トップアスリートに至る要因と成長過程を探る

基盤教育センター身体知領域
准教授
竹村 りょうこ

基盤教育センター身体知領域の竹村りょうこ准教授は、元プロテニス選手。自身と同様に、テニスのトッププレーヤーとして活躍した経験を持つ選手への調査を通じて、その成長過程の比較や分析を行っています。

私が今取り組んでいる研究テーマは、トップアスリートに至るまでのさまざまな要因がどのように関わっているか(熟達化過程)に着目した研究です。トップアスリートは、飛び抜けた才能を持って生まれた人だけがなれるのか。いわゆる素質の有無ではなく、練習や環境によって到達する可能性があるのか。私が特に知りたいのは、この部分です。

私は幼少期からテニスを始め、大学卒業後はプロとして国内外の選手と数多く対戦してきました。トッププレーヤーと言われる選手を間近で体感したからこそ、彼らがその水準に至るまでのプロセスには、とても興味があります。現在は、全日本タイトル保持や国際大会での上位入賞などの経験を持つ元・現役プロテニス選手を対象に、幼少期からトップ選手に至るまでの要因(練習環境、練習時間、家族型、指導者型、性格特徴など)について調査を進めているところです。まだ調査の途中ではありますが、いくつか興味深い傾向も見えはじめました。

トップアスリートの家族の傾向

これまでの調査における一部の傾向になりますが、その一つが、小中学生時代の家族の関わり方です。特に高い成績を保持した数名に着目してみると、小中学生時代、試合の「結果」について親から口出しをされた経験がない傾向も見えてきました。共通する点としては、練習や試合の取り組み方や態度、決めたことを途中で投げ出さないという約束をするといった「厳しさ」はある一方で、勝敗や結果については、特に言われたことはないという回答がみられています。

ジュニアアスリートには熱心なご両親も多くみられますが、勝ち負けだけに執着すれば、子どもは非常にプレッシャーを感じます。特に小中学生時代は、試合から競争やゲームを学ぶことも一つですが、プレイを楽しむこと、上達することへの面白さを獲得し、動機づけにつながる経験をすることが、将来的に子どもの能力を引き出せるのかもしれないということ。また、そのような家族や指導者のアプローチにより、可能性がより広がっていくのではないか。ここで導き出された仮説は、引退後、ジュニアから学生アスリートまでテニス指導に携わってきた私の経験に照らしても、腑に落ちるものです。

調査結果は自身の可能性に気づくことにつなげたい

私の専門は「スポーツ心理学」と言って、アスリートの心理がパフォーマンスに与える影響を調べる学問です。さまざまな視点での調査は非常にやりがいがありますし、研究と指導現場をつなぎ、他分野へと展開していきたいという気持ちもあります。実際に、ジュニアアスリートの家族から「より良い結果を出すために、今何を(選択)すべきなのか」という相談を受けることもあるのですが、そういった場合にも研究で集めたデータを元に、さまざまな選手の傾向を見せることができれば、より具体的なアドバイスや、分岐点での意思決定に影響をもたらすことも可能になるでしょう。

これまでの調査では、トップアスリートを対象に、回顧記録によってデータを獲得してきましたが、新たに、10代から20代の現役選手を対象とした縦断的な調査も開始しました。

今後研究内容を書籍にまとめることで、スポーツにかかわらず幅広く、自身の可能性に気づくきっかけとなることが、この研究の目標となっています。

この一冊

『スラムダンク勝利学』
(辻秀一/著 集英社インターナショナル)

著者の辻先生はスポーツドクターで、アスリートのメンタルトレーニングの第一人者。大学時代にサポートしていただく機会があり、本書にも書かれている「目標設定」など、実際の成果につながり、私のテニス人生も大きく変わりました。

竹村 りょうこ

  • 基盤教育センター身体知領域
    准教授

慶應義塾大学環境情報学部卒、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。博士(政策・メディア)。プロテニスプレーヤー、慶應義塾大学、東海大学非常勤講師、上智大学文学部保健体育研究室常勤嘱託講師を経て、2022年4月より現職。

基盤教育センター身体知領域

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University