叡智をつなぐ、叡智でつなぐ ~学長としての8年間を振り返って ③

学長
理工学部 機能創造理工学科 教授
曄道 佳明

2017年度の就任以降、トップとして叡智(SOPHIA)の歴史を紡いできた曄道学長。8年間の任期終了を前に、在任中の取り組みと当時の思いを、3回にわたって振り返ります。

生涯学ぶ時代だからこそ、学びのデザイン力を

大学は学生を成長させる場ではありますが、人の成長は大学卒業後も続きます。学びも同様です。生涯学ぶ時代において、大学は学びの最終機会ではありません。そう考えると、大学は、これからも変化していく社会の中で学び続け、充足した人生を歩む基盤をつくる場所だと言えます。

そこで学部4年間で提供する教育を、生涯学び続ける基盤を育む「基盤教育」と名づけました。2022年度に一新した全学共通科目は、この基盤教育の象徴です。

新たな全学共通科目では、「人間理解」「思考の基盤」「展開知」といった各カテゴリーの科目を横に並べるのみならず、導入レベルから応用レベルまで縦にも配置しました。つまり、これら教養やリテラシーを身につける科目を、低学年時に専門分野の土台として学ぶのではなく、3、4年次になってからも、専門分野を深め、広げる武器として学ぶしくみにしたのです。

このしくみを通じて学生は、学びを選び取り、進むべき道を切り開いていく、学びのデザイン力を身につけます。例えば今、3年生には、「思考の基盤」内で開講されているデータサイエンスの応用科目にどっぷり浸かっている文系の学生がいます。起業を計画中で、データ分析のスキルが必要になり、講師のもとに通っていると言います。「展開知」に含まれる「実践・経験」科目の履修をきっかけに、進路を変えた学生もいました。

1人ひとりが自分なりの働き方、生き方を見出し、複数の職業や役割を経験するであろう現代社会にあって、学長就任以来、どうしても学生に身につけてほしいと思っていたのが学びのデザイン力でした。小学校から大学に至るまで、日本の学校教育の枠組みは、非常によく練られた質の高いものになっています。ただ、与えられた枠組みの中で成果を出すことに慣れた人が、社会に出て急に「自由に発想せよ」「イノベーションを起こせ」と言われても難しいでしょう。基盤教育を推進するとともに、キャンパスを市民に開き、正課外の学びを充実させてきたのは、次に何を学ぶか、社会にどう貢献するかを、枠組みにとらわれずデザインする力がつく環境を整えたかったからです。

キャンパスに引き継がれる人を育てる力

副学長時代の総合グローバル学部設置をはじめ、SPSF開講、基盤教育導入、SFDP推進室開設などの大きな改革に携わらせてもらってきましたが、いずれも独自の着想というより、これまでの歴史をなぞるつもりで大学の歩みを継いできた結果です。上智大学の一員であればこちらに進むべきであろうというベクトルは、私が学長であるなしにかかわらず、脈々と受け継がれています。頼もしい取り組みが、学内の至るところで自主的に進んできました。

例えば近年の研究面一つとっても、エジプト地域の住民らと連携して塩害抑制をめざす研究(外国語学部フランス語学科 岩﨑えり奈教授)が、2023年度、政府やJICAによる国際共同研究支援「SATREPS」に採択されました。2024年度には、アジアにおけるESD(持続可能な開発のための教育)の研究チーム(総合人間科学部教育学科 杉村美紀教授)が「ユネスコチェア」に採択され、UNESCOと連携して活動しています。いずれも「他者のために、他者とともに」を体現した、実にこの大学らしい研究です。

私は卒業生ではありませんが、上智大学に育ててもらった実感を強くもっています。1998年に助教授として着任した際、「上智大学の精神を引き継ごう」という意識は充分ではなかったかもしれません。しかし、学生や教職員と向き合い、高校生の悩みを聞き、国際会議で世界の大学人と話すと、皆が上智大学への期待を口にする。いつどこに行っても、上智大学を学ぶ機会であったわけです。いつしか自然に、この大学が世界で果たそうとしているミッションを私も支えたいと思うようになりました。

過去、現在の構成員、そして社会が思う上智大学の姿を、今の時代に体現しようと知恵を絞ってきたのが、この8年間です。上智大学というフィルターを通して得た経験は、私自身の視野や思考を、着任前とは比べものにならないほど、広く、深くさせました。自分が「成長した」というのはおこがましいのですが、このキャンパスとそこに息づく歴史には、確実に人を育てる力があると思います。

上智大学 Sophia University