移住から三世代で日本語は失われる? 母語の継承を可能にする条件とは

外国語学部英語学科 
教授 
坂本 光代

外国語学部の坂本光代教授は、海外で生活する日本人移住者・日系人がどのように日本語を継承してきたのかを研究しています。人はどのようにして母語を次世代へと伝えていくのか。社会や他者との関係性のなかから、言語の継承が成立する条件について語っています。

バイリンガル教育を専門とする応用言語学者として、日本語が海外でどのように継承されているのかを研究しています。こうしたテーマに関心を持つようになったのは私自身が幼少期から30年以上をカナダで暮らし、日本語と英語のバイリンガル環境で育ってきたからです。

海外で生活しながら日本語を次世代に継承していくことは決して簡単ではありません。私がカナダの日本人移住者を対象に行ったインタビュー調査でも、日本語の継承は三世までにほとんど途絶えるとしています。カナダをはじめとした北米地域では、たとえ親世代が日本語を教えることに積極的であったとしても、日本語話者の交流支援がなければ持続的な言語の継承は困難であるというのが現時点での私の結論です。

その一方、ブラジルで同様の調査をしてみると三世以降でも流暢な日本語を話せる人が多いことが分かりました。どうして国によってこのような違いが生まれるのでしょうか。

言語の継承を可能にする社会的要因を解き明かしたい

カナダにはなくブラジルにはあるものとしてまず挙げられるのは、日系人のコミュニティの大きさと多さです。そこでは言葉だけではなく年中行事をはじめとした日本文化全般が暮らしに根付いています。こうした環境が言語学習にポジティブな影響を与えるのではないかと推測しています。

ブラジルでのフィールドワークでは「もしも公用語がポルトガル語ではなく英語だったら、日本語はもっと失われていたかもしれない」という興味深い証言も得られました。これはつまり英語圏よりもポルトガル語圏の方が、日本語を習得する社会的なインセンティブが高いという可能性を示唆しています。こうした仮説を裏付けるために今後も調査・分析を重ねていくつもりです。

2023年からは新たにオーストラリアでもフィールドワークを開始しました。こちらでは学校における外国語教育としての日本語の扱われ方などにもフォーカスしていきたいと考えています。そこで得た知見も加えながら、どのような社会的要因が言語の継承に影響を与えているのかをさらに詳らかにしていきたいですね。

帰国子女との学びが、英語コンプレックス解消の契機に

こうした研究の応用として、近年は帰国子女と国内生がともに学ぶことで生じる相互作用についても関心を持っています。幸いなことに上智大学は帰国子女も多いですし、また英語学習に意欲のある国内生も非常に多い環境です。私が担当する授業の中でも、グループワークや交換日記などを通じて両者が関わる機会を積極的に設けています。受講者へのインタビュー調査の結果からは、そうした試みが帰国子女と国内生の双方が抱える言語的なコンプレックスの解消に貢献していることが分かってきました。

語学は特にそうですが、人が何かを学ぶためには自分の外側の世界とのインタラクションが必要不可欠です。自分が既に有している知識や経験と、他者をはじめとする外の世界がもたらすさまざまな刺激や情報とが結びついたとき、私たちははじめて新たな物事を学びとして吸収することができます。そうした協働的な学びの場をつくっていくことも、これからの私の役割だと考えています。

この一冊

『ことばへの旅』
(森本哲郎/著 PHP研究所)

古今東西の名言と、それにまつわる短めの評論がセットになったエッセイ集。カナダに暮らすティーンエイジャーだった私が繰り返し読んだ一冊です。何かに気づき、深く考えるとはどのようなことなのか。その基本を教えてもらいました。

坂本 光代

  • 外国語学部英語学科 
    教授

トロント大学文理学部現代語学文学科卒、同大学大学院教育学研究科後期課程修了。PhD(応用言語学)。ウェスタンオンタリオ大学(現ウェスタン大学)文学部現代語学文学科助教授、上智大学外国語学部英語学科准教授を経て、2012年より現職。

英語学科

※この記事の内容は、2023年6月時点のものです

上智大学 Sophia University