叡智をつなぐ、叡智でつなぐ ~学長としての8年間を振り返って ②

学長
理工学部 機能創造理工学科 教授
曄道 佳明

2017年度の就任以降、トップとして叡智(SOPHIA)の歴史を紡いできた曄道学長。8年間の任期終了を前に、在任中の取り組みと当時の思いを、3回にわたって振り返ります。

より多様性に富むキャンパスへと踏み出した1年

新型ウイルスが猛威を振るった2020年、確かに教育も研究も不本意に制限された歯がゆい1年でしたが、今振り返れば、のちのキャンパス多様化につながる、萌芽の年でもありました。

この年の9月に開講した「SPSF」(Sophia Program for Sustainable Futures)は、「持続可能な未来」をテーマに英語で専門科目を学ぶ、6学科連携コースです。所属する学科に軸足を置きながら、他5学科の科目も履修し、学際的に学ぶ。外国籍の学生や帰国子女を含む、多様な学術的バックグラウンドを持つ若者たちが、共通の未来像を頭に描き、議論するしかけは、今、世界で高く評価されるようになりました。

社会人向け教養講座である「プロフェッショナル・スタディーズ」が開講したのも同じく2020年です。教養に着目したのは、日本での教養の意味が、グローバルスタンダードではない点に危機感を覚えたからでした。蓄積された知識を指すと思われがちですが、本来、教養とは力です。新たな視座を生み出したり、課題を多角的に認識したりと、役立ててこそ獲得した意味があるもの。受講者には、講座が提供する哲学、宗教、科学などの題材を、日頃の着想や構想、ひいては仕事観、人生観を変えるきっかけにしてほしいと願っています。

成長を触発する機会をキャンパス内にちりばめる

プロフェッショナル・スタディーズに集まる社会人を、ビジネス上の価値を創造しようと戦略的に学ぶ人たちだとするなら、2024年開講の「地球市民講座」の受講者は、純粋な興味・関心を源泉に学ぶ人たちです。自身の生き方、社会の中での役割を考えるために、知的好奇心をどこまでも追い求める姿勢は、学問の原点だと言えるでしょう。

プロフェッショナル・スタディーズや地球市民講座で社会人を招いているのは、キャンパスをこれまで以上に多様な場にするためです。大学の学部には、精緻に組み立てられた整合性のあるカリキュラムが存在します。高度な専門性が得られる一方で、固定化されたカリキュラムで、どこまで人間的に成長できるのかという懸念もありました。

人の成長というのは計算できない影響の連鎖、いわばバタフライエフェクトだと私は思っています。あるときの経験が、自分では気づかないうちに他の経験と掛け合わさり、増幅され、ふとしたときに成長をもたらす。キャンパスが、それらの経験に満ちた知の拠点であろうとしたとき、20歳前後の学生だけでは、相互に与えられる刺激のバリエーションに限界があるでしょう。

社会人に対して大学生が意見してもいいし、大学生が高校生にお兄さんお姉さん面をすることもあるかもしれない。高校生が、大手企業の管理職や、国際機関のリーダーと話す場もあっていい。もともと世界中から学生や教員が集まる四谷キャンパスではありますが、もっと多様な人が行き交う場所になるべきだと思ったのです。

学位という型から離れた自由な発想

年齢、ジェンダー、国、職業や地位といったあらゆる立場を越えて議論する、多層的な学びの場をつくる組織、「Sophia Future Design Platform推進室」(SFDP推進室)も、コロナ渦が落ち着きを見せた2023年度にようやく開室が叶いました。プロフェッショナル・スタディーズや地球市民講座、また、2020年に始動した高校生向けの探究学習プログラム「せかい探究部」など、単位やカリキュラムの枠組みから離れて人の成長を支える取り組みを、自由に発想する部局です。

SFDP推進室が新たに手掛けるのが、アントレプレナーシップ教育です。2024年11月、「Sophia Entrepreneurship Network」(SEN)を発足させました。上智流のアントレプレナーシップは、起業だけを志すものではありません。人を巻き込んだり、リスクに立ち向かったりと、ありたい未来の実現に向けて困難を乗り越える挑戦者の精神を育みます。ここに、グローバルの視点も加えます。世界180か国でアントレプレナーシップ・エコシステムを構築する非営利団体、Global Entrepreneurship Networkと連携。学部や学年を問わず受講できるワークショップや、卒業生はじめ世界の人、コミュニティとネットワークをつくるプログラムなどを通して、国際社会で通用するアントレプレナーシップを身につけます。 こうして、上智大学に集う人々の成長の機会として、多様な人と多様な経験を積む場を充実させる一方で、既存の学部教育の枠組みもリニューアルを図りました。人は大学にいる間だけでなく、一生涯をかけて学び、成長していくという考え方に立脚する「基盤教育」がそれにあたるのです。(続く)

上智大学 Sophia University