6月7日から24日まで「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、「第21回上智大学国連Weeks June,2024」が開催されました。全7件の多彩なプログラムが展開されました。

命のビザ、国連の精神、そしてオランダのコミットメント

7日、オランダ王国大使館と上智大学人間の安全保障研究所との共催で、オランダ王国大使館全権公使 テオ・ぺータス氏による講演会「命のビザ、国連の精神、そしてオランダのコミットメント」を開催しました。

オランダ王国大使館全権公使 テオ・ぺータス氏

講演会は上智大学人間の安全保障研究所長の青木研教授の挨拶により開会し、ぺータス公使から、第二次世界大戦中、日本の杉原千畝領事と共に「命のビザ」と呼ばれるビザを発給し、何千人ものユダヤ人難民を救出したヤン・ズワルテンダイク在カウナスオランダ領事について語られました。

ズワルテンダイク氏は当時、リトアニア在住のオランダ名誉領事で、ナチス・ドイツの迫害から逃れリトアニアにいたユダヤ人に危険が迫る中で、カリブ海のオランダ領、キュラソー島は入国ビザが不要なことから、見せかけの目的地ビザ「キュラソー・ビザ」を発給しました。杉原千畝氏はその目的地ビザをもとに多くのユダヤ人に「命のビザ」と呼ばれる日本の通過ビザを発給することができました。ズワルテンダイク氏の存在は広くは知られていませんでしたが、2016年にオランダの作家が出版した本によりその功績に光があてられ、死後47年を経て、民間人に対して王室から与えられる最高の栄誉である勲章を受章しました。

同時開催された写真パネル展の一部

今年2月にオランダ大使館で開かれた「ズワルテンダイク・オランダ領事と『命のビザ』の知られざる原点」展に当時の生存者の1人を82年ぶりに日本に招いたエピソードや、第二次世界大戦中に日本軍捕虜となったオランダ人を日本へ招き、過去を乗り越える支援プログラムの紹介なども織り交ぜつつ講演は進みました。

講演後半のQ&Aセッションでは、参加者から「私たち若い世代は自分たちの道徳を示すためにどう勇気を持つべきか」「外交官の仕事に興味がある。公使が仕事で誇りに思うことは?」「高いレベルの自己犠牲をどのように果たしていけるか?」などの質問が続々と寄せられました。 公使からは結びとして、世界で起きている状況に思いを巡らせて欲しい。自分が情熱を感じるものは何かを考え、問題解決に貢献できることを考えて欲しいとの言葉がありました。

同時開催企画として、四谷キャンパス2号館エントランスホールにて写真パネル展「キュラソー・ビザ:ズワルテンダイク・オランダ領事と杉原千畝『命のビザ』の原点」が7日から24日の間開催されました。現代の私達にも重要なメッセージを伝える、助けを必要とする人達への共感のストーリーに多くの人々が足を止め、見入っていました。

中東和平を考える

10日、中東問題に造詣の深い専門家3人を講師に招き、「中東和平を考える」をテーマにハイフレックスのシンポジウムを開催しました。モデレーターは、国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授が務めました。昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃、イスラエルの報復と、中東の和平実現がさらに遠のいている中、専門家3人がそれぞれ歴史を振り返り、現状を分析し、今後どういう形でこの中東和平が実現に向かっていくのかについて論じました。

ガザ地区の最新情勢について解説するNHK解説委員の出川展恒氏

最初の登壇者は、NHKエルサレム支局の初代特派員や支局長などを歴任した、現NHK解説委員の出川展恒氏。出川氏は、5月31日にアメリカのバイデン大統領が明らかにしたイスラエルからハマスへの恒久的な停戦を視野に入れた新提案をはじめ、いまガザ地区で起きている戦争の最新情勢や停戦の合意が困難な理由について、イスラエルのネタニヤフ首相が置かれている立場から解説をしました。さらにイスラエルとパレスチナの2国家共存が実現しなければ、恐らくパレスチナ問題は解決しないだろうとの意見を述べました。

防衛大学校総合安全保障研究科の江﨑智絵準教授

次に登壇したのは、中東の国際関係、パレスチナ問題を専門とする防衛大学校総合安全保障研究科の江﨑智絵準教授。江﨑準教授はハマスがイスラエルを攻撃した動機の背景にイスラエルとサウジアラビアの国交正常化の動きがあることについて解説しました。中東地域における中心的な課題といわれてきたパレスチナ問題がその大義を失い、イスラエルとアラブ諸国間の国交正常化という多国間の枠組みによる中東和平が優先されている状況を踏まえ、イスラエルとパレスチナの2国間の交渉を取り入れてこそ、パレスチナ問題の解決に資する環境が作られるのではないかとの考えを示しました。

