6月3日から17日まで、「第17回上智大学国連Weeks June, 2022」がオンラインで開催されました。「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに9年目を迎えた今回も、国内外で活躍する国際協力分野の専門家が多数登壇。在学生のほか、高校生をはじめとする多くの参加者に恵まれ、参加者数は延べ約1,400人に達しました。

栄養サミットと日本が果たす役割

6月3日、東大作グローバル教育センター教授の企画・司会のもと、「栄養サミットと日本が果たす役割」が開催されました。

昨年12月に東京で開催された栄養サミットで「東京栄養宣言」を採択。日本政府は、今後3年間で栄養不足解消のため3千億円を支援すると表明しました。これを踏まえ、紛争地や脆弱国家における飢餓や貧困の削減のために日本がどのような役割を果たせるのかを議論。岡田隆学術研究担当副学長の冒頭挨拶に続いて、4人が登壇しました。

右から時計回りに、黄川田氏、村上氏と藤田氏、焼家氏、東教授

はじめに、国際人口問題議員懇談会事務総長で内閣府副大臣の黄川田仁志氏が、「日本が世界の貧困・飢餓の解消に向け努力する意味」と題して講演しました。質が高く、自立を助け、相手に寄り添い尊重するという、日本の支援の特徴を紹介。そして、「女性と栄養」の分野を日本として主導していきたいと今後の展望を述べました。
次に、国連世界食糧計画(WFP)日本事務所代表の焼家直絵氏が「WFPの活動と、栄養サミットの意義や課題」をテーマに講演。紛争、気候変動、コロナ禍やウクライナ紛争などで脆弱国が飢餓と栄養不良の最も大きな影響を受けていると話し、栄養サミット後の具体的な支援を呼びかけました。
続いて、ペシャワール会会長の村上優氏と同会理事の藤田千代子氏が登壇。パキスタンやアフガニスタンで人道支援に取り組んだ医師の故中村哲氏の遺志を継ぐ、同会の活動を紹介しました。

東教授は「人間の安全保障と飢餓〜人道危機と日本の役割〜」について解説。講演後には参加者との活発な質疑応答が行われました。

人間の安全保障:日本の評価とグローバルな展開

6月6日、国際協力人材育成センター・人間の安全保障研究所との共催でシンポジウムが開催されました。国際協力人材育成センター所長の植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授の進行のもと、冒頭に曄道佳明学長が挨拶しました。本シンポジウムには、多数の高校生を含む200人以上が参加しました。

はじめに、国連事務総長特別顧問(人間の安全保障担当)で、元国連大使、元国連事務次長である高須幸雄氏が、「人間の安全保障とSDGs」と題し基調講演。

活発なディスカッションも行われた

国単位では十分でなく地域単位でどうSDGsを実現できるか問うことで、課題を可視化する必要があると話し、環境や経済の持続可能性を目指すだけでなく、同時に多様性を認め、人間の尊厳の指標も入れた総合的な人間の安全保障の大切さを強調しました。

次に、国際開発計画(UNDP)駐日代表の近藤哲生氏が、UNDPで報告された「人間の安全保障に関する特別報告書~人新世の時代における人間の安全保障への新たな脅威~」について説明しました。「人間の安全保障」に対する新しい時代の脅威として、環境問題、デジタル技術、暴力的紛争、不平等、健康を挙げ、変化に順応した視点が必要だと指摘。そのために、保護とエンパワーメントに加え、人間同士だけでなく地球との連帯まで考えを広げるパラダイムを提供しました。

続いて、人間の安全保障研究所所長の青木研経済学部教授が、同研究所の活動内容を報告。「人間の安全保障」をキーワードに、貧困、環境、保健・医療、移民・難民、平和構築の分野を繋いだ研究の意義を説きました。

最後に行われたパネル・ディスカッションでは、高須氏が権利を主張することの大切さを改めて強調し、主体的に人の尊厳を守る意義を語りました。
予定時間を超過しての活発なディスカッションの後、植木安弘教授が閉会の挨拶を述べ締めくくりました。

ウクライナ紛争と国連憲章に基づく国際秩序の将来

6月8日、シンポジウム「ウクライナ紛争と国連憲章に基づく国際秩序の将来」が開催されました。

冒頭、モデレーターの植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授は、ロシアによるウクライナ軍事侵攻は国連総会で国連憲章違反と明確にされたと指摘し、国際秩序を揺り動かす大きな出来事であると説明しました。今後の行く末や将来の国際秩序はどうなるのか、各分野の専門家である6人のパネリストが見解を述べました。

