サプライズで感謝の度合いは高まらない-感謝の強さへのサプライズの影響を厳密に検証した初めての研究成果を発表しました

本研究の要点

  • サプライズは、「その恩恵がなかったら」と想像すると感謝が強くなることを前提としているが、実際にそうなのか厳密に検討されていない。
  • 2つの実験から「その恩恵がなかったら」と想像しても感謝の度合いは高くならないことが示唆された。
  • 人と人のつながりを円滑にする感謝という感情反応について理解する上で重要な視点を提供。

研究の概要

上智大学総合人間科学部心理学科の山本晶友特別研究員(PD)と樋口匡貴教授は、『「その恩恵がなかったら」と想像することで、感謝の度合いは高くなる』という仮説を2つの実験を通じて検討し、この仮説は支持されないという結果を発表しました。

突然の贈り物などで他者を喜ばせようとする、いわゆる「サプライズ」は、『「その恩恵がなかったら」と想像することで、感謝の度合いは高くなる』という仮説が正しいことを前提としています。しかし、今回の研究で、過去の文献レビューを行った結果、この仮説に対する厳密な検証はまだ行われていないことが示されました。

そこで研究チームは、恩恵を受ける前後の状況を、受益者にシミュレーションしてもらう2つの実験を設計しました。一つ目の実験は、『恩恵を受けると事前に予期していた場合よりも、恩恵を受けないと事前に予期していた場合の方が、より強い感謝の念を抱く』という仮説を、二つ目の実験では、『恩恵を受けた事後に、恩恵を受けなかったケースを想像した場合の方が、実際に恩恵を受けた状況を再び想像した場合よりも、より強い感謝の念を抱く』という仮説を検証しました。

その結果、いずれの研究でも仮説は支持されず、「恩恵をもし受けなかったら」という想像をすることで、感謝の度合いが高まることはないという結果が示唆されました。

この結果は、一般的に受け入れられている「サプライズ」に一石を投じるものであり、人と人のつながりを円滑にする感情である感謝について、より理解を深める一助となると期待されます。

研究の背景

感謝とは、他者の善意から生じたと知覚される恩恵に対する肯定的な感情反応と定義されています(Tsang 2006)。感謝は、恩恵を受けた側と与えた側の向社会性(*1)を高め、両者の絆を深めることから、どのような要因が感謝に関与するのか、さまざまな角度から研究が行われています。今回、山本研究員らは、「その恩恵がなかったら」と想像することが、感謝の度合いにどのような影響を与えるかに着目しました。

まず検討対象として挙げられたのは、「その恩恵はもらえないだろう」と事前に予期することです。そこでこの研究では、「恩恵をもらえない or 恩恵をもらえる」という事前の予期を与えるシナリオを読んでもらった後に、実際には恩恵をもらえたという場合の感謝を評定してもらい、恩恵をもらえないという事前の予期が感謝の度合いに与える影響を調べました。

  また、このような「なかったら」という想像には、事前の予期だけではなく、「もしあの時その恩恵をもらえなかったら」という事後の反実仮想も含まれます。そこで本研究では、恩恵を受けられないという事前の予期に加え、事後の反実仮想が感謝の気持ちに与える影響も調べました。

研究結果の詳細

研究チームはまず、「その恩恵がなかったら」とシミュレーションすることで感謝が増すという仮説について検証した過去の文献についてレビューを行いました。その結果、これまでの論文はいずれも研究のデザインには実施における限界があり、この仮説はまだ厳密には検証されていないことがわかりました。また、これまでの研究の限界点を踏まえ、①「その恩恵がなかったら」というシミュレーションをするかどうかを無作為に割り付けて因果関係を厳密に検討すること(無作為割り付け)、②「その恩恵がなかったら」というシミュレーションの有無以外は完全に同じにして比較すること(交絡要因の排除)、③「過去に感謝を感じた体験」を想起させて検討する方法ではなく、感謝を感じる程度が人によって様々になるような恩恵を研究者が示して検討すること(分散の確保)、の3つの条件を満たす研究デザインが必要であることが示唆されました。この結果を踏まえ、研究チームは、これらの条件を満たす以下の2つの実験を行いました。いずれも日本の大学生を対象として、現実的なシチュエーションを考案しています。

・実験1

『恩恵を受けると事前に予期していた場合よりも、恩恵を受けないと事前に予期していた場合の方が、より強い感謝の念を抱く』という仮説を検証しました。具体的には、大学のサークルに入ったばかりの「あなた」に対して、プレゼントが用意されていると予期できるシナリオか、用意されていないと予期できるシナリオのいずれか一方を読むように群分けをして、実際にプレゼントがもらえた想定でどの程度感謝の気持ちを抱くかを回答してもらいました。

その結果、事前の期待によって感謝の度合いは左右されないという結果が示唆されました。

・実験2

『恩恵を受けた事後に、恩恵を受けなかったケースを想像した場合の方が、実際に恩恵を受けた状況を再び想像した場合よりも、より強い感謝の念を抱く』という仮説を検証しました。具体的には、図書館に行こうと思っていた時に、今日は閉館日であることを同級生から教えてもらい無駄足を免れた状況と、欠席した授業で配布されたプリントを同級生がもらっておいてくれた状況を想定し、「その恩恵がもしなかったら」という反実的なシミュレーションを行ってもらいました。

結果は、実験1と同様、事後の反実的なシミュレーションによっても、感謝の度合いは影響を受けませんでした。

 山本研究員は、本研究について、「他者の善意に対する感情反応である感謝が、善意の内容以外の要因によって左右されることがあるのかを様々なアプローチで検討し続けており、その一環として本研究に着手しました。サプライズプレゼントにする等の周辺的な要素だけに工夫をこらすよりも、“どんなプレゼントなら相手が喜んでくれるか”をよく考える思いやりの方が、重要なのかもしれません」とコメントしています。

用語

*1  向社会性: 相手の気持ちを思いやり、相手のために行動しようという心情や、実際の行動。

論文名および著者

  • 媒体名:Japanese Psychological Research
  • 論文名:The effect of simulating the absence of benefits on gratitude: Prior expectations and posterior counterfactual thinking
  • オンライン版URL:10.1111/jpr.12463
  • 著者(共著):Akitomo Yamamoto, Masataka Higuchi

本リリース内容に関するお問い合わせ先

上智大学 総合人間科学部 心理学科
特別研究員 山本 晶友 (E-mail:a-yamamoto-3z6@sophia.ac.jp)

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