学長 総合人間科学部 教育学科 教授 杉村 美紀
就任2年目を迎えた杉村学長は、「上智らしさ」を一層引き出すにあたり、「新しい国際化」と「学際的で深い学び」の2つのキーワードを挙げています。1年目の取り組みを振り返るとともに、2年目以降に想定している施策の方向性を語ります。
この1年間、「変わらないために、変わる」をキャッチフレーズに、皆さんの声を聞きながら、「上智らしさ」を常に意識してきました。「上智らしさ」の一つに、宗教、言語、所属や国籍等にかかわらず、人と人とが交流できる多様性があります。キャンパスには実に90を越える国・地域の学生がいて、6人に1人が外国籍の教員です。また最近ではインクルーシブな環境づくりも進めています。
学長になってからは、できるだけ学内を歩くようにしています。先生や職員の方々と最近の研究や仕事について話したり、課外活動団体の学生が練習帰りに話しかけてくれたりと、皆さんの声を直接聴くことは大きな喜びです。また、海外で教育研究に従事してこられた先生が提案してくれた「ブラウンバッグ・ランチ」も始めました。軽食(ブラウンバッグ)を持ち寄り、気軽に意見交換を行う海外のコミュニティ文化を参考にした集まりで、教職員の皆さんが参加してくれています。学部・部署間を越えた風通しのよい取り組みを進めています。
多様性を活かすとともに、特に力を入れているのが「新しい国際化」です。
日本の国際化はこれまで、欧米を中心とする他国の枠組みにいかに追いつくかが主眼でした。英語で教える授業科目の増加や学生の派遣・受入数の拡大など、量的な拡大に焦点が当たってきましたが、これからは質の向上にも目を向けていくべきと考えます。
そこで上智が大切にしたいのは、国際的な枠組みを「作る側」に立つ人を育てること。枠組み作りの議論に参画するには、単に英語を話すだけではなく、相手の立場や背景、思いを汲み取ったうえで、多角的視点から考える批判的思考や創造性、さらに自分の考えを発信する力が必要です。私が受け持つ大学院のゼミにも、ルクセンブルク、ドイツ、米国、ブルネイ、ウクライナ、韓国、ガーナ、タンザニア、アゼルバイジャン、日本など多様な地域の学生が集まり、それぞれの文化や考え方を尊重しながら意見を交わしています。そこは、多国間・多文化間の議論を通じた多様で国際的な学びの場です。多様な文化が交錯する中で生まれる「意見が違っても協働できる」という感覚こそが、多文化共生を形作る礎ではないでしょうか。
教育も地政学的な影響を強く受けています。世界各地で対立・分断が生じ、排外的な考え方もあるなか、あえて多文化共生を考え、インクルーシブな学びの環境を実現する上では、教員側にも国際的な対応力や異文化を理解する力が求められます。学生それぞれの立場を慎重に考えながら、意見を引き出し、議論を円滑に進めていく必要があります。
今年度からは、外国にルーツを持つ子どもたちの日本語学習を学生が支援する「ソフィアにほんごプロジェクト」を、都内の自治体と連携して行います。短期大学部と神奈川県秦野市で実施したサービスラーニングのノウハウをもとに、本学の先駆的な取り組みを社会貢献にも活かしていければと考えています。
こうした多様性のもとで「他者のために、他者とともに」という共生の感覚を育てる「上智らしさ」への挑戦は、日本や世界という規模からみれば、ほんの小さな一歩かもしれません。それでも、将来、国内あるいは海外で活動する卒業生が、「上智でこんな経験をしたな」と思い出しながら様々な課題を自分事として考えていく。その積み重ねが国際化につながっていくと、私は信じています。
「新しい国際化」と並んで、これまで上智が取り組んできた「学際的で深い学び」にもさらに注力していきたいと考えています。
少子高齢化とAIの登場によって大きく変わりつつある近未来の社会構造をふまえ、今日の日本では、人材育成をめぐる議論が盛んです。そのなかにあって上智では文理を横断し、答えのない課題に挑戦する力の育成を重視しています。理系か文系かという議論ではなく、お互いの分野を見渡すとともに、文理を超克する力を育てる。その学際性は、「上智らしさ」がこれまで求め続けてきたものでもあります。
「基盤教育」はその足がかりとなるもので、全学生に対して「思考と表現」「データサイエンス」といった科目を通じ、生涯学び続ける基盤となる学びを提供しています。また、2025年度に文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の採択を受けた取り組み「日本アフリカ協働実践プログラム(SAFICs)」では、人類学、社会学、経済学、地球環境学などを横断的に学べるプログラムを多数開講しています。それらを体系的に学んだ学生に対して、オープンバッジ(デジタル証明書)を発行し始めました。
若手研究者育成の面でも、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の『次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)』の採択を受けた「Sophia SPRING Project」の展開や、分野横断型のコミュニティづくり、学内若手研究者交流プログラムなど、学際性を高める支援に取り組んでいます。
さらに実業界と本学が連携して学びの場を創生する「プロフェッショナル・スタディーズ」や、高校生から社会人まで幅広い層を対象とした「地球市民講座」では、学内外の皆さまと共にリベラルアーツを実践し、何が今の時代に求められる学びなのかを考えています。
「新しい国際化」しかり、「学際的で深い学び」しかり、上智大学では、探究学習をはじめとする高校までの学びを、今後さらに拡げ、深める教育を充実させていきます。これから上智で学ぶことを考えている受験生、そして本学で学ぶ在学生一人ひとりに対して、上智は全力で応えたい。そのためにも、私たちが創造しようとしている次世代の教育を、本学教職員や学生、そして高校生や高校の先生方とも一緒に考えていきたいと思っています。
HOME
記事一覧
Features
上智大学の挑戦
今、あらためて「上智らしさ」を問い直す―「新しい国際化」と「学際的で深い学び」―