精神疾患の早期発見と早期介入の方法を、看護学の立場から研究している総合人間科学部の小高恵実准教授。若い世代が発症しやすい統合失調症や、近年増加傾向にある若い世代の「うつ」の患者を、適切に医療につなげる方法を探っています。
統合失調症は、思春期から青年期に発症しやすい病気です。早い段階で適切な治療をすれば重症化を防ぐことが可能ですが、本人も家族も何が起きているかわからず、治療につながりにくい傾向があります。
患者の母親たちへのインタビューでよく耳にするのは、「子どもの人格が180度変わってしまい、とても不安だった。でも思春期だからだろうと思っていた」という言葉です。「時間がたてば落ち着くはず」と見守るうちに重症化してしまい、ますます病院に連れていくことが難しくなってしまうケースが多いのです。患者本人も「自分はおかしい」と気づいていますが、病院に行きたいとは言えません。日本における精神科の敷居はまだまだ高いのです。
家庭という閉鎖空間に患者を閉じ込めないために

地域に埋もれている精神疾患の患者さんを、医療機関につなげるために何ができるのか。それが私の長年のテーマです。ある意味、家庭は非常に閉鎖的な空間ですから、本人や家族からのアプローチがなければ、医療者は立ち入ることができません。まずは本人と家族が精神疾患に気づくこと、そして医療機関へのつながり方を知ることが必要です。
一方で、地域には保健所があり、保健師がいます。地域に密着した医院・病院もあります。近所の方から「叫び声がする」「迷惑行為があった」などの連絡があった場合、保健所の職員や保健師、看護師らがその家庭を訪問してサポートすることができないかと厚生労働省に訴えてきました。
その成果もあり、数年前に未受診、もしくは長期間受診していない患者宅に保健師や看護師が訪問することに診療報酬がつくことになりました。これは大きな一歩です。本人が受診を拒否するなか、「どうすれば病院に連れて行けるのか」と困っている家族を支えることが可能になると期待しています。
学校の養護教諭も、早期発見において重要な存在です。「親には話せなかったが、学校の養護教諭には相談した」という患者は少なくありません。しかし「親には言わないで」と口止めされると、養護教諭も安易に動くことはできないのです。学校・家庭・医療がどう連携していくかは、今後の大きな課題です。
SNSの文脈からメンタルヘルスを読み解く試み
もう一つの課題は、患者本人が自分の病気に気づき、医療機関に簡単にアクセスするためのシステムづくりです。
現在、若者の「うつ」による自殺者の増加は深刻です。メンタルヘルスの不調を早期に自覚して医療機関につながることは、緊急の課題です。気づきの第一歩として着目しているのが、SNS投稿です。現在、上智大学大学院の応用データサイエンス学位プログラムとの共同研究として、SNSの投稿のような曖昧な短文を集約してAIに学習させ、そこからメンタルヘルスの状態を推定する研究を進めており、やがてはこれを応用して、若者が自分自身の曖昧な状態を文章にして入力することで、自分で自分のメンタルの状態が推測できるアプリの開発を目指しています。これによって、自身の抑うつ的な状況に気づき、そこから簡単に医療機関や医療相談窓口と接続できるシステムをつくれたら、と考えます。その際には、第三者による利用ができない工夫を凝らすなど、充分に人権に配慮した対応をとることはいうまでもありません。
精神疾患だけでなく、発達障害も早期対応が必要です。子ども時代に見過ごされてしまうと、社会に出てから適応できずに苦しむことになることもあります。疾患や障害を抱えていても生きやすい世の中に変えていきたい、それが私の研究の目的です。
この一冊
『相方は、統合失調症』
(松本キック/著 幻冬舎)

お笑いコンビ・松本ハウスのハウス加賀谷さんは中2で統合失調症を発症し、芸人になって症状が悪化、人気絶頂の中で休業しました。復活までの10年間を見守り続けた相方・松本キックさんの包容力に感動しました。
-
小高 恵実
- 総合人間科学部看護学科
准教授
- 総合人間科学部看護学科
-
聖路加看護大学(現 聖路加国際大学)卒、同看護学研究科博士後期課程修了。博士(看護学)。国立精神・神経センター武蔵病院(現 国立精神・神経研究センターNCNP病院)、慶應義塾大学看護医療学部助教を経て、2011年より現職。
- 看護学科
※この記事の内容は、2024年10月時点のものです