自国完結ではなくアジアという地域単位で高等教育を考える
5月23日・24日に日本経済新聞社主催の日経フォーラム第29回「アジアの未来」が開催され、都内の会場には諸外国からも多くの参加者が集まりました。1995年から開催されている本会議では、アジア大洋州地域の政治・経済・学界のリーダーらが集い、域内の様々な問題や世界の中でのアジアの役割について率直な意見交換が行われています。昨年からアカデミックパートナーとして協賛している上智大学からは、総合人間科学部教育学科の杉村 美紀教授が、アジアの高等教育に関するパネル討議に登壇しました。
初日には、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相やベトナムのレ・ミン・カイ副首相、2日目にはタイのセター・タウィーシン首相、シンガポールのガン・キムヨン副首相といったアジア各国の首脳陣が登壇し、世界情勢に鑑みた各国の役割などについて講演が行われました。会場では同時に、経済政策、金融、外交、教育、環境といった多角的なテーマでのパネル討議も行われ、杉村教授は初日開催の「アジアにおける高等教育の国際連携と知の共同体」と題したパネル討議に参加しました。
同プログラムには、東南アジア教育大臣機構高等教育開発センター長のロムイェン・コーサイカノン氏と、オンラインで国際大学協会会長のアンドリュー・ディークス氏も登壇。アフリカ諸国を含む世界各地からの留学生の受入先としての需要が急増しているアジアの高等教育機関に焦点を当て、教育研究プログラムにおける国際連携の現状と、国境を越えて教育の質を高めていくための課題などについて討論が行われました。
アジアには現在、複数の高等教育ネットワークがあり、高等教育圏を形成しています。コーサイカノン氏の東南アジア教育大臣機構高等教育開発センターが運営するアジア国際モビリティプログラム(AIMS)もそのひとつで、上智大学もAIMSに加盟しています。杉村教授は、日本とアジアの高等教育交流やESD(持続可能な開発のための教育)の現状の取り組みなどについて言及したうえで、国境を越えた知の共同体を構築していく過程で忘れてはならないのが、地政学的な教育格差の問題であり、社会的弱者を高等教育で支援するためのプログラムづくりについて、国際的なネットワークを通じて考えていく必要があると述べました。ディークス国際大学協会会長は、人や情報が国境を越えて行き交ういま、高等教育という分野においても、各国がそれぞれの需要を各国内で満たすことはもはや不可能である。わたしたちの未来は共同のものであることを認識し、多文化理解のもとにコンソーシアム(共同体)を形成することが重要であると締めくくりました。
セッションの最後には、オンラインの参加者から、今後の高等教育におけるメタバース活用やオンライン教育の可能性についての質問があり、登壇者それぞれの視点から知見が共有されました。