上智大学といえば、多くの女子学生が学んでいるというイメージをもつ方も多いと聞きます。それは例えば、語学が堪能で豊かな国際感覚を持ち、社会で活躍する卒業生をイメージしてのことでしょう。しかし意外なことに上智大学は、男子校として開校されたということは、あまり知られていないようです。男子学生のみで始まった上智大学はいつ、どのような過程を経て女子学生を受け入れ、今日のダイバーシティを掲げる大学へと変革を遂げたのでしょうか。ここではその変遷の歴史を、学内で行われた女子学生への支援体制を中心にたどります。
1.男子校時代―1913年から1950年代前半

男子修道会であるイエズス会によって1913年に開校した上智大学は、1957年に女子学生を受け入れるまでの44年間は男子校でした。戦前の日本では、男女別に教育が行われるのが一般的であり、上智大学だけが特別だったのではありません。上智ではとりわけドイツ語教育やリベラルアーツに注力されたことに特徴があり、男子学生たちは日々、勉学に勤しみました。しかしながら戦争へと向かう社会の影響により、自由に考え、学ぶことが次第に困難になります。アジア・太平洋戦争の時代には、学徒動員により、多くの学生は大学での学びを中断せざるを得ない状況におかれたのでした。


2.共学化と女子学生の支援体制の構築―1950年代後半~1960年代前半

戦後の日本では、多くの大学が共学となったこと、また志願者数の減少を理由として、上智大学も共学化の必要性を検討するようになります(1949年にはアメリカの駐留軍の退役軍人や外国人を対象としたに国際部が開設されますが、ここでは、女子学生も学んでいました)。
1957年に白百合女子短期大学を修了した4人が、初めての女子学生として専門課程に編入します。女子学生を受け入れるということは、男子修道会であるイエズス会運営の高等教育機関としては、当時は「革命的な」決断だったといわれています。そして翌年からは、1年次からの入学が認められるようになります。
女子学生の入学が始まると、1961年には女子寮が開設され、続いて1962年には彼女たちが大学生活に適応できるよう、女子学生相談室が設置されるなど、支援体制が整備されていきます。


3.女子学生のための支援体制の拡がり―1960年代後半から1970年代

こうした女子学生の支援のための取り組みはその後も続きます。1967年には、女子学生指導室主催の「第1回女性のための夏期セミナー・キャンプ」として、有志の女子学生を対象とした自己啓発の機会が設けられています。1967年の第1回のテーマは「女性と社会」。女子学生と教職員が参加し、講師による講義とディスカッションが行われました。同セミナーの報告書によると女性としてどのように生きるべきか、自らが大学で学んだことをどのようにして社会で活かすかということなどが活発に議論された様子がうかがえます。

1975年には学生部により女子学生の意識調査が実施され、この調査結果は女子学生相談室の企画や活動のための基礎資料とされました。以上のように、上智大学では女子学生が学ぶための基盤づくりは教職員と学生との協働により、整えられていきました。当時の社会では多くの女子学生にとって、大学で学んだ教養や専門性を社会で活かす機会は限定されていましたが、こうした女性のおかれた状況にいち早く対応し、支援体制を築いてきたのは上智大学の特徴といえるでしょう。
4.女性研究者のための支援へ―1980年代後半~現在
日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行されますが、その後も社会における女性のおかれた状況は、すぐには変わりませんでした。そのような女子学生にとっての逆風のなか、上智大学では1998年以降、女子学生数が男子学生数を上回るようになります(2024年5月1日現在の学部学生数は男子学生4,511人、女子学生は7,841人)。1998年の『上智新聞』355号によると、35年続いた女子学生相談室は、女子学生からのニーズの減少を経てついには利用者がいなくなったことから、1998年に閉室されます。1999年には男女共同参画社会基本法が制定されます。
その後は、男女共同参画社会の実現を目標とした女性研究者を対象とした支援が行われるようになります。2009年には、文部科学省による「グローバル社会に対応する女性研究者支援」プロジェクトが開始され、研究者比率が少ない理工学部の女性研究者や研究者を志す女子学生の育成のための支援体制が整えられました。
その後、女性だけでなく、多様な属性をもつ人たちを対象とした支援が必要であるという社会の意識が高まるようになったことから、支援の枠組みは、男女共同参画推進からダイバーシティへと広げられます。こうした問題を担当する学内での部署は、現在はダイバーシティ・サステナビリティ推進室へと引き継がれています。「ジェンダー」~「LGBTQ+」~「育児・介護・ワーク・イン・ライフ」~「障害・健康」~「多文化共生」~「世代」の6つに着目し、属性の異なる社会の構成員を互いに尊重し合い、あらゆる個々人を包摂する組織と社会づくりを目指しています。
参考資料一覧:
・上智新聞編集局『上智新聞』第355号,1998年4月1日.
・上智大学学生部『第2回上智大学女子学生意識調査結果報告書』1983年.
・上智大学女子学生指導室『第1回女性のための夏期セミナー・キャンプ1967年』.
・上智大学創立100周年記念誌企画・編纂委員会『上智の100年』学校法人上智院,2013年.
・学校法人上智学院『2024年度上智学院統計資料』https://www.sophia-sc.jp/disclosure/statistics(2025年5月1日閲覧)
・「上智大学の女子学生」『Webで知る“SOPHIA”』No.39
https://piloti.sophia.ac.jp/assets/uploads/2023/02/websophia_039.pdf(2025年5月1日閲覧)
・上智大学ダイバーシティ・サステナビリティ推進室 ホームページ
https://diversity.sophia.ac.jp(2025年5月1日閲覧)
*印の写真、史資料はソフィア・アーカイブズ所蔵