核問題や核軍縮のメッセージを発信することをノーベル研究所が決定し、アカデミックな発信の場として本学に打診いただいたことが契機となり、カンファレンスを共催することとなりました。なお、ノーベル研究所がノルウェー国外で、受賞者と共にイベントを開催するのは今回が初めての試みです。

カンファレンスはサリ・アガスティン上智学院理事長の開会挨拶により開会し、梅宮直樹グローバル教育センター教授の司会のもと、前半はノルウェー・ノーベル委員会委員長のヨルゲン・バトネ・フリードネス氏、日本被団協代表委員の田中熙巳氏、日本被団協事務局次長の児玉三智子氏による基調講演がそれぞれ行われました。
基調講演

フリードネス委員長の基調講演は、「「核のタブー」堅持のために:人類への呼びかけ」のタイトルで、被爆者(hibakusha)の証言が核兵器の非人道性を世界に伝え、核兵器使用を道徳的に許容できないものとする「核タブー」を形成する上で果たした役割は大きいと述べました。また、「被爆者は被害者であるだけでなく、証人であり、教師である。不安定な核の時代に突入する瀬戸際にある現在、被爆者のメッセージに立ち戻るべきだ」と強調し、「この会場にいる若い皆さん、この記憶を未来へと守り、伝えてゆくのはあなたたちです」と呼びかけました。

次に、日本被団協の田中氏は、「日本被団協の歴史と核廃絶運動の未来」と題し、被爆後、占領軍に沈黙を強いられ、偏見と差別に苦しめられた被害者によって設立された被団協の歩みを紹介しました。さらに、「極めて非人道的な核兵器は速やかに廃絶しなければならない。原爆被害者の体験談を若い皆さんが引き継ぎ、核のない社会を求めて共に頑張りましょう」と述べました。

続いて日本被団協の児玉氏からは、「核兵器も戦争もない世界を次世代へ」というタイトルで、当時7歳だった時の鮮明な被爆体験を語りました。児玉氏は、「日本は核廃絶にむけて世界をリードすることが求められている。核兵器が地球上にあること自体が人道的に許されることではない。核兵器を作るのも使うのも人間、無くすことができるのも私たちです。青い地球を次世代に渡しましょう」と語りかけました。
3名の基調講演の終了後は、上智大学管弦楽団の学生カルテットによる記念演奏「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」が披露されました。
スピーチおよびパネルディスカッション

カンファレンス後半では、スピーチおよびパネル討議が行われました。
登壇者はノルウェー・ノーベル研究所所長のクリスチャン・ベルク・ハルプヴィーケン氏(モデレーター)、ノルウェー・ノーベル委員会副委員長のアスレ・トーヤ氏、一橋大学法学部の秋山信将教授、長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授、本学総合人間科学部の小松太郎教授の5名で、世界秩序が急速に変わる中での核兵器問題について、アカデミックな視点からの対話が行われました。

トーヤ氏は、国際政治における「大国政治」の現状を分析し、米中対立やロシアの核威嚇、アメリカの軍事的選択の制約が国際秩序を揺るがしていると指摘。核兵器の存在が不安定化を招いており、核廃絶の必要性を訴えました。
秋山教授は、NPT(核兵器不拡散条約)体制の信頼性低下を指摘し、地政学的対立や拡散リスク、核軍縮の分断が課題であると述べ、制度改革や包括的対話を通じた信頼回復が必要と提言しました。
中村氏は、長崎の平和教育の限界を指摘し、軍縮教育の導入を提案。若者が核問題に主体的に向き合う力を育む教育の重要性を強調しました。
小松教授は、平和教育の国際的潮流を踏まえ、長期的思考や世代間倫理の視点を取り入れる必要性を述べました。核兵器の被害を共有し、次世代への責任を果たす教育の重要性を訴えました。
その後のディスカッションでは、教育の役割や、グローバルにどう記憶をシェアしてゆくか、希望をもって注力すべき点などについて、意見交換が行われました。最後に、田中氏と児玉氏からもコメントがあり、2時間にわたるプログラムは閉会しました。
本カンファレンスの動画は上智大学公式YouTubeチャンネルでご覧いただけます。