人類の不治の病、戦争。たとえ完治しなくても、数を減らし、早く終結させたい

グローバル教育センター
教授
東 大作

どうすれば戦争を終わらせ、持続的な平和を構築できるのか。解決が難しいテーマに取り組み続ける、グローバル教育センターの東大作教授。現地の声に耳を傾けながら平和を実現するためのシステムの構築を研究し、政策提言につなげています。

2022年2月、ウクライナ戦争が勃発しました。これは第二次世界大戦終結以降、人類にとって最大の危機と言えるでしょう。第三次世界大戦につながる可能性も、核兵器を伴う戦争になる可能性も否定できないからです。ウクライナ戦争をどう終結させるのかは、国際社会全体の大問題です。

私の研究テーマは「戦争を終わせるための交渉」である和平調停、そして「持続的な平和を構築するための活動」である平和構築の二つです。これまでも南スーダン、シリア、イラク、アフガニスタン、東ティモールなどの紛争地やその周辺国に赴き、現地の副大統領や閣僚等との意見交換、一般の人たちへのインタビューやアンケート調査など、現場の声に耳を傾けながら研究に取り組んでいます。

平和構築に求められるのは「排除しない」という思想

すべての戦争にはそれぞれ特有の歴史的背景があり、「こうすれば平和になる」という共通の方法は存在しません。その一方で、現代に起こるさまざまな紛争を横断的に分析することで、見えてくる教訓や智恵があると考えています。

例えば「平和構築」です。せっかく紛争を停止しても、国民から信用される政府がつくれないと再び戦禍に戻ってしまいます。私がいくつもの紛争後の国で調査した結果、四つの重要なファクターがあることがわかりました。一つ目は公平な第三者としての国連の存在。二つ目は、特定の民族や政治勢力を排除しない包摂的な政治体制。三つ目は生活やサービスの向上。四つ目は警察や軍の整備。

この四つが揃うと和平合意が守られやすくなり、新しい政府を受容しやすくなります。これは平和構築の重要な指針だと考え、紛争地も含め世界中の講演で話し、国連幹部や指導者にも伝え考えを広めようとしています。

一方で戦争真っただ中の「和平調停」における「包摂性」については、決まった法則はないというのが私の調査の結果です。交渉の席に誰がつくのか、仲介役を誰に頼むのか、どのように合意に導くかは、当事者たちの思惑や力関係を見ながら柔軟に進めていく必要があるのです。

日本こそ「グローバル・ファシリテーター」にふさわしい国

私はもともとテレビ局の報道ディレクターでした。「平和に貢献したい」という夢を捨てきれず35歳で退職し、カナダの大学院で修士と博士号を政治学で取得し、研究者、国連政務官、国連日本政府代表部公使参事官など立場を変えながら実務と研究の両輪で仕事してきました。調査結果を本や学会誌で出版するだけではなく、政策提言も行っています。

「戦争は人類の不治の病」と言われます。戦争を地球上から消し去ることはできなくても、一刻も早く終わらせ、平和な地域を少しでも増やすことはできると考えています。

世界の紛争の現場で実感するのは、国際社会における日本の信頼度の高さです。さまざまな場所で「日本がやってくれるなら、ぜひ!」という言葉を聞きました。日本は第二次世界大戦以降、長く平和国家を維持し、世界各地で地道な支援を続けてきた国です。対立する集団同士の対話を促進し、一国で解決できない地球温暖化や干ばつ、感染症などグローバルな課題の解決に向けて、国や国際機関、NGO、専門家などが集まり、共に解決策を探るプロセスを作る役割、私が「グローバル・ファシリテーター(国際的な対話の促進者)」と呼ぶ役割を日本は担えると確信しています。

この一冊

『竜馬がゆく』
(司馬遼太郎/著 文春文庫)

坂本竜馬の行動は、ある意味「平和構築」そのものです。敵対していた薩摩と長州の間を和解させ、大政奉還を提案して幕府から明治政府への平和的移行を成し遂げました。中学生の時に出合った本ですが、何度も読み返しています。

東 大作

  • グローバル教育センター
    教授

東北大学経済学部卒業後、NHK報道局ディレクターとして世界国連記者協会銀賞を受賞した「イラク復興 国連の苦闘」などを企画制作。退職後、ブリティッシュコロンビア大学で博士号取得(国際関係論)。国連アフガニスタン支援ミッション和解・再統合チームリーダー、東京大学准教授、国連日本政府代表部公使参事官などを経て、2016年より上智大学。

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※この記事の内容は、2023年5月時点のものです

上智大学 Sophia University