原子核の存在限界(中性子ドリップライン)の新たなメカニズム

中性子は原子核にいくつ入るか

理工学部機能創造理工学科の高柳 和雄教授 が参加する研究グループの成果が発表になりました。本研究の成果は Nature誌に論文として掲載されます。

発表のポイント
  • 原子核は陽子と中性子の塊であり、陽子や中性子の数が最大いくらになれるかは、学術上重要な基本的問題である。陽子の数(Z)の上限は最も重い元素を意味する。一方、ある元素において最大の中性子数(N)の原子核は中性子ドリップラインと呼ばれ、その全容は分かっていない。ドリップラインは宇宙での元素合成などにも関わり、学際的な意義も大きい。

  • 本研究では、ドリップラインが決まる新たなメカニズムを理論的に解明した。伝統的には、中性子が入れ物(平均ポテンシャル)に入りきれなくなってドリップラインになると考えられてきた。今回の対象となった元素ではそれは該当せず、原子核の形が球から楕円体へ変形して起こる結合エネルギーの増減がドリップラインに重要であることを示した。

  • 本研究では、素粒子の根本理論である量子色力学(QCD)から始め、原子核中での有効核力を求め、ドリップラインや励起エネルギー準位を第一原理的にスーパーコンピュータでのシミュレーションで計算し、実験データとの一致を見た。本研究の成果は Nature誌に本論文として掲載される。プレスリリース中の図1に研究内容の端的なイラストレーションが示されている。

発表概要

原子核中の陽子数(Z)や中性子数(N)はどこまで大きくなれるのか、というのは学術的に基本的な問いであり、宇宙での元素の合成にも関わる学際的な意義もある。元素に応じてZは指定されるが、Nはさまざまな値を取れ、その元素のアイソトープ(注1)を成す。

あるZに対して最大のNの原子核をドリップラインと呼び、それを明らかにするのは原子核物理学の主要な課題の一つである。本研究では、ドリップラインを理論的に研究し、それを決定するメカニズムに関して、旧来のものとは異なる新たなものを提案し、それがフッ素(Z=9)からマグネシウム(Z=12)のアイソトープのドリップラインを記述することを示した。理論計算は量子色力学から出発して第一原理的に進め、信頼性の高いものである。

CI(Configuration Interaction)計算の部分はスーパーコンピュータ「京」などによって可能になり、励起エネルギー準位の実験データも再現した。新しいメカニズムでは、原子核の形の変形の増減がモノポール効果と組み合わされて、ドリップラインを決めていることを示した。このメカニズムをさらに重い原子核に適用して、物質の創成と存在限界に関する我々の理解を大いに拡げることが期待される。

(注1)
アイソトープとは同じ陽子数(Z)で、中性子数(N)が異なる原子核間の関係を指すが、実際にはそのような原子核も指すことも多い。例えば、酸素の場合、原子番号はZ=8で、中性子数はN=5から16までの原子核が存在し、それらは互いにアイソトープの関係にあり、また、個々の原子核も酸素のアイソトープと呼ばれる。

研究成果の詳細については、プレスリリースをご覧ください。
プレスリリース全文(PDF)(1.02 MB)

上智大学 Sophia University