初習言語の授業を「つまらない、役に立たない」と言わせないために

言語教育研究センター
教授
廣康 好美

スペイン語教授法を研究し、使える語学力が身につく授業のあり方を模索する言語教育研究センターの廣康好美教授。注力してきた教科書作成の実際や、音声翻訳などでは得られない話し言葉の魅力などについて語ります。

私の専門はスペイン語学です。中でもスペイン語教授法の研究に取り組んできました。外国語の学習は外国語専攻以外の学生には「つまらない、役に立たない授業」というイメージが昔から強いのが実情です。この現状を打破して、限られた時間内でもきちんと学べばひとつの「道具」として有効に使える言語を身につけることができることを示したいのです。そのためにどのような学習法が効果的かをいつも考えています。

初めてのスペイン語を効果的に学べる教科書を作成

欧米では短い時間の学びでも、「スペイン語を学んだから、スペイン語を使える」が当たり前。実際、初学者でも習ったことを臆せずどんどん使っています。これは使える言語を身につける方法で授業を進めるからです。しかし、日本では残念ながら多くの場合、授業がそのような目的で実施されていません。私は同僚とともに2002年、『生活@スペイン.スペイン語』(芸林書房)という大学生向けの教科書を出版しました。ペアやグループでさまざまな練習を重ねていくうちに、文法を文法だと意識することなく理解するように考えて作ったものです。文法学習への抵抗感を減らし実際に言語を使いながら文法の規則を自然に習得することを目指しました。

その後、現在に至るまでに複数の教科書、独習用の本、文法書、辞書などを手がける機会に恵まれました。NHKラジオのスペイン語講座も数回担当させていただきました。最近ではネイティブの教員と3人で出版したMuy bienという教科書が広く使われています。ここでは学生の現状に合ったテーマを選び、文法を意識しないで文法練習するアクティビティを用意したりと、初めてのスペイン語を楽しく学べる工夫を施しています。よく勘違いされるのは、「この先生は文法じゃなくて会話を教えている」と思われることです。そうではなく、目指しているのは「実際に使える言語を使いながら学ぶ」ことです。決してひと昔言われていたような文法か、会話か、という問題ではありません。上智大学でも授業を通じてスペイン語をもっと学びたいと思う学生が増えてきており、手ごたえを感じています。

人間同士のコミュニケーションがより貴重な時代に

英語に加えもう一つの外国語を身につけることは、どの学生にもプラスになるでしょう。大学を卒業して社会人になり、仕事先でスペイン語圏の人に出会った際、スペイン語で「こんにちは」と言ったらそれだけで相手の顔がほころび、双方の距離はとても縮まることでしょう。

自動翻訳の技術がさらに進めば外国語を学ぶ意義はなくなる、という人もいます。しかし、そのようなことはないと私は確信しています。技術の進化で外国語でのコミュニケーションが楽になることは確実ですし、私もそれを期待していますが、たとえ音声翻訳が一般的に使われるようになっても機械の音声は今のところ、感情のこもった人間の声の魅力にはかないません。今後は自動翻訳も上手に取り入れながら、外国語を使って人としての触れ合いができることが大切なのではないでしょうか。

上智大学ではスペイン語のほかにも、アジアやアフリカの諸語などを含む全22言語の授業を提供しています。私が所属する上智大学言語教育研究センターでは、初めてこうした言語を学ぶ人のために、教員が連携してより効果的な授業のあり方を探っています。こちらの活動にも一教員として、さらに力を入れていきたいと思っています。

この一冊

『SAN MANUEL BUENO, MÁRTIR』
(Miguel de Unamuno/著)

著者はスペインの哲学者。大学3年生の時の教科書でした。読みながらその内容と言葉のあまりの難しさに「スペイン語はもう無理」と挫折しそうになりましたが、苦労をして読み切った時、経験したことのない感動を覚えました。それは外国語が自分の言葉になった瞬間だったのかもしれません。

廣康 好美

  • 言語教育研究センター
    教授

上智大学外国語学部イスパニア語学科卒、同外国語学研究科言語学専攻博士前期課程修了。神奈川県立外語短期大学教授、上智大学嘱託講師などを経て、2015年より現職。

言語教育研究センター

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University