総合グロ-バル学部の小林綾子准教授は、紛争分析を中心に、国際機関やグローバル・ガバナンスについても研究しています。小林准教授が模索する、紛争の捉え方とは?
私の専門は国際政治学で、紛争のダイナミクスや和平プロセス、国際機関の役割、広くはグローバル・ガバナンスに関心を持っています。外務省の専門調査員として現場で政治・軍事情勢の調査研究にあたった経験から、アフリカのスーダン共和国と南スーダン共和国に焦点を当てた事例分析を中心に研究を行っています。
北東アフリカに位置するスーダンは、地中海とインド洋、中東とアフリカなど地理的にも文化的にも結節点になっている国です。北部と南部の間で国内武力紛争(内戦)が勃発したのは1956年のことでした。国際的な仲介もあり、2005年に和平合意が締結され、2011年にはスーダンから南スーダンが分離独立しましたが、それ以降も各地で紛争が続いています。
紛争終結に大切なのは、軍事力で支配するというマインドが変わること
紛争が続く背景には、かつては共存していたはずの多様な民族の違いが分断に利用されたり、軍事力こそが権威を示すと考える権力者が存在したり、天然資源が資金源になるなどの要因があります。紛争が長引いたり再発したりするほど、武装勢力が、より利益を得られるような振る舞い方や戦略を学習していることも問題を複雑化します。例えば、国際アクターに対して好意的な態度で支持を得つつ、実際には約束を守らない事態が起きているのです。
紛争を終わらせ、平和を達成するには、権力者たちの軍事力至上主義が変わることが大事だと考えます。近年では、他国で社会変容を起こした方法をインターネットで学んだ若者が市民社会を強化したり、デモなどの非暴力な市民運動で社会を変えようとしたりする動きも出てきています。グローバル・ガバナンス研究では、国家や国際機関のみならず、市民の役割も重視されます。実際、2019年には非暴力の民衆蜂起によってスーダンの独裁政権が覆されました。社会を変える方法は暴力を通じてではない、という認識が広がれば、武力紛争は頻発しなくなるかもしれません。一方、現場では、2023年4月に首都で武力衝突が発生しました。スーダンでの平和の達成には時間がかかると考えています。
多様な専門家とも意見交換をして、紛争を理解したい
目まぐるしく変化する国際情勢の中、国際援助の面では、ドナー国や国際機関、非政府組織(NGO)も関与し、紛争を国内問題として論じることはできません。一方、マクロな国際政治理論だけでは個別の紛争を理解することができません。私は、地域研究など自分の専門領域以外の専門家とも意見交換をして、ローカルな視点とグローバルな視点を繋ぎ合わせた議論を模索しています。ミクロとマクロの議論の往復が、国家や国際機関の役割、より大きくは世界政治を再考するヒントにもなると思います。
暴力を伴う武力紛争は防ぐべきですが、人が2人いれば起こり得る相容れない対立を紛争と定義すると、紛争研究では「紛争はすべて悪」とは捉えません。抑圧されていた人々が声をあげて権威的な政治指導者に立ち向かうことで、社会が良い方向へ変わる可能性もあるからです。どんな紛争が、どのように進むのか。他国や国際機関等の関与が紛争や和平の道筋をどう変化させるのか。文献調査、アーカイブ調査や関係者へのインタビューを通して分析し、得た知見を社会に還元していきたいです。
研究とは、先行研究が蓄積してきた共有知を大きくすることです。どうしたら紛争を減らし、紛争下の人々の苦しみを軽減できるのか。共有知の輪を少しでも広げるために、専門家や研究者と協働しながら、現場の声から国際舞台まで人びとの議論にも耳を傾けつつ、私なりの視点を示していきたいです。
この一冊
『雪』
(中谷宇吉郎/著 岩波文庫)
雪を研究する過程の説明を通して、自然や災害との向き合い方、人間が陥りがちな心理、世界情勢が悪くなる中での各国の態度まで考えさせてくれる本です。初めて読んだのは大学生の頃。研究者としての姿勢も学ぶべきところが多く、今なお、繰り返し読んでいます。
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小林 綾子
- 総合グロ-バル学部総合グローバル学科
准教授
- 総合グロ-バル学部総合グローバル学科
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上智大学法学部国際関係法学科卒、一橋大学国際・公共政策大学院修了、一橋大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。民間企業、在スーダン日本国大使館専門調査員、内閣府研究員、米国ハーバード・ケネディ・スクール科学・国際問題ベルファー・センター研究員、上智大学総合グローバル学部特任助教を経て、2023年4月より現職。
- 総合グローバル学科
※この記事の内容は、2023年5月時点のものです