ビジネスにおける異文化理解が、より良い企業経営につながる

企業経営における異文化間コミュニケーションの問題を研究する、国際教養学部のパリッサ・ハギリアン教授。日本と欧米の経営の違いを実践的手法で明らかにしながら、異文化間で生じる問題に企業がより良く対処できるよう、手助けしています。

オーストリア人の母とイラン人の父を持ち、オーストリアで生まれ育った私は、幼少期から異なる文化が共存する環境に慣れていました。しかし、文化の違いから生じるさまざまな困難に感情面でどのように対処したらよいのか教えてくれるロールモデルが周囲にいなかったため、ストレスを感じることもありました。

こうした生い立ちや経験に加え、ウィーン大学で日本学を学び、さらに経営学の博士号も取得したことで、異文化間の問題を抱える企業や人々の助けになれるのではないかと考えたのです。私はこれまで学術界だけでなく、企業とのコラボレーションを通じて実業界でも研究を行ってきました。

違いを理解すれば、問題解決の選択肢が広がる

2004年に日本に移り住んでからは、日本人と欧米人の振る舞いの違いをたくさん目にしてきただけでなく、周囲の人々から、いつもの問題解決法が異文化環境では通用しないという話をよく聞きました。例えば、欧米人は職場での問題解決に対して、「自分の信じるもののために戦う」という態度で臨みますが、このやり方は日本ではうまくいきません。日本ではまず、適切な人間関係を築かなければならないのです。

日本のビジネスの仕組みやマネジメントの在り方は、他国とは根本的に異なります。それゆえ、日本人とは異なるバックグラウンドを持つ人々が加わることで、課題に対し新たな解決策を見出すチャンスがあると言えるでしょう。これこそ異文化環境のすばらしい点ですが、違いを理解できなければ、ストレスになるばかりか、仕事のプロセスが異なるので望ましい成果も出せません。

仕事をする上で、今の自分のやり方こそが重要だと思っている人も、日本と欧米の企業経営の違いを学べば、他の視点もあるのだと気づけるでしょう。私が助けになれるのは、この理解をもたらすことです。

研究は人のためにあれ

私の研究では、多くの場合、エスノグラフィ(参加観察)の手法を用います。実際に企業内に入り込み、組織の構造や、内部で起きている異文化問題を探るのです。コンサルティングや研修を通じて課題を突きとめ、解決策を見つける手助けをします。

大学と企業の交流が盛んな日本の環境は、このような研究に適しています。研究成果を発表する際も、私は学術誌だけでなく、新聞やその他のメディアも活用します。そのほうが、問題に直面し答えを求めている人々にとって、アクセスしやすいからです。

何百もの企業からデータを集めて定量分析をする研究者はいくらもいますが、私はさらに深掘りし、人々の話を徹底的に聞くところから始めます。従来の国際ビジネス研究ではあまり見られない手法ですが、科学的根拠に基づきつつも、わかりやすい情報を提供しようと心がけているがゆえなのです。これにより、人々の理解が容易になり、得た知識を自分の状況にあてはめやすくなります。

また、学生たちにも同様のことをさせています。ケーススタディを通じて、実際に企業でミニコンサルティングを行うのです。学生たちは企業が抱える異文化問題や疑問点を聞き出し、解決策を考え、経営幹部の前で発表しています。

異文化経営の現実から学ぶ

海外企業を買収することが、いまや日本企業が持続的な成長を実現するための、数少ない手段の一つになりつつあります。そんな中、異文化が共存する環境で起きる問題を解決し、代わりにその環境を強みに変えることが、ますます重要になっています。

日本人と外国人の経営者や社員が協働する事例は、ほかにもたくさんあります。その一例として、いま他大学と共同で進めている研究プロジェクトでは、日本のプラスチックごみ削減に取り組むスタートアップ企業の調査を予定しています。この会社は上智大学の卒業生によって設立されました。

このほかにも、私は研究の幅を広げ、日本企業がどのように国際戦略を立てているかを調査し、協力してくれた企業や学生たちにフィードバックを行っています。このような取り組みが、異文化間の問題解決に貢献するだけでなく、経営上の意思決定における選択肢を増やし、より良い企業、より良い経営者を生む助けになる、と信じています。

この一冊

『Japanese Society(邦題:タテ社会の人間関係)』
(中根千枝/著 カリフォルニア大学出版局)

日本社会が他国とどのように異なるのかを中立的な視点から論じた一冊です。日本社会のベースには集団形成があり、その集団は血縁に基づいていないにも関わらず、家族のように機能し、感情面の強固な結びつきを育んでいるといいます。私はこのことが、日本企業が急速に成長し、長く存続してきた成功要因の一つだと思っています。

パリッサ・ハギリアン

  • 国際教養学部国際教養学科
    教授

ウィーン大学にて修士号(日本学)、ウィーン経済大学にて修士号および博士号(経営学)を取得。2006年より上智大学に勤務。ほかにも、慶應義塾大学、早稲田大学、パリ経営大学院(HEC)、ウィーン大学、フィンランド・アールト大学、イラン・シャリフ大学、マカオ・聖ヨセフ大学等で客員教授を務める。2011年から2012年までは、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンにて日本経営学の教授を務めた。

国際教養学科

※この記事の内容は、2023年6月時点のものです

上智大学 Sophia University