温室効果ガスゼロを目指して、CO₂が発生しない新たな燃料を開発する

温室効果ガスを排出しない燃料や排出量低減可能な燃料の開発に取り組む、理工学部の高橋和夫教授。カーボンニュートラル社会の実現が可能なアンモニアを使った燃料や、CO2の発生を大幅に削減できる次世代ガソリンの研究などについて語ります。

2015年に採択されたパリ協定により、温室効果ガスの削減は世界共通の義務となりました。日本は2030年までに2013年度比46%の削減を、2050年までに実質ゼロを目標にしています。このために急ピッチで進められているのが、CO₂が発生しないカーボンフリーエネルギーの開発で、特に自動車への対策が求められています。電気で走る電気自動車は走行時にはCO₂を出しませんが、電気はいまだ火力発電に頼っているのが現状で、発電の段階で大量のCO2が発生しています。そこで、私たちは電気ではなく、燃やしてもCO2を排出しないアンモニアを使った燃料の実用化を目指して研究に取り組んでいます。

アンモニアは肥料や食品、医薬品などの化学原料として広く使われていますが、ガソリンと同様、空気中で燃やして熱(エネルギー)をとり出すことができます。しかし、アンモニアは炭素を含まないので、燃やしてもガソリンのようにCO2を発生することはありません。アンモニアの原料となる水素は、近年自然エネルギーを用いて水から製造する技術が進んでおり、この工程がうまくいけばCO₂を限りなくゼロにできるのです。この研究は上智大学の重点領域研究に指定され、近い将来わが国の研究拠点となることが期待されています。

自動車メーカー・石油業界と複数の大学による大規模共同研究にも参加

一方、こうしたカーボンフリー燃料が社会で広く使われるようになるには、もう少し時間がかかります。そこで、CO2の発生を大幅に削減できる次世代ガソリンの開発にも取り組んでいます。ガソリンを燃やしたときに発生する熱エネルギーのうち、自動車本来の目的である「走る」ために使用される割合を熱効率といいます。現在、街中を走っている自動車の熱効率は約40%ですが、これを大きく向上できればガソリンの使用量が減り、CO2の大幅削減につながります。そこで、自動車メーカー・石油業界と複数の大学で大規模産学共同研究体制をつくり、熱効率を60%まで引き上げる研究に取り組んでいます。私たちはこの研究プロジェクトに、燃料の開発チームとして参加しています。

好きな学問で社会貢献ができる今の仕事に、喜びを感じる

新しい燃料の開発を本物の自動車エンジンを動かして行うことは難しいので、高圧衝撃波管という、エンジン内の状態をシミュレーションできる特殊な装置を使用して研究を行います。私の研究室にある高圧衝撃波管は現在日本一の性能をもつことから、国や多くの企業から共同研究の依頼をいただいています。アンモニア燃料や次世代ガソリンのほかにも、植物由来のバイオ燃料や、CO2を再生可能エネルギーで還元したe-fuelなど、カーボンニュートラル社会の実現を目指した炭素循環型次世代燃料の研究も行っています。

私は、化学と物理が純粋に好きという理由で、物理化学の道に進みました。学生の頃は環境問題がこれほど深刻になることはもちろん、自分が環境を専門とする研究者になるとは想像もしていませんでした。しかし、好きなことで社会貢献ができる今の仕事に喜びを感じています。社会情勢は流動的で、世の中が必要とする研究も変わります。皆さんにはこの点を意識しながら、大学で好きなことを勉強して専門を極めるとともに、広い視野を失わず、将来世の中のニーズに柔軟に対応できる社会人になってもらいたいと思います。

この一冊

『会社のために働くな』
(本田宗一郎/著 PHP研究所)

本田技研工業の創業者の箴言(しんげん)集。「会社のために働くな」「やりたいことをやれ」というメッセージが詰まった本です。「世の中の役に立つ製品を作ること」にまっすぐに取り組んできた著者の生き方は、これから社会に出る高校生や大学生の参考になるでしょう。

高橋 和夫

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

上智大学理工学部化学科卒、同理工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。工学博士。日本原子力研究所(現在の日本原子力研究開発機構)研究員、ドイツ・デュイスブルグ-エッセン大学博士研究員、上智大学理工学部准教授などを経て、2018年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University