6人の専門家が多角的な議論を展開

はじめに、前国連大使で大阪大学大学院国際公共政策研究科の星野俊也教授が、ロシアの暴挙に対して国連外交は「無力」なのかという視点から、国連の課題や問題点、さらに国連外交への期待を述べました。
外国語学部ロシア語学科の湯浅剛教授は、ロシアがウクライナに軍事介入した理由と冷戦後以降の主な出来事、そして規範・軍事をめぐる米欧とロシアの分断について解説しました。
元ウクライナ大使で玉川大学の角茂樹客員教授は、ウクライナ側からみたロシアとの関係について歴史を紹介。ウクライナ国民のロシア離れと、EUへの支持を固めることになった大きな出来事についても解説しました。
静岡県立大学の六鹿茂夫名誉教授は、この度の紛争が黒海地域の国際政治の視点からどう捉えられるか、そして同地域の国際政治にいかなるインパクトを与えているかについて話しました。
前国際刑事裁判所裁判官で中央大学法学部の尾崎久仁子特任教授は、ロシアのウクライナ侵攻について、個人に責任が及ぶ国際犯罪に焦点をあてて説明。個人の責任が生じる4つの犯罪や刑事責任がどのように追及されるのか解説しました。
国際教養学部の安野正士教授は、日本の安全保障への影響について述べました。さらに国際秩序や国際規範への違反に対し、国際社会や日本がどう向き合うべきなのか、理想と現実を対比しながら問題提起しました。

専門家の解説の後、参加者からは多くの質問が寄せられウクライナ紛争への関心の高さがうかがえました。

文化的でインクルーシブなコミュニケーション(医療編)

6月11日、理工学部などの共催で、「文化的でインクルーシブなコミュニケーション(医療編)」を開催。インクルーシブコミュニケーションとは、すべての人を尊重し、正確に、そして受け入れる効果的なコミュニケーションを指します。医療サービスの現場で正しいコミュニケーションができない現実があることを考える機会として、理工学部情報理工学科の高岡詠子教授が企画。澁谷智治理工学部長の冒頭挨拶に続き、4人の講演者が登壇しました。

手話通訳(左上)も提供された

はじめに、学習塾早瀨道場塾長で映画監督の早瀨憲太郎氏が「音の無い世界に生きる者から皆さんへ」と題し、聴覚障害のある当事者としての経験や想いを語りました。
株式会社シュアール代表取締役の大木洵人氏は、ITサービスで聴覚障害者と聞こえる人の対等な社会を目指す企業の取り組みを紹介しました。
続いて、高田馬場さくらクリニック院長の富田茂氏が登壇。冨田氏は非英語圏からの住民が急増している新宿区で多文化クリニックを開設している立場から、外国人の保健利用アクセスへの課題を提示しました。
最後にランゲージワン株式会社多文化共生推進ディレクターのカブレホス・セサル氏が講演。多文化共生の壁は言語だけでなく文化も含むことについて例を挙げて説明。現在の遠隔通訳サービスやその他の取り組みを紹介しました。

シンポジウムを通して、手話通訳と字幕(文字起こし)サービスが提供されました。参加者からは「今まで知らなかった目線、価値観や技術を知ることができた」など、貴重な機会になったとの感想が多く寄せられました。

JICAの平和構築への挑戦~国際機関との連携も視野に~

6月14日、「JICAの平和構築への挑戦~国際機関との連携も視野に~」が開催され、国内外から約400人が参加しました。この企画は、グローバル教育センターの東大作教授が2016年から実施している連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」の一つです。

冒頭、佐久間勤理事長が挨拶。人類全体の課題解決に向け、上智大学が人間の安全保障研究所を設置していることなどを紹介しました。

学生などからさまざま質問が多数寄せられた

シンポジウムでは、独立行政法人国際協力機構(JICA)副理事長の山田順一氏が登壇し、コロナ禍やウクライナ紛争の中、平和構築や人間の安全保障などの難しい課題に、JICAがどのように取り組んでいるかを講演しました。
山田氏は、ミャンマー、アフガニスタン、ウクライナでの支援の事例を具体的に説明。また、JICA元理事長で上智大学外国語学部教授も務めた故緒方貞子名誉教授から薫陶を受けた、JICAの現場主義についても紹介しました。そして、「JICAは開発機関としての強みと経験を生かした支援を続けていく。多様な国際機関と人道・開発・平和の連携の実現を目指す。オーナーシップを尊重する日本への信頼を生かし現地の人々の努力を支援したい」と締めくくりました。

講演後、コメンテーターを務めた総合グローバル学部のサリ・アガスティン教授や参加学生などが、直接多くの質問を投げかけ、山田氏は東教授と共にその一つ一つに丁寧に回答しました。

オンラインによるキャリア・セッション「国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ」

6月15日と16日に、国際機関や国際協力分野でのキャリアを考える人たちを対象にキャリア・セッションを開催しました。

初日は、元上智大学特任教授で国連のさまざまな機関で勤務経験のある浦元義照氏が、「『格差と夢』:恐怖、欠乏からの解放、尊厳を持って生きる自由 国際機関の役割」と題して、基調講演を行いました。

初日に浦元氏が基調講演を行った

続いて、植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授がモデレーターを務め、元国連教育科学文化機関(UNESCO)職員などを務めた山下邦明氏と、国連人口基金駐日事務所長の佐藤摩利子氏が登壇しました。
2日目は、グローバル教育センターの山﨑瑛莉講師がモデレーターを担当。元OECD東京センター所長でMPower Partnersゼネラル・パートナーの村上由美子氏、世界銀行アジア地域総局インド担当局長代行の森秀樹氏、およびアフリカ開発銀行アジア代表事務所所長の花尻卓氏が登壇。

両日とも、登壇者は自身のキャリアや経験を話した後、参加者からの多数の質問に丁寧に回答し、国際機関などを目指す人たちにアドバイスをおくりました。

上智大学 Sophia University