文学部新聞学科生が手掛けた4作品が東京ビデオフェスティバル2023で入賞しました

“市民による市民のための映像祭”と呼ばれ、ドキュメンタリーやドラマなどジャンルを問わない映像作家の登竜門の「東京ビデオフェスティバル2023」で、文学部新聞学科の学生たちが制作した4作品がTVFアワードに入賞しました。ひとつの大学から4作品が入賞するのは全国最多で、合計8人の学生が受賞者に名を連ねました。

同コンクールは今年14回目を迎え、全国各地や海外に住む10代から90代まで多様な世代の人たちが103作品を応募し、うち37作品が入賞しました。上智大学から入賞した4作品は、ドキュメンタリーを制作する水島宏明教授のゼミの授業で制作されたものです。

水島ゼミに所属する学生が制作したドキュメンタリー作品は、他にも丹波篠山映像大賞で準大賞となる兵庫県知事賞に選ばれるなど、さまざまな映像コンクールで入賞しています。

文学部新聞学科ではテレビ局に匹敵する機材が揃った制作環境の下での実践授業を通じ、さまざまな映像作品を制作しています。一連の受賞は学科の特徴である実践授業の成果といえます。東京ビデオフェスティバル2023に入賞した新聞学科生の作品は以下の通りです。


中野ちさとさん(3年)制作「時を紡いで」

自然と触れ合うことを重視するユニークな幼児教育で知られた横浜の幼稚園が3年前に閉園しました。園長をしていた女性が体調異変を感じて判明したのがPLS(原発性側索硬化症)という病気でした。運動神経が次第に低下し、やがては死に至るという恐ろしい神経性難病です。前向きな元園長は夫婦で自然豊かな山梨県に移住し、電動車イス生活になった現在も時々近隣の子どもたちと交わり、幼児教育に関わり続けています。糸を「つむぐ」のと同じように次世代に何かを残そうとする日々から人生の意味を問いかけます。

倉持陽菜子さん(3年)制作「水俣と生きる〜第1話水俣病と宝物〜」

胎児性水俣病患者の男性が「語り部」として自分の体験を語りながら公害病の恐ろしさを子どもたちに伝える姿を描きました。当初は自分の障害が水俣病によるものだと知らなかったという男性。自らの境遇を「神様からの試練」と受けとめ、水俣病患者としていろいろな人に出会った経験を“宝物”だと語る男性の言葉を中心にして水俣病の過去と現在を伝えています。学生にはハードルが高いナレーションなしの“ノーナレ”という手法に挑んだ意欲作です。

古屋蓮さん(3年)制作「“桜守”のいる屋台

神社の境内で時々開かれる屋台の飲み屋。アルコールなどの飲み物だけ出して、客が食べ物を持ち寄るユニークな空間です。コロナ禍で「密」なことに神経質な人々が増え、世の中から居場所が減っていくなか“つながり”を求める人々の数少ない拠り所になっていました。

屋台を引いてこの飲み屋を営む主人にとっても、窮屈になる一方の社会でほっと一息つける安らぎの場でした。ここには大都会の孤独な生活で温もりを求める大人たちや塾通いでストレスを抱える子どもたちなど様々な人たちがやってきて、言葉を交わし癒やし合います。しかし近所の住民から「うるさい」などと苦情が来て屋台も営業時間を短くするなど「自粛」を余儀なくされました。

世知辛い社会の片隅で営まれる屋台は現代日本人が必要としている“居場所”の象徴といえるかもしれません。作者は屋台引きの主を桜の花を咲かせる桜の木の番人“桜守”と位置づけ、居場所とは何か、人と人とのつながりはどうあるべきか考えさせる作品にしています。

水島ゼミ2年の基町団地班(大﨑莉子さん、北條あおいさん、銭晟揚さん、熊西叶乃さん、井野川真梨さん)制作「ふるさとを求め続けて〜中国残留孤児のいま〜

戦前、日本が開拓団を送っていた中国・東北部の旧満州。そこで暮らしていた生活から一転し、敗戦と旧ソ連軍の侵攻とともに親が殺されたり、生き別れたりして中国人に育てられた日本人の子どもたちがいました。“中国残留孤児”と呼ばれて、1972年の日中国交正常化以降にようやく祖国・日本に帰国することができました。

中国では「日本人」であることを隠して生き、あるいは日本人だとわかって周囲から激しい差別を受けながら生きてきました。日本に帰国した後には日本語をうまく話せずに中国語でしか意思疎通ができず、多くの残留孤児1世たちは孤立しました。仕事を見つけるのも苦労の連続でした。

取材班は全国各地にある残留孤児一世が固まって暮らす拠点の一つ、広島の基町団地アパートを訪れました。中国残留孤児も2世3世と子や孫の代になっていますが、1世は高齢化し、多くが現在、老人施設のデイサービスなどに通い、余生を過ごしています。話を聞くと「本当は中国に帰りたいけどいまさら戻れない」などの本音が飛び出します。2つの国の間で翻弄され、「どちらにも自分の居場所がない」という引き裂かれた人生。その断面を浮き彫りにしました。

上智大学 Sophia University