10月11日から26日まで、「第18回上智大学国連Weeks October, 2022」が開催されました。
「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、全9件の多彩なプログラムが展開されました。

経済制裁のインパクト:EUと国連

10月11日、国連Weeks 最初のイベントとして、欧州委員会貿易局長副チーフエコノミストのヤン・シュミッツ氏、法政大学法学部の本多美樹教授、駒沢女子大学人間文化学類の臼井実稲子教授を招いてシンポジウムが開催され、国内外から約130人が参加しました。モデレーターは植木安弘上智大学グローバル・スタディーズ研究科教授。

冒頭、シュミッツ氏から、EU貿易局の役割は加盟国全体の通商政策だが、ロシアのウクライナ侵攻の結果、通商政策が経済制裁となっている現状と、現在の政策が各国にもたらしている経済的な影響について、数多くのグラフやデータを用いた解説がありました。

右から時計回りに、臼井教授、シュミッツ氏、本多教授、植木教授

次に本多教授から、国連安保理制裁の効果をどう考えるか、安保理の正当性について、これまでの制裁の歴史や現状の制度上の問題点とからめて解説がなされました。
続いて臼井教授も加わり、パネルディスカッションが行われました。臼井教授からは、米国・EU・日本も含む西側諸国による第1弾から現在の第8弾までの対ロシア制裁の内容を振り返り、制裁による経済的打撃は標的国のみならず、現在では47の国と地域の制裁発動国にも及んでいることが指摘され、市民は耐えられるのか、経済制裁の正当性をどう担保していくか、西側の考える「正当性」とは何か、といった問題提起がありました。シュミッツ氏からは「西側諸国の世論調査では、市民は民主主義を守るためにはある程度の痛みには耐えると考えているが正しい方法は誰もわからない。過去の実績に基づいて予測するしかない状況であるが、EUではエネルギー危機の端緒ともなっており、軍事的侵攻はもはや「侵攻」ではなく「戦争」と表現すべきレベルである」とのコメントがありました。

ディスカッション終盤では参加者からも質問が寄せられ、暴力的な手段によらず経済的な手段で解決を目指す現在の経済制裁の今後の見通しについて、大きな関心と懸念を全員が共有しシンポジウムを終えました。

アフガニスタン人道危機と支援~農業、民間セクター、経済

10月12日、アフガニスタン関連の専門家を招いてのシンポジウムがオンラインで開催され、高校生、大学生、国際機関関係者を中心に約150人が世界中から参加しました。グローバル教育センターの東大作教授が企画や交渉を担当、当日の進行を務めました。佐久間勤理事長の冒頭挨拶に続いて、カブール平和研究所代表のナディア・ナイーム氏、国連食糧農業機関(FAO)アフガン現地代表のリチャード・トレンチャード氏、元アフガニスタン担当国連事務総長特別代表の山本忠通氏の3人が登壇。上智大学からは上智学院総務担当理事のサリ・アガスティン総合グローバル学部教授がコメンテーターとして参加しました。

アフガニスタンの専門家が活発な議論を展開

ナイーム氏は、旧政権崩壊後のアフガニスタンで金融システム崩壊や飢餓といった危機が引き起こされた経緯について解説。WFP国連世界食糧計画(WFP)をはじめとする食糧支援は短期的には有用だが持続可能性は低いことを示唆し、現地の人々が自らの手で安定的な生産システムを維持するための民間セクターによる長期型プロジェクトが必要だと訴えました。次にトレンチャード氏が、2022年の地震、洪水後の現地の様子について写真とともに報告。飢餓状況下で特に女性の栄養状態が犠牲になっている非都市部での啓蒙活動、持続可能な農業技術支援、十分な公的資金の投入などが喫緊の課題であると強調しました。続いて山本氏が登壇。タリバンと国際社会双方の問題点を指摘したうえで、国際社会での信頼回復のためにタリバンが取るべき行動と、国際社会が行うべき持続可能な支援について説明しました。

東教授は、日本のNGO「ペシャワール会」が継続している灌漑事業をアフガン全土に広げることが、日本ができる最大の支援だと強調し、超党派の「人口議連」にできたアフガンプロジェクトチームの顧問として支援に関わっている現状を説明しました。その後、活発な質疑応答が行われ、アフガンの「自立と安定」を支援する重要性が共有されました。