最後は、アメリカの内政と外交問題に詳しい総合グローバル学部の前嶋和弘教授が登壇しました。前嶋教授は、イスラエル問題はアメリカの内政であり、アメリカ国内ではイスラエル支持が圧倒的に強いと述べました。アメリカが世界最大のユダヤ人国家であり、イスラエルとアメリカの二重国籍者が多いことに加え、支持の背景にユダヤ人に対するアメリカ人の贖罪意識やキリスト教福音派の存在があると述べました。また、アメリカの大学でイスラエルボイコット運動があるものの、若者の投票率は低く、パレスチナ・イスラエル戦争が11月大統領選挙の重要な争点になっていない旨説明。アメリカがこの戦争を終わらせるのは懐疑的であるとの見方を示しました。その後、参加者からは、現状のイスラエル・パレスチナ情勢に関して日本が果たせる役割など様々な質問が寄せられ、シンポジウムを終えました。

JICAの平和構築への挑戦~国際機関との連携も視野に~

6月11日、日本の平和構築への役割を考える「JICAの平和構築への挑戦~国際機関との連携も視野に~」が開催され、対面で約170人、オンラインで約230人、合わせて400人近くが参加しました。本イベントは、グローバル教育センターの東大作教授が「人間の安全保障と平和構築」をテーマに、2016年から実施している連続セミナーの一つです。

多くの参加者が熱心に耳を傾けた

サリ・アガスティン上智学院理事長の冒頭挨拶で開会し、独立行政法人国際協力機構(JICA)理事で、アフリカや世界の平和構築活動を統括する安藤直樹氏が登壇。世界の紛争状況をデータとともに示しながら、平和構築や人間の安全保障などの課題に対して対応が複雑化している現状を紹介しました。次に、ウクライナ、ガザ、アフリカでの支援について具体例を交えながら解説。そして、国際協力分野への日本国民の支持が若者を中心に低下しているなか、多くの参加者が本イベントを通して国際課題に向き合おうとしていることに期待を寄せ、「国際協力の場では、相手の立場で考えることが信頼を勝ち得るために重要。将来、国際協力に参加する際には、相手国の歴史的背景などを理解したうえで、政府や市民と丁寧に対話をしてほしい」と会場の参加者へ熱くエールを送り、講演を締めくくりました。

グローバル教育センターの東大作教授(左)とJICA理事の安藤直樹氏

セミナー後半では、コメンテーターを務めたアガスティン理事長や、参加者からの質問に答える形でパネルディスカッションを実施。紛争が長引くようになった要因や、ウクライナとロシアの平和構築の可能性などにまつわる質問が寄せられ、安藤氏は東教授とともに一つ一つ丁寧に回答しました。

東教授は、ロシアのウクライナ侵攻後、国連安保理の分断も激しさを増し、紛争下の和平調停や紛争後の平和構築が難しくなっている現状を述べつつ、「日本をはじめ、平和を作る意欲がある国や機構による紛争解決のメカニズムの再構築が大切」と総括し、盛況のうちにセミナーは終了しました。

国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ

18日に、国際機関や国際協力分野でのキャリアを目指す人たちを対象にキャリア・ワークショップを開催しました。冒頭、モデレーターを務める国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授から本日の登壇者の紹介がありました。

国連世界食糧計画 日本事務所代表の津村康博氏

国連世界食糧計画(国連WFP)日本事務所代表の津村康博氏による基調講演では、世界の食料不安や国連WFPについての概要説明のあと、自身の経験から「危険地域の赴任など、さまざまなチャレンジを伴うが、飢餓との戦いという大義のもと、実力主義で具体的なアクションを重んじる組織で、やりがいと誇りを持って仕事ができる」と、WFPという国際機関でのキャリアの魅力を語りました。そして、「民間企業でもNGOでも、まずは仕事の経験値を増やしてほしい。すべての道はローマに通ず。やりたいという気持ちがあれば、必ず道は繋がる」と、国際機関や国際協力の分野での活躍を志す参加者にエールを送りました。

多くの学生や高校生がブースに足を運んだ

後半のワークショップでは津村氏、植木特任教授に加え、一般社団法人海外コンサルタンツ協会 (ECFA)前専務理事の髙梨寿氏、国連開発計画(UNDP)前駐日代表の近藤哲生氏、元国連教育科学文化機関 (UNESCO)職員の山下邦明氏、国連人口基金(UNFPA)駐日事務所所長補佐の上野ふよう氏、国連児童基金(UNICEF)東京事務所代表のロベルト・べネス氏、その他外務省国際機関人事センターや UNDP駐日代表事務所などの担当者らが参加。各ブースでは、学生や高校生がキャリアの相談や仕事の魅力について熱心に聞く姿が見られ、会場は大いに盛り上がりました。

