学生総務担当副学長 総合人間科学部 心理学科 教授 横山 恭子
2024年4月、すべての大学で合理的配慮の提供が義務化されました。多様な学生が安心して学びを続けるため、上智大学はどのような相談体制と支援を整えているのか。学生総務担当の横山副学長に、その取り組みとそこに込めた思いを聞きました。
※合理的配慮とは「障害者の権利に関する条約」第2条において「障害者が他の者と平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう」と定義されています。
本学における合理的配慮とは、障がいを有する学生から「学びづらさや大学生活上の困りごとを解消してほしい」という意思表示があった際、教育の本質を変更しないことを大前提としつつ、本人の意向を尊重しながら、大学側の過重な負担とならない範囲で、必要かつ適当な環境や情報の調整・変更を行うことです。
上智大学では、「誰もが安心して学べる環境を整えること」を目指し、その実現に向けて相談体制と合理的配慮の検討・調整の仕組みを少しずつ整備してきました。2026年度は新たに心理や社会福祉の専門資格を有する職員を迎え、さらなる体制強化を図っています。
大学への合理的配慮申請を希望する学生は、まず一次相談窓口である「ウェルネスセンター障がい学生支援担当」に相談します。ここで職員が丁寧にヒアリングを行って状況を把握したうえで、学生から合理的配慮に関する申請書類を提出してもらいます。その内容を複数の担当者で検討し、個々の特性や症状に応じた配慮内容の調整を行っています。
合理的配慮への相談の入り口は、障がい学生支援担当に限られているわけではありません。カウンセリングサービスでのカウンセリングや健康支援の「こころの健康相談」、「なんでも相談窓口」で学生から相談を受けた職員が、障がい学生支援担当への相談につなぐこともあります。このように、どの窓口に相談があっても、困っている学生のニーズに気づき、必要な支援へとつなげられる仕組みの整備を目指しています。ただしどのような支援も、学生が申し出るというのが第一歩になります。あくまでも本人の自発的意思が尊重されます。
合理的配慮の対象は多様で、身体的な障害に限らず、発達障害、精神障害、内部障害など、さまざまなケースが含まれます。例えば、音声情報の保持が難しい学生には、授業にかかわる重要事項を文字情報で提供したり、筆記に時間を要する学生が試験を受ける際には、必要に応じて試験時間の延長や、大学が準備したパソコンの使用を許可したりすることもあります。
合理的配慮の内容を検討する過程で重視しているのが、学生との対話です。ヒアリングで学生から聞き取った「何に困っているのか」をじっくり精査し、希望している配慮内容一つひとつについて、「大学として何ができるのか」を考え、学生との対話を通して合意形成を行います。「その配慮や支援がどのような意味を持つのか」、「配慮を受けてどのような姿を目指すのか」といったことも、大切にしたいと考えています。
一方で、合理的配慮には、「教育の本質を変更しない」という要件があります。
特に成績評価は全学生に対して平等である必要があり、障害を理由にその科目の到達目標や評価基準を下げることはできません。また、「どこまでが合理的な配慮に当たるのか」という線引きも容易ではありません。例えば、「授業に出席できないため、レポートで代替したい」という要望があったとしても、実習や対面のコミュニケーションがその科目の到達目標に関わる大切な要素である場合には、対応が難しいことがあります。
授業ごとに教育の本質は異なるため、大学として提供できる合理的配慮が決定しても、各授業では全てその通りに配慮を提供できない場合があります。そこで、さらに学生と教員との間で具体的な対応を相談するステップがあります。学生の困りごとに寄り添いつつ、教育の本質を変更せずに、公平な評価を行うことが求められます。
私は、本当に支援を必要とする学生に対して適切な配慮を提供すると同時に、社会に出るための力を育成することも、大学の重要な責務であると考えています。学生自身が自分の特性を理解し、「この部分を手助けしてもらえれば、自分は十分に力を発揮できる」と、自ら説明できるようになることが理想です。これは、困ったときに支援を求める援助要請力、自分の得意・不得意を理解する自己理解力、そして状況に応じて工夫する力と、本学が支援で重視する3つの力に通じています。社会に出れば、常に周囲から十分な配慮が得られるとは限りませんが、在学中にそうした力を身につけておくことで、卒業後も主体的に働くことができると考えています。
また、支援する側と支援される側が一方的に固定されるのではなく、お互いに支え合う関係を築くことが大切です。その意味で、英語の「Reasonable Accommodation」を「合理的配慮」と訳すことには、少し違和感があります。Accommodationは「調整」という意味であり、一方向の関係を前提とするものではありません。大切なのは、個々の状況に応じて互いに調整し合う姿勢です。
本学では、新入生全員がユニバーサルマナー検定を受講し、多様な人に配慮した態度や意識を身につける機会を提供しています。こうした取り組みを通じて、「支援する/される」という枠を超え、共に生きる仲間として互いを理解し合う雰囲気を大切にしています。
違いを前提に受け入れ、尊重し合う。その積み重ねの中で、支え合うコミュニティが形づくられていきます。そこにこそ理想のキャンパスの姿があると考えています。
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双方向の対話を重視し、誰もが安心して学べるキャンパスへ~上智大学の合理的配慮への取り組み~