2018年6月26日(火)午後6時45分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」、2018年度の第3回目が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場にて開催されました。
この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生と市民、外交官や国連職員など、多様な参加者が、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。
第4回目のセミナーでは、城内実氏(元外務副大臣、自民党経済産業部会長)が「外交と政治~学生の皆さんに伝えたい事~」をテーマに講演しました。会場には150人を超える学生や社会人が詰めかけました。
会の冒頭、上智大学高大連携担当副学長の藤村正之教授は、社会学者ジンメルの「社交とは純粋な社会である」という言葉に言及し、経済活動や政治活動においては、利害関係や力関係が影響するのに対し、「社交」の場面においては、会話や食事を通じた人間関係が影響力を持ち、ゆえに夾雑物をはぎとった純粋な人間関係、純粋な社会が存在するというジンメルの概念を提示しました。そして、国際政治においては、社交及び外交が、交渉の重要な場面であり、そこでは、人間関係が大きな役割を果たすと指摘。今回のセミナーを通じて、外交の第一線で活躍する城内氏から、その神髄を聞くことができることに、期待と感謝の念を述べました。
今回のセミナーの講師である城内氏は、大学卒業後、外務省に入省し、キャリアの外交官として、14年間外務省で務めた後、外務省を退官し、自民党の公募に応じ、厳しい選挙を経て国会議員に当選しました。その後、自民党の外交部会長、外務政務官などを歴任し、2014年からは外務副大臣を務めました。講演では、その経験を基に、外務省の職員や政治家としてのやりがい、苦労や困難、これからの日本の外交のあり方や抱負、目標について述べました。
まず城内氏は、ドイツで過ごした幼少期の体験、受験の葛藤や学校時代の思い出を振り返り、「高い目標を設定し、果敢にチャレンジする。一度は失敗するが、そこで諦めずに、2度、3度挑戦を繰り返すことで、なんとか目標を達成してきた人生です」と述べました。大学に入るまでの道も決して平坦ではなく、様々な挫折を繰り返しながら、一浪して東京大学に入学した後、外交官になろうと決心し、一心不乱に勉強して、外交官試験に受かった体験を共有しました。
次に、外交官としての14年間の経験をもとに、「外交」の現場では、人間関係が非常に重要であることを強調しました。特に、食事を共にすることで信頼関係が育まれること、そして、「晩餐会」など食事を共にする行事を通じて、人間関係を培うことが、外交においては非常に重要であると強調しました。そして安倍政権が、「地球儀を俯瞰する外交」を掲げ、安定した長期政権のもとでの外交が、大きな成果をあげていると述べました。また、首相や大統領レベルの外交においても、お互いに顔馴染みであることや、サミットなどを数多く経験していることが、相手国からの敬意や尊敬を得る上で重要であることを指摘しました。
それから、外交の現場での様々なエピソードを語り、会場を沸かせ続けた城内氏は、最後に学生へのメッセージを3つ語ってくれました。
一つは、学生の人たちには、「知識」を得ることのみで満足せずに、それを十分に自分の中で理解し認識を深め、「知性」にまで伸ばして欲しいということです。さらに「知性」を磨き、人間関係を大事にする中で、「感性」を高めて欲しいと強調しました。そして、相手の立場にたって、相手の心や感情がわかる、「感性」の高い人こそが、大事な仕事ができる人であると語りました。さらに「感性」を磨き、人格を磨く中で、立場や肩書ではなく、人間としての魅力で人々を引きつける「霊性」を持っている人がいる、その境地まで至ることを目指して欲しいと話しました。
二つ目に城内氏は、今後の人生の一つの選択肢として、国会議員や、県会議員や都議会議員、県知事など、政治家の道も、考慮に入れて欲しいと、学生たちに語りかけました。政治家になることを敬遠する雰囲気が日本にあるのは事実ですが、やはり「予算」と「法律」を作ったり、変えたりすることができるのは、国民から選挙によってその責務を負託された政治家です。非常に辛く厳しい道でもありますが、人々の役に真に立つことができる職業であり、ぜひ若い人たちで志を持っている人には、政治家も一つの選択肢として考えて欲しいと、城内氏は訴えました。
三つめは、外交官や国連やJICA、企業など様々な職業の選択肢があるが、ビジネスに興味ある学生には、ぜひベンチャービジネスにも挑戦して欲しいと、自民党経済産業部会長として願っていると述べました。確かにリスクが多い業界ですが、それだけ成功すれば成果も大きいのがベンチャーの世界であり、そうしたリスクを取ってチャレンジして欲しいと、学生に語りかけました。
城内氏自身、郵政民営化法案に信念を持って反対票を投じた後、自民党から刺客を送られ、無所属で選挙に出て、僅差で敗れたことがありました。その後は、まさに「弱者の戦法」で、おみくじつきの名刺を作って、多くの人々に配ったり、スポーツ新聞にならった自分の活動を伝える新聞を作ったりして支援者を増やし、見事、4年後に国政に復帰しました。その後も懸命の努力を続け、前回の衆議院選挙でも、65%を上回る得票を獲得し、非常に選挙に強い国会議員になれたのは、地盤や看板がなくても、努力次第で、選挙に強い政治家になれると証明できたと思うと、熱く語りました。