国連開発計画(UNDP)、国連ボランティア計画(UNV)キャリア・セミナー:その役割とキャリア

10月17日、国連開発計画(UNDP)、および国連ボランティア計画(UNV)からゲストを迎え、国際機関が求める人材やキャリアについてセミナーを開催しました。はじめにモデレーターの植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授から、UNDPがさまざまな国連機関のサポートをしており、知的リーダーの役割を担うなど開発だけではなく幅広い活動をしていることの説明がありました。また、UNVは現地に国連ボランティアを送り込む重要な機関であると紹介しました。

UNDPとUNVのゲストが国連機関の役割とキャリアについて紹介

最初の登壇者であるUNDPアフガニスタン常駐代表アブダラ・アル・ダルダリ氏は、同国でのUNDPの活動について説明。2021年8月15日にタリバンが首都を制圧し、一変してしまった社会、経済状況を立て直すために実施したABADEI (Area-Based Approach to Development Emergency Initiatives)プログラムとその成果や今後の課題について解説しました。続いて、UNV事務局次長の横須賀恭子氏、UNDPアフリカ局TICADユニットTICAD連携専門官の近藤千華氏、およびUNDP危機局国事務所サポート管理チームプロジェクト調整専門官(ヨーロッパ及び中央アジア担当)の桑田弘史氏が登壇。それぞれが所属する機関、部門の仕事内容と自身のキャリア、経験を話した後、国際機関で働く醍醐味や苦労、そして求められる能力、適性について考えを述べました。

セミナーの最後に行われた参加者からの質問には、UNDP駐日副代表の江草恵子氏も登壇者に加わり、さまざまな質問に丁寧に回答し、国際機関などを目指す人たちにアドバイスをおくりました。

パリ協定達成に向けた脱炭素への取り組みとSDGsのインターリンケージ:グローバル・ローカルなイニシアティブ

10月18日、国際協力人材育成センターおよびグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)との共催でシンポジウムが開催されました。

地球環境学研究科非常勤講師で、気象予報士およびフリーキャスターの根本美緒氏がファシリテーターを務めました。森下哲朗グローバル化推進担当副学長の冒頭挨拶に続いて、鈴木政史地球環境学研究科教授が基調講演を行い、環境問題に対する国際的な流れを振り返り、パリ協定の意義を解説しました。そして、脱炭素化とSDGsの課題にはシナジーとトレードオフの2つが大きく関係すると述べ、どちらか一方に取り組むのではなく、包括的に両者がよい方向に進む道を模索する必要があると話しました。

地球環境学研究科の鈴木教授が基調講演を行った

次に、国際連合大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)プログラムヘッドの竹本明生氏が、グローバルな視点から脱炭素を実現するために必要なことを解説。今のままではSDGsの達成は困難であるとし、2030年アジェンダとパリ協定の両立や、複数の問題を同時に解決していくエネルギーシステムの模索など、他国の事例を交えて説明しました。続いて、国際航業株式会社執行役員防災環境事業部長である村嶋陽一氏が、民間企業の事例として脱炭素・防災・街づくりの視点から実践した取り組みを紹介。ヤマト運輸株式会社執行役員サステナビリテイ推進部長の秋山佳子氏は、物流業界における脱炭素への取り組みを解説しました。また、長崎県壱岐市SDGs未来課主幹の篠崎道裕氏は、SDGs未来都市として人口減少や温暖化問題などに取り組む事例を紹介しました。

最後は4人の登壇者に鈴木教授を加え、パネルディスカッションが行われました。活発な意見交換の後、GCNJ代表理事である有馬利男氏の閉会の挨拶で締めくくりました。

オンラインによるキャリア・セッション「国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ」

10月18日、国際機関や国際協力分野でのキャリアを考える人たちを対象にキャリア・セッションが開催されました。

モデレーターを務める植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授の冒頭挨拶に続いて、国際機関などでの経験が豊富な4人が講演を行いました。

高校生や大学生を中心とした参加者から多数の質問が寄せられた

国連事務総長代表兼国連コソボ暫定統治機構セルビア・ベオグラード事務所長の山下真理氏(88年法学部国際関係法学科卒)、国連訓練調査研究所(UNITAR)持続可能な繁栄局長兼広島事務所長の隈元美穂子氏、国連食糧農業機関(FAO)駐日連絡事務所長の日比絵里子氏(87年法学部国際関係法学科卒)、および国連工業開発機関 (UNIDO) 元工業開発官で一般社団法人海外コンサルタンツ協会(ECFA)前専務理事の髙梨寿氏が、順に登壇。自身のキャリア、所属する国際機関での業務内容やそこで働くやりがいなどを語りました。そして、国連の組織と職種は多種多様であり、自分で道を切り開く情熱と自身のブランド力をつけることが大事だと強調しました。

