異なる言語を話す人との、よりよいコミュニケーションのあり方とは

言語が違う人同士がコミュニケーションをする際の、効果的な手法を研究している外国語学部の木村護郎クリストフ教授。研究で明らかになった複数のコミュニケーション方法を使うメリット、伝わりやすい話し方をすることの意義とは?

異なる言語の人と話す場合、相手の母語で話すか、相手が対応できれば自分の母語で話すのが基本です。それができない場合は、英語などの国際共通語を使ったり、通訳を介したり、スマホのアプリなどの機械翻訳を使ったりします。それぞれが自分の言語を話す、あるいは互いの言語をミックスすることもあります。いずれの母語でもない共通語は対等な立場で話ができる、相手の母語で話すと親密になりやすいなど、それぞれに長所があります。私の研究はこうした言語間のコミュニケーションの特性を探り、よりよいコミュニケーションのあり方を明らかにすることです。

研究のきっかけは、私のルーツが日本とドイツの二つの国にあることが影響しています。子どもの頃から家ではドイツ語、外では日本語という生活を送る中で、コミュニケーションの方法には多様性があると感じていました。お茶も器が変わるとその味わいが変わるように、伝えたい中身は同じでも、複数のコミュニケーションの方法をその場の状況に応じて使い分けることで、相手の受け止め方などが変わる。これは興味深いことでした。そこで、言語と言語をつなぐさまざまな架け橋を研究する学問ができればと考えました。

コミュニケーションの上手な人を、徹底的に観察する

研究の方法としてはコミュニケーションの現場を徹底的に観察することを心がけています。異なる言語の人とうまくコミュニケーションができる人は、複数の方法をうまく使い分けている。そこで、異なる言語の人同士が会話している様子を見せてもらうのです。観察を終えたら、直接の会話から通訳に切り替えたタイミングなど、コミュニケーションの方法が変化した部分をチェックします。さらに「あの場面でなぜ通訳を使ったのか」などと本人に質問をすることもあります。

何人もの調査をすると、ある種の共通点が見えてきます。例えば逐次通訳を行うと通常の会話より時間がかかると思われがちです。しかし実際は、母語を使う方が、よりよく考えることができたり表現がより正確になったりするので、むしろ意思疎通がスムーズにいく面もあります。こうしたメリットがあるので、英語がかなりできる人でも適宜、通訳者に依頼するということが分かりました。

発音、文法の「正しさ」よりも重視されているのは伝える力

海外では、異なる二つの言語を話す人たちが日々行きかっているドイツとポーランドの国境の街で、人々がどのようにコミュニケーションをとっているかを調べました。互いの言葉をミックスするなどして、上手に会話を進めている事実がわかり、これを現地で話したところ、当事者である自分たちには気づかなかったことと話題になり、新聞やラジオで取り上げていただきました。

異言語間のコミュニケーションスキルは、日本語を使う場合にも必要です。例えば来日する外国人には、日本語で会話をしてみたいと思う人も多くいます。そのために今、外国人にも伝わりやすいやさしい日本語が注目されています。英語も多くの国際的な場では、発音や文法の「正しさ」よりも、いかに相手に伝わるかが重要視されている。今後はこうした伝わりやすい日本語や英語のあり方についても研究を進め、言語教育や言語政策の分野に貢献したいと考えています。

この一冊

『ことばと国家』
(田中 克彦/ 著 岩波新書)

もともと地域ごとに多様であったことばが国家と結びつくまでの歴史を明らかにした社会言語学の本。大学1年生のときに読み、感銘を受けました。時代が変わり、さまざまな言語がますます地域や国をこえて交わされる中で、この本にはまだ書かれていない、「言語コミュニケーションの多様性」をまとめることが、私の目標になっています。

木村 護郎クリストフ

  • 外国語学部ドイツ語学科
    教授

東京外国語大学外国語学部ドイツ語学科卒、一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程修了。博士(学術)。慶応義塾大学総合政策学部講師、上智大学外国語学部准教授などを経て、2011年より現職。

ドイツ語学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University