2019年5月14日(火)午後7時から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の2019年度の第2回目が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。
この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生と市民、外交官や国連職員など、多様な参加者が、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。
第2回目セミナーでは、立憲民主党政調会長代理で衆議院議員の山内康一氏が「NGO職員から国会議員へ ~国際協力への思い~」というテーマで講演しました。
会の冒頭、上智大学学術研究担当副学長の江馬一弘教授が、イエズス会が掲げる4つのグローバルな課題や、上智大学の人間の安全保障研究所のテーマ、そして山内氏が掲げる理念が一致することを取り上げて、本講演への期待を述べました。
上智大学グローバル教育センター長の小松太郎教授も続けて挨拶をし、この連続セミナーが、様々な講師を招き、多様な角度から人間の安全保障や平和構築について学ぶ機会を提供しており、学生にとって非常に貴重な機会になっていると述べました。
講演の中で山内氏は、高校時代から現在までの自身の経歴を紹介しながら、どのように国際協力の問題と、政治の課題に向き合ってきたかを語りました。
山内氏は高校時代から国際協力に関心・憧れがあり、国際基督教大学(ICU)教育学部の国際関係学科に進学しました。「貧困=経済的な貧しさ」という当時の考えにも影響を受けて、開発経済学を中心に学んでいきました。また、大学生のうちからNGOで経験も積み、NGOの事務局長に「NGOで働きたい」と相談したところ、「新卒はいらないから、どこかで社会経験を積んで、即戦力になって戻ってきて欲しい」と言われ、山内氏はまずJICAで働いて社会人としての基礎を身につけることにします。
JICAでは相手国の行政機関と折衝する仕事などに携わり、それを通じて、日本の政治の問題にも目を向けるようになりました。実際の業務を通じて山内氏は、日本側の都合だけを考えているような外交の現場を、いくつも目の当たりにしたといいます。こうした経験を経て、教育政策、特に東南アジアへの教育協力を専門にしようと決断しました。
JICAを退職し、従来から考えていたNGOに転職しました。インドネシアや東ティモールなどの国外のフィールドワークにおいて人道支援や社会開発に携わるようになりました。現場に行くと、NGOやNPOなどが政治・行政に直結していることを肌で感じました。30歳に近づいたところで、より専門性を高めたいと、ロンドン大学教育研究所で「教育と国際開発」を専門に修士を取得しました。その後、国会議員を目指すことを決意し、当時の自民党の公募に応じて、2005年に衆議院議員初当選を果たしました。
なぜNGOを辞めて国会議員を目指すことにしたのかについて山内氏は、「NGOが訴える政策を実現するには政治を変える必要があると実感したから」と語りました。そして、国会議員になって目の当たりにしたのは、実際の政策決定プロセスが、合理的で秩序立ったものではなく、政策過程論の「ゴミ箱モデル」に示されるように、色々な政策を持った人の考えが持ち寄られ、様々な政策決定者の感情や判断を経て、政策が決まっていく現実でした。そんな中、「政策起業家」として、タイミングを計りながら、政策を提示し実現する醍醐味について語りました。これまでの自身の経歴に基づいて以前日本の円借款を担当していた「JBIC」 と「JICA」の合併時にJICA法の改正を実現したり、NGO支援策、ODA政策への提言などを行い続けています。一方、これまでは議院運営委員会など国会対策に携わることも多く、自分が一番したい教育分野のことは、まだあまり携われていないと、正直に語られました。その一方、国会議員はある意味スーパージェネラリストであり、こうした経験が将来、新たな政策を実現するための礎になっているはずと話されました。そして国会議員は、10年20年かけていくつかのテーマについて真剣に取り組むことで、「政策起業家」として、専門家になるべきと山内氏は主張しました。
また山内氏は、現在の日本のODAは、日本企業の進出を助けること、つまり短期的な利権が目的になっているものが増え、悪い方向に進んでいると指摘しました。これを山内氏は、「ODAの中国化」と呼び、批判しています。人間の安全保障を唱えた緒方貞子氏が、人道支援や平和構築支援などを行うことが、地球益につながり、それが、最終的には日本の長期的な国益(Enlightened National Interest) になると主張していたことも紹介し、こうした日本のODA支援のよい面を維持拡大することの重要性を強調しました。
他方で、北欧諸国の国民が、ODAの支出に理解があるのは、高福祉国家として、自らの生活にゆとりがあることが大きな要因になっていると指摘し、日本人が、海外への支援についてより前向きになるためには、高福祉国家を実現し、安心できる社会を作ることが重要だと主張されました。
最後に山内氏は、将来的には、平和構築、特に発展途上国の議会制度構築の支援などにもっと貢献したい、また日本のODAを再び充実させるために、北欧の高福祉国家を参考にして日本人の心の余裕を取り戻していきたいと、これからの抱負を語りました。
そして最後に以下のことを学生にメッセージとして話してくれました。
① 学生時代に学んだことが必ず将来役に立つので、しっかり学んで基礎を築いておくことが大事。学び方を学び、社会人になっても学び続けられるようになって欲しい。
② 政策形成や政策実現に不可欠な正しい判断をするために、歴史を縦軸、国際比較を横軸とした座標軸を築けるように努力すること。
③ 10年以上長い期間をかけて、ある分野の専門家になれるように努力すべき。
講演を受けて、コメンテーターの小松太郎教授は、山内氏が自分の強みが活かせる仕事を選んできたこと、JICAからNGOへ移るという珍しい選択をしながら自分が納得する仕事を探し続けたことなどに触れながら、キャリア形成を学生が学ぶ上で、非常に参考になるのではと指摘しました。また、人間の安全保障に関して、自身が担当している教育開発の授業や人道支援の専門家を養成する公開講座について紹介しつつ、こうした分野の専門家を長期的に育成していくプログラムに関する抱負を語りました。また、ODAの要請主義を続けることで、本当に発展途上国の国民の生命や安全を守れるのかという問題提起も行いました。
質疑応答では学生や外部の方々から、多くの質問が山内氏に寄せられました。政治家へのロビー活動の有効な方法、学生時代に具体的にどんな勉強をすべきかなどの質問に対し、山内氏は丁寧に答えてくれました。そして、国内支援と国際支援の両立が大事であること、政府が教育費を十分に拠出していないために日本が階級社会になりかねない危険があることなどを指摘されました。
最後に、この連続セミナーの主催者で司会を務める上智大学グローバル教育センターの東大作教授が、実際にスリランカや南スーダンなどで中国がどのようにODAを行っているかについて語りました。また山内氏が、JICA、NGO、国会議員など、立場を変えながらも、一貫して教育支援や平和構築に関心を持ち、それに関わり続けているのは、まさにそうしたテーマを心から好きだからこそできるはず、と話しました。そして、一生かけて夢中になれるものを是非探して欲しいと、学生や参加者に語りかけました。
これを受けて山内氏は、立場は色々と変わっても、教育や平和という、大きなテーマへの関心と愛着はずっと持ち続けていると語り、会を締めくくりました。
会場には、180人を超える方が詰めかけ、10を超える質問が会場から出されるなど、非常に熱気に満ちたセミナーとなりました。