城内氏の講演の後、コメンテーターも務めた藤村教授は、国連が1国1票主義を採用している以上、大国ではなく、小国こそが国連を動かしている面があるのではと指摘しました。そのため、小さい国々にいかに賛同してもらえるかが重要になるのではと、城内氏の考えを聞きました。また藤村教授は、外交においては、時間をかけて信頼関係を築くことや相手の人柄を把握することが重要になる中、「一発勝負」のような首脳会談において、「どのように信頼を獲得するのか?」と城内氏に尋ねました。
城内氏は、国の指導者同士の関係においても、共に食事し、「同じ釜の飯を食べる」仲間になることが重要であると答えました。一緒に同じものを同じ空間で食べたり飲んだりすることが、人間関係においては非常に大切であること。さらに相手の立場に立ち、相手が食べられないものを事前に調べ、用意するなどの「おもてなし」の心が重要であると強調しました。「わたしは最高の接待を日本の外務大臣から受けた、と相手に思ってもらえるようなアレンジをすることが大事です。特別なもてなしを受けたと相手が感じることで信頼関係が生まれます。人間は『情』で動く部分があるため、食事やスポーツなどを通して信頼を得ていくことがとても大切なのです」と城内氏は語りました。
さらに城内氏は、藤村教授が指摘するよう、小さな国々からの支持が非常に重要であり、城内氏自身、外務副大臣だった際に、アルメニアや太平洋島嶼国などの小国を数多く訪問し、日本の立場への理解を求めたと話しました。そして城内氏は、「確かに大国は影響力があるし、P5と呼ばれる国連安全保障理事会常任理事国には拒否権があるが、仮にP5以外の190ヶ国が日本を支持した場合、小さな1票が積み重なって、国際社会における空気が変わっていくのも現実。だからこそ、学生が留学先を選ぶ際に、アメリカや中国などの大国だけではなく、ルワンダやアフリカ諸国などの『変わり種』にもぜひチャレンジして欲しい。このような場所においてこそ、今まで自分が知らなかったことが学べる。常にアンテナを高くし、世の中で流れている様々な情報を、自分のリテラシーや感性で真偽を判断してほしい。」と学生たちに熱く語りかけました。
講演後、学生や社会人の方々から多くの質問が城内氏に寄せられました。「外交交渉の過程において、相手国と自国のスタンスまたは国益が逆行する際、どのような姿勢で交渉を行っているか?」という質問に対し城内氏は、「相手の立場に立つことも重要だが、相手に譲歩すると国益が守れない場合もある。日本は軍事力によって相手に主張をのませることはできないため、外交交渉が鍵となる。自国の立場をしっかりと主張し、駆け引きも駆使するが、交渉はゼロサムゲームではないので、譲れる部分は譲り、譲れない部分は守り、相手国と自国の折衷案を模索していくことが重要」と力説しました。
また、「人に関心も持ってもらうよう話をする上で、心がけていることは?」という質問に城内氏は、人を楽しませる「ユーモア」が大事であり、そのためには、背伸びをせずに相手に「素」の自分をさらけ出すことも、時には重要であると述べました。
「情報が溢れている現代において、真偽を見極める上で大切にしていることは?」という問いに、城内氏は、知性だけでなく感性を大切にすべきだとし、固定観念を脱し、様々なタイプの人や価値観が存在していることを認識する大切さを述べました。また、物事を表面からだけでなく、裏や4次元思考(過去及び未来からどのように見えるか)などを通じ、自分の中でリテラシーを作り、情報を精査していくべきだと話しました。
最後に、この連続セミナーの主催者で司会を務める上智大学グローバル教育センターの東大作教授が、安定した職業である外交官をやめ、政治の世界に飛び込んだ城内氏の生き方に深く感銘を受けた旨を語りました。また東教授自ら、2010年の一年間、国連アフガニスタン支援ミッションの和解再統合チームリーダーとして、アフガン政府とタリバンの和解に向けたプログラム作りに関わった経験や、2012年から2014年にかけて、国連日本政府代表部公使参事官として、「和平調停」に関する国連総会決議案に「包摂性の重要性」を強調する文言を提言し、それを各国に支持してもらったこと。さらに、日本が議長を務めていた「国連平和構築委員会教訓作業部会」の議長を務めていた際、日本が提案した内容を支持してもらうために、他の加盟国の外交官と食事を共にしながら、一人一人に会って趣旨を話し、賛同を得ていった経験などを話し、城内氏が強調した「食事を通じて人間関係や信頼を得ることの大切さ」を自分も実感していると述べました。そして今回の講演を通じて、城内氏の生き様を直接肌で感じることができた学生に対して、将来の安定だけを考えるのではなく、本当に好きなことがあるのならば、それに飛び込んでチャンレジし、後悔のない人生を歩んで欲しいとの思いを語り、会を締めくくりました。
セミナーは、当初の予定を大幅に超過して、午後9時すぎまで、参加者と城内氏の間で熱い議論が行われ、最後に会場からの大きな拍手の中、城内氏は会場を後にしました。