経済とビジネスの動きを敏感に捉えながら、必要なルールを考える

法学部国際関係法学科
教授
楠 茂樹

資本主義社会において、公正な競争環境を保つためのルールである経済法を研究テーマにしている法学部の楠茂樹教授。経済法の重要性や、インターネットが普及し、ソーシャルメディア全盛の時代において求められるルールのあり方などについて語ります。

メーカーが小売店に対し設定する、「この値段で売って欲しい」という希望小売価格には拘束力がありませんが、「定める価格で売らないと取引をしない」と言えば、それは再販売価格の拘束となり独占禁止法違反です。また、国や地方自治体が発注する公共工事などの競争入札で、あらかじめ参加業者同士が話し合って入札価格や落札者を決めておく入札談合は、刑事罰の可能性もある典型的な独占禁止法違反行為です。

資本主義経済において公正な競争環境を保つためのルールが独占禁止法であり、それはいくつかの法律と併せて「経済法」と呼ばれています。私の専門分野はこの経済法であり、ルールが適正に機能しているかどうかのチェックや、その解釈、そして新たに必要なルールを考える研究をしています。

経済法の関連で消費者保護法にも関心があります。近年、インターネットやソーシャルメディアを使った投資勧誘や、暗号資産をうたう投資話があふれています。こうしたビジネスのなかには、法の裏をかく詐欺的な手法が横行し、友人が友人を誘う形で被害者が拡散しています。多くの大学生も詐欺的な投資勧誘の被害者になっていると聞きます。被害を防ぐために必要な法律、規則を、スピード感を持って策定していくことが重要です。

経済は常に動いている。だからこそ飽きずに研究できる

新たな法律をつくるには時間がかかります。法律ができる頃には、また新たに法の裏をかくビジネスが生まれるという、いたちごっこのような世界です。しかし、経済は環境に適応する生き物のようなものであり、これはある意味、資本主義、自由市場の宿命とも言えます。その代わりに、次々と新しい研究テーマが生まれるので飽きることがなく、私自身はこの分野にとても魅力を感じています。

これまでに数冊の著書を刊行しました。私の研究は公共工事がテーマのものも多いため、国土交通省をはじめとする各省庁、あるいは地方自治体の関係者から意見を求められる機会も少なくありません。ある入札談合事件をテーマに弁護士と共同で論文を書いたこともあります。法実務家との交流は「生きた法律」を実感する絶好の機会です。

高校で学ぶ歴史の授業は、法律を学ぶために役立つ

経済法を研究するには、歴史を学ぶことも重要です。高校生の皆さんに伝えたいのは、学校で学んだ歴史の授業が大学の勉強に大いに役立つということです。社会主義経済の国家が経済的に豊かにならなかった歴史を私たちは経験しています。一方で、資本主義経済も万能ではないことが歴史的に示されています。資本主義は非常に評判の悪い経済体制ですが、結局、維持されてきました。政府の過度な介入は企業の創意工夫を妨げ、経済を窒息させます。

一方、市場に任せっきりにもできない。市場を支配する企業が現れ、あるいは詐欺のような不公正な手段が横行します。こうした不均衡を整え、不公正を防止し、私たちが幸せに暮らすために欠かせないのが経済法なのです。そしてこの経済法の発展史は、時期は違えども、世界の多くが共通して経験してきたものなのです。この立法の歴史は、経済の歴史と密接です。歴史のなかでも経済史は退屈なテーマの一つと思われているかもしれませんが、現代社会が抱える経済問題を理解するための重要な材料を提供するものなのです。

この一冊

『隷従への道』
(フリードリヒ・ハイエク/著 村井章子/訳 日経BP社)

ノーベル経済学賞を受賞した著者が1944年に刊行した本。学生時代に読み、感銘を受けました。当時、もてはやされた社会主義経済を批判しつつ、資本主義経済のリスクにも触れています。経済において必要なのは計画ではなく自由ですが、自由な社会の実現のために必要なのはルールなのだと実感しました。

楠 茂樹

  • 法学部国際関係法学科
    教授

慶応義塾大学商学部商学科卒、京都大学博士(法学)。上智大学法学部准教授等を経て、現職。現在、中央建設業審議会委員等も務める。

国際関係法学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University