建物が歴史を継承 -1号館物語-

四ッ谷駅から眞田濠沿いのソフィア通りを歩くと見えてくるレンガ調の4階建ての建物。授業の合間には青空の下で自由に時間を過ごすことができる空間もあります。キャンパスに現存するこの最も古い建物は1号館と呼ばれ、1932年6月に竣工して以来、今でもキャンパスのランドマークの1つとして親しまれています。所属する学部・学科に関係なく教室として利用され、学生のキャンパスライフに欠かせない1号館のお話をご紹介します。

1.「東京都選定歴史的建造物」に選定

マックス・ヒンデル(52歳、北海道にて、1939年撮影)(※2)

「東京都選定歴史的建造物」とは、東京都景観条例に基づき原則として建設後50年を経過した歴史的価値を有する建造物(文化財は除く)のうち、景観上重要なものとして、東京都が選定するもので、2025年1月現在105件が選定されています。上智学院所有の建造物として初めて2024年6月に選定されました。東京都の報道発表資料(※1)には、1号館の概要は「大正から昭和初期にかけて、日本各地のカトリック教会を設計したスイス人マックス・ヒンデルの手によるドイツ風の学校建築で、残存例として貴重な建物である」と紹介されています。

2.大学への昇格と新校舎の建設

実現しなかった千歳キャパス新校舎の図面(マックス・ヒンデル)*

上智大学が創立した1913年当時、キャンパスには赤レンガ校舎と呼ばれていた最初の校舎(後の1945年東京大空襲で崩壊)しかなく、1号館のような大きな建物はありませんでした。1928年に本学が大学令による大学への昇格が認められると、文学部(哲学科、文学科)と商学部(商学科)が設置されました。そして大学昇格に相応しい多数の学生を収容できる校舎が必要となったのです。実は当時、千歳村(現在の世田谷区西北部)へのキャンパス移転計画も検討されていました。ヒンデルによる壮大な校舎の設計図も残っています。しかし最終的に移転計画は実現せず、四谷キャンパスに新校舎(1号館、建坪約4582平方メートル)の建設が始まったのでした。

3.建設資金の調達 -ドイツ、フランス、アメリカの人々の願いと思い

ドイツ語版の募金帳。レンガ1枠毎に名前がサインしてあるのが分かります *

建設資金は寄付によって賄われました。募金活動を主導したのはドイツ人のブルーノ・ビッテル神父(1898-1988)でした。ドイツ国内だけでなく、オランダ、 フランス、アメリカなどのカトリック教会や学校に向けて「日本のカトリック大学の新しい建物のために」と呼びかけました。寄付を呼び掛ける用紙には関東大震災で崩壊する前の赤レンガ校舎が描かれ、その下に援助を求める文章と、1ライヒスマルク(1RM、当時のドイツ公式通貨)の印字が入ったレンガのイラストが描かれています。寄付者は金額に応じてレンガに署名をしていたようです。この活動は「レンガ募金」と呼ばれていました。当時の1号館が各国の人々の善意によって建てられたことが伝わってきます。

4.1号館の役割 -変わりゆくものと変わらないもの

1号館(地階)の図面(マックス・ヒンデル) 地下に食堂や石炭庫などがあったことがわかります *

1932年の竣工当時は現在のソフィア通り沿いにも出入り口がありました。地下には書庫、食堂、石炭庫、銃架室、浴室などがあり、1階には図書室や事務室、2階には教室と講堂、3、4階には教室があったことが平面図などから明らかになっています。1号館竣工から約20年間、キャンパスには赤レンガ校舎と1号館しか校舎がない時代が続いたため、1号館が担う役割はとても大きかったと想像できます。

現在のソフィア通り沿いにあった出入り口を入ったところには広いロビーがありました *
1階にあった図書室(現在の1階101教室、102教室) *
2階の講堂の内装は黒く塗り替えられ、現在も演劇サークルの活動場所として使われています *

戦後になり麹町6丁目の土地(現在の2、6、7、12号館付近)を購入し、1960年代から1970年代には学部・学科が増設されてゆきました。学生数の増加に伴い新校舎や食堂、講堂などが次々と建ってゆき、現在のキャンパスには15棟(※3)の校舎が建ち並んでいます。

1932年6月に竣工した1号館。竣工から92年後の2024年6月に東京都選定歴史的建造物に選定されました

1号館はかつての役目を終え、地上階は教室としての役割が主になりました。講堂は演劇サークルの活動の場として現在でも活用されています。そして2022年9月には外壁に沿って階段状の憩いの空間「S-Terrasse」が設置されました。1号館を背に中央に建つヘルマン・ホフマン初代学長(在任:1913-1937)の胸像は、今も昔と変わらず学生に囲まれています。これからも1号館とともに学生と上智大学を見守り続けることでしょう。

(※1)東京都公式ホームページ内報道発表資料(2024年6月14日都市整備局)(2025年2月7日閲覧)
(※2)れきけん建築アーカイブ提供
(※3)主に授業で使用する1号館~4号館、6号館~15号館にサークル活動で使用するホフマンホールを入れた15棟(2025年2月現在)
参考:Webで知る”SOPHIA” 「レンガ募金による1号館」

*印の写真、史資料はソフィア・アーカイブズ所蔵

上智大学 Sophia University