【参加者の声】

■「国際問題について興味があり、今の学びがどう将来につながっていくのか、イメージが持てた」(高校2年生)
■「将来のために英語を学ぼうとぼんやり思っていたが、専門性を持つことの大切さを理解できた」(高校2年生)
■「寄付などだけではなく、本当に起こっていることは何か、自分たちができることは何か、といった理解を深めることこそが支援に繋がるということを学んだ」(高校3年生)

気候変動:地球規模の課題にどう対応するか

18日、地球温暖化などの気候変動への対応を考えるシンポジウム「気候変動:地球規模の課題にどう対処するか」が開催され、対面・オンラインあわせて約230人が参加しました。国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授がモデレーターを務め、国際機関などで研究を進める専門家とともにSDGs達成のために必要なアクションを話し合いました。

国連システム学術評議会(ACUNS)次期会長のフランツ・バウマン氏

基調講演では、国連システム学術評議会(ACUNS)で次期会長となるフランツ・バウマン氏が「地球温暖化は人間の認識よりもはるかに早く進行しており、人類の文明や、未来そのものを脅かしている」とデータを示しながら訴え、気候変動に対するこれまでの楽観的な姿勢に警笛を鳴らしました。

国連児童基金(UNICEF)事務局次長のキティ・ファン・デル・ハイデン氏

続いて行われた個別発表では、国連児童基金(UNICEF)事務局次長のキティ・ファン・デル・ハイデン氏は気候変動が子供に与える深刻な影響、元国連経済社会局持続可能な開発部小島嶼国課長の森田宏子氏は低地の島国への影響、上智大学大学院地球環境学研究科の黄光偉教授は多発する洪水に関する発表を行い、それぞれの専門分野からの見解に参加者が頷きながら耳を傾ける様子も見られました。

会場からは、「国連、各国政府、企業、市民のそれぞれのレベルに応じた体系的な取り決めがなされないなか、それぞれのアクションを強める為にできることはあるか」「化石燃料の代替となるエネルギーリソースは何か」などの質問が寄せられ、登壇者と参加者の活発な意見交換が行われました。最後に、植木教授が「気候変動に関する諸課題に対し、まずは個人で何ができるのかを考え、周囲の人とパートナーシップを組み、そして政府にも働きかけることで一丸となって取り組んでいきましょう」と締めくくり、盛況のうちに閉会となりました。

国連システム学術評議会(ACUNS)年次大会 人間の開発セッション

22日、東京大学駒場キャンパスを会場とする国連システム学術評議会(ACUNS)年次大会セッションが行われ、国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授がコーディネーターを務める同セッションでの基調講演が、国連Weeksのプログラムとして開催されました。

講演は、国連開発計画(UNDP)のペドロ・コンセイソン人間開発報告書部長によって行われ、『人間開発報告書2023-2024年版:二極化する世界における協調とは』掲載の具体的な指標や数値に基づき、気候変動への対応や政治的分断など今日的な世界規模の課題についての分析、提言がなされました。

国連開発計画(UNDP)のペドロ・コンセイソン人間開発報告書部長

“The Human Development: open-ended and open-armed”と題した本講演で、コンセイソン氏は「Beyond GDP(GDPを超えて)」を、人間開発報告書を読み解くうえでのキーワードとしてあげ、同報告書では、1.所得という指標を超えて(Beyond Income)、経済的問題以外に起因する多次元的な貧困や慣習的差別を可視化していること;2.平均という指標を超えて(Beyond Averages)、経済・社会の二極化やジェンダー格差に焦点を当てていること;3.短期的視点を超えて(Beyond Today)、人間が地球に及ぼす圧力(Planetary Pressure)を数値化し、人間開発指数(HDI)に加味することで、地球の健全性も含めた未来の世界の姿を展望していることを明示し、同時に各項目における現状と課題について取り上げました。

同氏は講演の最後に、近年の激動の世界情勢や気候変動、急激なテクノロジーの変化がもたらす不確実性が人々に不安を与え、信頼関係の欠如、ひいては政治的分断を生んでいることが2019年以降のHDIの世界的な落ち込みや数値の二極化によっても明らかになっているとし、「本日の講演タイトルのとおり人間開発は終わりなき旅であり、UNDPそして人間開発報告書室は今後もあらゆる機関と協力し、より良い開発の未来を模索していきたい」と協調を呼びかけました。講演後には、会場とオンラインから多数の質問が寄せられ、盛況のうちに閉会しました。

上智大学 Sophia University