2019年6月25日(火)午後7時05分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の2019年度の第4回目が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。
この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生や市民、外交官やNGO職員、国連職員、政府職員、マスコミや企業など、多様な分野から集まった人たちが、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。
第4回目のセミナーでは、防衛省防衛政策局次長の石川武氏が、「自衛隊と平和構築活動 ~PKO活動から能力構築支援まで~」をテーマに講演しました。
会の冒頭、上智大学グローバル化推進担当副学長の杉村美紀教授が挨拶をしました。人間ひとり一人の安心安全の根底を守るというのが、まさにこの連続セミナーのテーマである「人間の安全保障」の考え方です。それは多様性の尊重、社会正義、人間の尊厳などを謳った上智の一連ミッションとよく合致していると、連続セミナーへの期待を述べました。
講演では、石川氏がこれまでの国連PKO活動を振り返りながら、日本の自衛隊がどのように平和構築に貢献してきたかをお話しされました。
PKOはPeace Keeping Operation(平和維持活動)の略であり、現在、世界全体で122か国が、PKO要員を派遣しており、その総数は約10万人になります。活動の規模は様々で、停戦監視のみを行う数千人規模の小さな部隊もあれば、平和構築や文民保護を主要任務とする数万人規模のものまで存在します。
冷戦終結後、国家間の戦争から、国内の異なる勢力が軍事的に衝突する内戦へと紛争の性質が変わるに伴ない、PKOは統治機関の再建を通じた持続的な平和の構築、いわゆる「平和構築」の任務も遂行するようになりました。これは、「複合型/多機能型PKO」とも呼ばれています。
PKO要員の派遣国を見ると、エチオピアやルワンダ、パキスタン、インドなど発展途上国が上位を占めています。これは、①なるべく紛争が発生したその地域で解決しようという意思が働くこと、②PKO要員の派遣費用は、国連から支出されるため、国によっては自国の要員への手当てを上回ること、③高額な重機を使用した訓練を受けることができるため、などが主な理由として挙げられます。
日本に関しては、1992年以降、国際平和協力法に基づき東ティモールや、ゴラン高原、南スーダンなどに部隊を継続的に派遣していましたが、2017年に南スーダンから部隊撤退後、今では司令部要員4名のみが、自衛隊からPKOの任務に参加しています。その一方、PKO予算の負担額は世界第3位です。
続けて石川氏は、2年前まで多くの自衛隊員が派遣されていた南スーダンについて、詳しく説明しました。
1956年にスーダンが独立した当初から、南部では独立戦争がはじまり、2011年にようやく南スーダンが、国民投票によって独立を果たします。すると、2013年末に今度は南スーダン内の部族間で武力衝突が勃発、再び内戦状態に陥りました。そのような中、日本の自衛隊は、2012年1月から、国連南スーダンPKOに施設部隊を派遣し、インフラ整備や、紛争勃発後に、国連PKOの敷地に逃げてきた、南スーダンの国内避難民の支援などを精力的に行ってきました。
また自衛隊は、ケニアにあるPKO訓練センターにも施設部隊を派遣し、アフリカ出身のPKO部隊に、施設部隊の技術やノウハウを伝える研修を行う、いわゆる「能力構築支援」による貢献も続けています。
このように、国連PKO活動に対し、平和主義を掲げる日本の自衛隊も様々な面から貢献する努力を続けてきました。今後、リソースが限られる中、自衛隊として世界の平和構築への取り組みにどう関わるか、今、まさに曲がり角を迎えています。国民的な議論を経つつ、どのような貢献をするか、継続的に考えていきたいとして、石川次長は講演を締めくくりました。
講演を受けて、コメンテーターである上智大学法学部の矢島基美教授は、ご自身の専門分野の視点から、3つの問いかけがありうるのではと、問題提起しました。
1.湾岸戦争の後、国際社会から批判を受けたことを踏まえて人的な貢献への必要性が言われるようになったが、本当に、PKO活動の財政的な負担だけでは、不十分なのか。
2.PKO参加に関しては、武力紛争不関与、武力不行使などを原則にしているが、派遣先は治安が悪く、危険な地域であることが多い。後方支援を目的とするとはいえ、そうした地域への自衛隊派遣に自衛隊内外の理解は得られるのだろうか。
3.日本国憲法は国際協調主義を謳っているが、同時にまた平和主義を基本原理の一つとしている。その平和主義が国連憲章と相容れない部分を含む以上、国連中心主義にもPKO参加にもおのずと憲法上の限界があるのではないか。
これらを受けて石川氏は次のように回答しました。
1.「経済的支援だけでは不十分」とまでは言えないが、その場合、相当な金額を出す必要が出てくる面がある。一方、人的貢献は、支援される国民にとっても見えやすく、たとえ多くの人員を派遣しなくても、その後の二国間関係にもよい影響を与えると考える。
2.PKO部隊の中核は軍事要員。治安も悪いため、支援活動に軍事的な要素は欠かせない。また、紛争が長期化すると、市民にとって武器によって解決することが当たり前になり、 軍事的な手段に頼りがちになる。そうした治安の悪い状況下で、PKOを遂行するには自衛隊にしかできない部分も間違いなく存在する。
3.日本は国連中心主義だが、国連が容認する武力行使は日本国憲法と完全に相いれない面があるかも知れない。けれども憲法には国際貢献活動についてはっきりとした規定はなく、PKO活動が国連の集団安全保障の一環として憲法上も認められるという学説もある。このあたり、これからも議論を続けていく必要がある。
この後、会場に集まった多くの参加者からも十数個に及ぶ質問が石川氏に寄せられ、最後まで熱い議論が繰り広げられました。
またこのセミナーの主催者で司会も務める東教授は、「自分も2017年2月にケニアのPKO訓練センターに講師として呼ばれて、1週間ほど、アフリカのPKO部隊への研修に参加したこともあるが、確かに自衛隊の施設部隊の指導については、現地のPKOの人達から、『上から目線でなく、パートナーとして自分たちに技術指導をしてくれて、とても役にたっている』という評価を得ていることを実感した。一方、こうした能力構築支援を続けていく意味でも、自衛隊が、世界のどこかのPKOに部隊として参加していることは、重要な意義を持つと考えている。現地のPKOに貢献しながら、そのノウハウをアフリカやアジアのPKO要員に伝えていくことができれば、平和作りへの多層的な貢献になる」と話しました。
最後に石川氏は、現在の日本のPKO派遣人数は少なく、国際的プレゼンスが低下していることは事実と述べました。その上で、今後、世界の平和構築の現場で、日本がどのような役割を果すのか、その議論が非常に大事だと考えていると強調しました。