高校生や大学生を中心に国際機関でのキャリア形成を考える多数の参加者があり、講演後は質疑応答が行われました。「国際機関で働くために海外で学ぶことはメリットか」という質問には「語学は必須だが、それ以上に日本から外に身を置くことで異文化に触れ、日本での当たり前が当たり前ではないと知るなど国際的環境で働く訓練になる」との回答がありました。最後に登壇者一人ひとりから参加者にエールがおくられ、閉会しました。

私たちの『食』を考える⇔世界の『食』を考える

10月20日、学生総務担当副学長の永井敦子フランス文学科教授の司会のもと、「私たちの目の前にいない人々の『食』にも関心を持とう」というテーマでシンポジウムが開催されました。世界的な気候変動や平和を脅かす社会状況が生まれている中、国連WFPをはじめとする食糧支援活動への重要性がますます高まっています。講演者に国連WFP日本事務所代表の焼家直絵氏を迎え、上智大学で食料問題に取り組む課外活動団体TFT Sophiaの学生メンバー3人を交えたパネルセッションも行われました。

学生メンバーもパネルセッションに登壇

永井教授からのテーマ解説に続き、TFT Sophiaの学生メンバーである南原麻里さん(法学部国際関係法学科3年)、藤井美友さん(外国語学部フランス語学科2年)、池田奈々美さん(総合人間科学部社会学科1年)が、活動内容を発表。食の不均衡に取り組むことを目的とし、主にアフリカ地域への支援活動を行う同団体が、学生食堂との共同事業として、食券の購入によって途上国への寄付が成り立つ新メニューを開発している事例などを紹介しました。
講演者の焼家氏は、現在約8億2,800万人が飢餓状態にあり、そのうち45カ国の約50万人は緊急の人道支援なしには生存できないという危機的現状とその背景について報告。国連WFPの人道支援と開発支援に関する具体的な取り組みを詳説するとともに、自身の途上国での支援活動について、やりがいや難しさなどを含めた経験談を参加者に共有しました。

後半は、永井教授、焼家氏、学生メンバーによるパネルセッションを開催。学生から焼家氏に「国連WFPが他の国連組織とどのように連携を図っているか」「先進国で暮らす私たちが今できる支援活動は何か」といった質問が投げかけられました。焼家氏からは「学生ならではの発想で企画やプロジェクトを立ち上げ、食料問題に取り組む姿を評価したい。将来国際機関で働くなど即戦力になってくれることを期待しています」という激励の言葉が伝えられました。

ウクライナ戦争をどう終わらせるか?

10月22日、2月にロシアによるウクライナへの侵攻で始まった「ウクライナ戦争」をどう終わらせるのかをテーマに、国際社会、近隣国、および国連の役割について議論するシンポジウムが開催されました。

グローバル教育センターの東大作教授が企画し司会を務め、駐モルドバ日本特命全権大使の片山芳宏氏、ジョージタウン大学教授で国連システム学術評議会会長のリセ・ハワード氏、京都芸術大学特別教授で元国連東ティモール特別代表の長谷川祐弘氏など、各界の専門家が登壇しました。

300人近くの参加と活発な質疑応答

1人目の登壇者の片山大使はモルドバから参加。「ロシアの侵攻以降、多数のウクライナ避難民がモルドバに流入した。豊かな国ではないモルドバだが即時に大勢の避難民を受け入れ、政府と国民が団結して支援している」と現状を伝えつつ、日本社会が行っているモルドバでのウクライナ難民支援の内容を共有し、援助の継続を訴えました。続いてハワード教授がワシントンから登壇し、ロシアの国際法違反、最近の過激化、核およびその他のリスクなどを順に解説しました。そして、ロシアの戦争責任を問うことも含め、戦争を「私たち」がどう終わらせるかを考えるべきだと話しました。

これを受け東教授は今後の5つのシナリオに続けて、どのような条件で対ロシア制裁を解除するかを考えること、「主権尊重という国際秩序の基本ルールを守る国」対「守らない国」という図式に持ち込みまずはロシア軍がウクライナから撤退することを国際社会全体の目標にすべきと訴えました。

