発光現象で知られるプラズマを使い、従来法では接着が困難だった材料を貼り付ける技術を開発している、理工学部の田中邦翁准教授。企業の困りごとを解決し、ものづくりの最終段階に貢献することの魅力について語っています。
応用化学はものづくりの最終工程で出てきた課題を解決し、実装化につなげる役割を担っています。私が力を入れているのは応用化学の中でも、プラズマを使った接着技術を開発することです。
氷など固体の分子は温めると液体になり、さらに温め続けると気体になります。この状態にエネルギーを加えると一部の粒子が電離します。この荷電粒子を含んだ状態がプラズマで、固体・液体・気体に次ぐ「物質の第4の状態」と言われています。
フッ素樹脂を接着する方法を開発
身近なプラズマといえば、その特性である発光現象を利用したネオンサインが知られています。文字や絵をかたどったネオン管から赤や紫の光がぼんやりと輝くもので、LEDが普及する前は店の看板などに広く使われていました。しかしこれはプラズマのごく一部。高い反応性を持つプラズマは、固体の表面に当てるとさまざまな性質に変化させることができます。この技術は、集積回路の作成にも使われており、製品の加工段階にもなくてはならないものになっています。
固体を変化させるプラズマの性質は接着技術にも大いに利用されています。製品を作るためには性質の異なるさまざまな材料を接着させるプロセスが欠かせません。そのために特殊な接着剤や接着しやすい素材が開発されていますが、それだけではうまくいかないことがあります。そのような場合、プラズマの働きを利用するとうまく接着することができることが少なくないのです。
例えば私が開発した、フッ素樹脂を接着する技術もその一つです。ある種の反応性の高い薬品を使えば接着は可能ですが、表面が真っ黒になってしまうので見た目がよくない。処理をした際に廃棄物が出てしまう点も問題でした。プラズマによってこうした問題がなく接着ができるようになり、企業からとても喜ばれました。
研究を通して課題解決能力を身につけて欲しい
私の研究は、企業の方々からの「この材料をプラズマで接着させることはできませんか?」という相談からスタートします。それを踏まえ、実現したい反応を起こすためにプラズマにどのような物質を加えればいいのかを設計し、専用の反応装置を作ります。その装置に目的の材料を入れ、プラズマを当てて成功するまで実験を繰り返していきます。
私はいつも、企業の方々に対して「何かお手伝いできることがあれば、役立ててください」「困ったことを解決する糸口として使ってください」というスタンスで研究に取り組んできました。多くの相談の中には困難と思われる課題もありますが、努力して応えることが研究者の使命と捉え、研究と向き合っています。成功はもちろん、予想外の成果が出たときのうれしさがやりがいにつながっていますね。
過去に失敗を繰り返し、まだ実現していない課題もありますが、これからも挑戦を続けていくつもりです。研究室の学生たちには、「必ずしもプラズマにこだわる必要はなく、研究を通して課題解決能力を身につけて欲しい」と話します。社会に出てしばらくの間は、先輩や周囲の人たちが解決策を教えてくれますが、マネジメントを任される立場になったらそうはいきません。そのような時、研究計画から実験・結果を分析する一連の研究のプロセスに取り組んだことが必ず糧になる。このことを伝えていきたいですね。
この一冊
『I,ROBOT』
(ISAAC ASIMOV/著 OXFORD BOOKWORMS LIBRARY)
「われはロボット」の名で知られる1950年刊行のSF小説。ロボットが従うべき事項として示された「ロボット三原則」の一つが「人間への安全性」で、現代のAIの問題を予見していたかのようです。日本語版はもちろん、映画にもなっているのでぜひ読んで欲しいですね。
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田中 邦翁
- 理工学部物質生命理工学科
准教授
- 理工学部物質生命理工学科
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上智大学理工学部化学科卒、同理工学研究科応用化学専攻修了。博士(工学)。上智大学理工学部助手などを経て、2011年より現職。
- 物質生命理工学科
※この記事の内容は、2023年7月時点のものです