叡智をつなぐ、叡智でつなぐ ~学長としての8年間を振り返って ①

学長
理工学部 機能創造理工学科 教授
曄道 佳明

2017年度の就任以降、トップとして叡智(SOPHIA)の歴史を紡いできた曄道学長。8年間の任期終了を前に、在任中の取り組みと当時の思いを、3回にわたって振り返ります。

世界基準の視点を、上智大学の個性に

私が学長に就任した2017年度、日本の大学界では「グローバル化」が大きな命題になっており、各大学の取り組みが加速していました。本学も、2014年に採択を受けた文部科学省「スーパーグローバル大学創成支援」事業の計画実現、目標達成に向けて奔走していたころです。

同事業では、派遣/受入留学生や外国人教員の割合などが全大学共通の成果指標として設定され、大学や高校でも、グローバル化の象徴として、英語で行われる授業の割合や9月入学の導入が取りざたされていました。

もちろん本学も海外との人の行き来を活性化させ、また60年以上の歴史を持つ、英語学位プログラムや9月入学制度の拡充も図りました。ただ、それらが本当の「グローバル化」なのだろうかとの疑問が頭をもたげていたのも事実です。私自身の経験、そして上智大学としての海外交流の歴史を振り返っても、世界のアカデミアは、英語科目を増やせば存在を認めてくれるような単純なものではなかったからです。

国の施策への対応として一定の成果を出す必要がある一方で、世界の中で信頼される個性的な存在であるための取り組みも検討するという、複雑な戦略を設定せざるを得なかったのが、学長就任当初のこの時期だったように思います。

そのころから、「世界の土俵」という言葉を使うようになりました。日本の視点で考えるグローバル化ではなく、めざすのは、世界の大学から質を問われたときに渡り合える大学。世界基準で海外の大学と関係性を構築する、あるいは競争する。この視点でグローバル化を推進することが、上智大学の特色になると考えたのです。

学生に対しては、世界基準のグローバルを知るためのしかけを教育に組み込んでいきました。

例えば2019年、アントニオ・グテーレス国連事務総長が来日する際、上智大学への来学を希望する書面を送りました。講演だけでなく、30人ほどの学生と議論をしてもらう場もセッティング。世界全体を動かす使命を持ったグローバルリーダーが、今何を考えているのか、直接話して知るような経験を、学生に積んでほしいと考えました。

各分野で世界トップレベルの実績を持つ、海外大学院への特別進学制度もそうです。上智大学の国際性に期待して入学してきた学生に提供する、チャレンジングなプログラムの一つです。

世界を知るには、俯瞰する立場だけでなく、現場の視点も欠かせません。開発途上地域に横たわる課題に触れる機会として、東南アジアやアフリカへの研修の選択肢を増やしました。2019年には、東南アジア圏の留学やオンライン研修を提供する、Sophia Global Education and Discovery Co., Ltd.(Sophia GED)をタイに設立。グローバルかつローカルな双方向視点を醸成する取り組みに、より多くの学生が参加できるようになっています。

国際ネットワークの中で研究の責を果たす

研究面でも重視したのは、数字の多寡では測れない、「世界の土俵」における存在感です。カトリック系の大学であることから、上智大学は特に社会課題の解決に向けた研究活動において、国際的なネットワークの一員としての役割を期待されています。

2017年に活動を開始した、スウェーデンと日本の大学間連携による研究活動ネットワーク「MIRAI」では、卓越した研究力を持つ両国20大学(2024年現在)の中の1大学として、持続可能性や高齢化に関する共同研究などを行っています。

人間の尊厳、環境問題などに焦点を当てた、カトリック大学の研究アソシエーション「The Strategic Alliance of Catholic Research Universities」(SACRU)の一員でもあります。参加8大学には、チリでトップのチリ・カトリック大学、アメリカの名門、ボストンカレッジ、欧州最大の私学、イタリアのサクロ・クオーレ・カトリック大学など、国際社会に知られた大学が名を連ねます。

世界トップレベルのネットワークの中で確実に責務を果たし、存在感を打ち出していく姿勢は、現在でも上智大学の研究アクティビティの柱になっています。

コロナ禍が浮き彫りにした上智大学生の外向き志向

教育、研究両面のグローバル化を進めていた就任4年目、2020年、コロナ禍が世界を襲い、あらゆる国・地域のグローバルな営みが縮小しました。国際性に関するパイオニアを自負していたからこそ、その強みを発揮しづらくなった上智大学に対する社会の期待度が下がってしまうことを、非常に恐れました。

事実、「海外留学をめざして入ったのに」という国内学生の声は小さくなかったばかりか、来学予定だった世界中の学生から「上智大学を開けて欲しい」という署名活動まで起きました。外出や移動に関して国家規模でルールが定められていた状態だったので、一大学ではいかんともしがたく、つらい時間だったことを今も鮮明に覚えています。

ただ、失望や懇願の声が聞こえたのは、ある意味では救いでもありました。いくら現代の若者が内向きだと言っても、署名活動が成立する実情は、外に向かっていこうという熱量をもつ学生が、上智大学に多数、在籍していることを意味します。世界の土俵に立つ大学を自負するのであれば、彼ら、彼女らの情熱が失われないよう最大限フォローすると同時に、行動制限が緩和された後は、学生や教職員のモビリティーに関してとりわけ注力すべきだと心に決めました。

海外との行き来が一時的に途絶えた2020年は、上智大学にとって、キャンパスの多様性を加速させる年にもなりました。(続く)

上智大学 Sophia University