上智大学は、アミーナ・モハメッド国連副事務総長の特別講演会を2021年10月20日に開催しました。国連副事務総長は、国連システムにおいて国連事務総長に次ぐNo2に位置する立場となります。「持続的開発目標(SDGs)の達成と、混乱する世界における若者の希望を実現するために」と題したモハメッド氏の講演会には世界中から1,300人を超える登録があり、当日も800人を超える人たちが世界中から講演会に参加しました。
この特別講演は、上智大学グローバル教育センターの東大作教授が交渉や企画を行い、実現したものです。講演会の司会も、東教授が務めました。(本イベントの動画は、以下のリンクでご覧頂けます。)
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冒頭挨拶で佐久間勤・上智学院理事長は、上智大学が、2017年12月にアントニオ・グテーレス国連事務総長の特別講演会を開催していることを紹介し、今度は国連副事務総長の講演会を実施できることをとても光栄に思うと述べました。
(佐久間理事長の冒頭挨拶全文)
(82.49 KB)曄道佳明・上智大学長も冒頭挨拶し、国連システムのトッププレイヤーから直接、今日のグローバルな課題にどう取り組むかについて話を聞けることは、極めて意義が大きいと強調し、モハメッド副事務総長への感謝の念を伝えました。
(曄道学長の冒頭挨拶全文)(84.84 KB)
根本かおる国連広報センター長も冒頭挨拶し、コロナ禍によって世界中で起きている困難について強調した上で、「このシンポジウムが、SDGsの目標を達成するための勇気を与えてくれると確信している」と期待を表明しました。(本講演会は国連広報センター共催)
その後、モハメッド国連副事務総長が特別講演を行いました(講演全体と5人の学生との対話は、この記事の最後のリンクをクリックすればご覧頂けます)。
(根本センター長の冒頭挨拶全文)(74.24 KB)
「SDGsの達成と、混乱する世界における若者の希望を実現するために」
モハメッド氏はまず、1980年代に大学での学びを終えたとき、非常に不安を抱いていたことを強調しました。そして、「私の祖国、ナイジェリアは、軍部による独裁政権でした。南アフリカではアパルトヘイトの暗い時代が続いていました。多くの女性が、あらゆる面で差別に苦しんでいました。」しかし現在、ナイジェリアは民主化し、アパルトヘイトは廃止され、女性が国連副事務総長になっている、と語りかけました。そしてモハメッド氏は全ての学生や参加者に対して、「決して絶望して、誰からも支えられていない」と考えないで欲しい、と訴えました。そして「若い人たちと手を携えることで、きっとこの苦境を乗り越えることができる」と強調しました。
そしてモハメッド氏は、私たちが希望を持てる一つの理由が、このSDGsという17の「持続可能な開発目標」の存在にあると述べました。そして、このSDGsこそが、私たちが求めている世界—尊厳や団結、そして全ての人が安全と健康を享受できる世界—を示す現実的な羅針盤になっていると訴えました。
一方モハメッド氏は、SDGsが採択されてから6年たつ今、「私たちは当初考えていたSDGsを実現できる道のりにあるとは思えないのは事実です。特に世界全体を覆うコロナ禍が、その目標達成を難しくしている」と率直に述べました。そして、地球温暖化やコロナ禍などのグローバルな課題について解説した上で、5つの分野における行動を求めました。
一つ目では、「コロナ禍を世界中で終結させるために、国際的な協力と団結が欠かせない」と強調しました。モハメッド氏は、グテーレス国連事務総長とWHO(世界保健機構)が始めた「ワクチン戦略」で、2022年中途までに世界人口の70%にワクチンを打つために具体的な計画を作ったことを紹介しました。現在、一月あたり15億本ものワクチンが生産されていることも指摘し、「この目標は、グローバルな分配さえ公正にできれば、実現可能です」と訴えました。
二つ目としてモハメッド氏は、社会的保護政策を拡大しなければならないと述べました。そして、世界人口の半分にあたる40億人もの人が、貧困からの保護を必要としていると強調しました。
三つ目にモハメッド氏は、格差を縮小し、強靭な社会を作る必要を述べました。「質の高い必要なサービスを全ての人が享受できるようにしなければなりません。コロナ禍によって、清潔な水、トイレ、エネルギー、重要な技術について、大きな格差があることが明らかになりました。」
四つ目の分野としてモハメッド氏は、「私たちは、カーボンニュートラルなグリーンな社会への移行を加速させなければなりません」と強調しました。その達成には非常に大きな投資が必要だとし、この分野における日本のリーダーシップ、特に気候変動や災害のダメージの抑制(減災)における貢献は世界全体にとって決定的に重要、と強調しました。
五つ目にモハメッド氏は、持続可能な開発に向けて新たなパートナーシップが必要だと訴え、「誰も取り残さない」ことの重要性を強調しました。発展途上国への支援を通じて、そういった国々が、コロナ禍に対応でき、経済を再生し、人々を守ることができるようにすることがとても大切だと訴えました。
最後にモハメッド国連副事務総長は、若い世代が行動する重要性を強調しました。「一つの国でも変化は起こせる。実際には一人一人が行動を起こすことで、変化は起きるのです」とし、全ての人が声を上げ、行動を開始することを呼びかけました。
副事務総長と学生たちとの対話
モハメッド氏の講演のあと、サリ・アガスティン教授がモハメッド氏の講演の謝意とコメントを述べ、2点質問しました。一つは、パンデミックによるダメージが、2030年の国際情勢にどのような影響を与えると考えているか。そして二つ目は、多くのゴールを掲げる一方で、より緊急性のある課題に焦点が当たりにくくなり得るSDGsの弱点にどう向き合っていくかという問いでした。
アガスティン教授のコメントと質問の後、世界各国からの五名の学生もモハメッド国連副事務総長に質問をしました。マレーシアの学生は、マレーシアの一部地域におけるネットアクセスの不足に触れ、ネットアクセスの不平等がもたらす教育への重大な影響について質問しました。また、スペインの学生は、急激に人口分布が変化する中で、高齢化が進む先進国において若い世代はどう対応すべきか問いました。
リベリアの学生は、民主化への道を遅らせ、時に妨げてきたアフリカの軍事クーデターへの対応について質問しました。コロンビアの学生は、武装勢力に命を狙われることもある社会・環境活動家を国連がどのように保護していけるか聞きました。最後に、上智大学の学生が、発展途上国における児童労働の解決方法について質問しました。
モハメッド氏はこれら全ての質問に丁寧に、そして真摯に回答。質問をした5名の学生は国連副事務総長の丁寧な回答にとても感謝していました(詳細はこのページの最後にある動画をご覧ください)。
質疑応答の後、東教授は、「国連副事務総長と世界各地から集まった800名以上の参加者がオンラインで一堂に会し、私たちが現在直面するグローバルな課題について議論するなど、たった2年前までは想像もできなかった」と述べました。そして、「技術の進歩により、世界中から人々が集まり意見交換をすることが可能になってきている」と話した上で、「だからこそ問題は、どのように共に行動するかだと思う」と語りました。最後に東教授は、世界中の学生と活発な議論を繰り広げたモハメッド国連副事務総長に感謝の意を述べました。モハメッド氏も、イベントへの感謝を表すとともに、これからもグローバルな問題に向き合いながら解決策を模索し続けるよう、若い世代に呼びかけて会を締めくくりました。