最後に長谷川教授が、「国連が平和維持部隊を派遣する」「国連平和部隊はNATO以外のアジアとアフリカ諸国からの軍隊で構成する」などの提案を行いました。
専門家の発表の後、300人近くの参加者から活発な発言が続き、盛況のうちにシンポジウムを終了しました。

軍拡時代の軍縮への課題:国連と日本の役割

国連デーの10月24日、国際平和の実現に向けた軍縮の必要性や、国際社会の役割について考えるシンポジウムを開催。3人の専門家による発表に続き、パネルセッションと質疑応答では活発な議論が交わされました。グローバル・スタディーズ研究科の植木安弘教授がモデレーターを務めました。

冒頭、国連広報センター所長の根本かおる氏から、希望と信念の力に思いを込めた挨拶があり、アントニオ・グテーレス国連事務総長から寄せられたビデオメッセージも上映されました。

国連デーに国連や日本の役割を議論

続いて、元軍縮会議日本政府代表部特命全権大使の佐野利男氏が登壇し、核兵器の拡散を防止する条約の取り組みなどを体系的に解説しました。「新たな核保有国の出現を防止するとともに、核兵器国が核軍縮の約束を果たすことが不可欠だ」と述べ、核軍縮の重要性を訴えるとともに、「核兵器禁止条約」の非現実性を指摘しました。次に、元国連事務次長(軍縮担当)の阿部信泰氏が核兵器の破壊力や危険性を説明。さらに、唯一の被爆国である日本の役割について「被爆の実相を世界に伝え、核兵器禁止条約の支持国と反対国の橋渡し役として、国際的役割を果たすべきだ」と述べました。
国連事務局軍縮局上級政務官の河野勉氏は、ウクライナ戦争をめぐる国連や加盟国の直近の動向について解説しました。東西冷戦の対立構造に触れつつ、「日米を中心とした西側諸国が、いかに国際秩序や自由主義体制を守っていくかが重要だ」と総括しました。

質疑応答では、視聴者から多くの質問が寄せられ、戦禍で浮き彫りになった国際秩序維持の重要性や、それにまつわる日本の国際的役割への関心の高さがうかがえました。最後に植木教授が閉会の挨拶を行い、「さまざまな立場や意見が交錯する国際情勢の場において、中長期的な軍縮をいかに進めていくかは国連にとっても我々にとっても喫緊の課題。今後も引き続き平和構築への道を模索していきたい」と締めくくりました。

ウクライナ避難民保護にみる国際協力の将来—UNHCRスタッフと語る—

10月26日、ロシアによるウクライナ侵攻後、世界の課題となった避難民保護の国際協力体制について、UNHCR(国連高等難民弁務官事務所)関係者と議論するシンポジウムが対面とオンラインの併用で開催されました。法学部国際関係法学科の岡部みどり教授が企画し進行を務めました。

曄道佳明学長のビデオメッセージに続いて、サザンメソジスト大学教授のジェームズ・F・ホリフィールド氏による基調講演が行われました。

ホリフィールド教授の基調講演に学生も熱心に耳を傾けた

ホリフィールド教授は、「歴史的な視点とグローバルな背景」「強制移住の課題」「ウクライナ—歴史的な移住の危機」「移民とグローバル・ガバナンス」の4つの議題を挙げ、多岐に亘る統計資料や歴史的概観などを示しながら詳細に解説しました。そして、国際法上、政治的難民と経済難民は区別されなければならないが、庇護の判断はケースバイケースで行われるとし、「合法的かつ秩序ある移動」の問題に取り組まなければならないと指摘しました。

基調講演に続いて、元UNHCR駐日代表、元国連UNHCR協会理事長で東洋英和女学院大学名誉教授の滝澤三郎氏、旧JICA研究所(現JICA緒方貞子平和開発研究所)元研究員で東洋学園大学専任講師の川口智恵氏、およびUNHCRジュネーブ本部対外関係部門ドナー関係シニア・オフィサーの帯刀豊氏の3人によるパネル・セッションが行われました。岡部教授から事前に提示された3つの質問「ウクライナ難民危機を受けて、難民保護への国際協力のあり方に変化があったか」「変わったとしたらどのように変わったのか」「難民支援のための国際協力は本来どうあるべきか(それに向けた課題は何か)」を踏まえ、人権宣言と難民保護の相関、開発と人道のリンケージと平和構築などについて議論が交わされました。
会場とオンラインの双方の参加者から、気候難民の問題や、ジェンダーへの配慮についてなど多彩な質問が寄せられました。

上智大学 Sophia University