温泉水から見える、地球の内側。噴火予知にとどまらない火山研究の魅力とは

理工学部の木川田喜一教授の専門は、火山の研究です。地球サイエンスとしての本質を持つ火山研究の醍醐味、さらには上智大学が1960年代から伝統的に研究対象としている草津白根山の魅力について語っています。

日本には、100以上の活火山があります。活火山とは、「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」と定義されています。かつては休火山、死火山という言葉もありましたが、現在では、火山には「活火山」と「活火山ではない火山」の二つしかありません。

火山の状態を正確に、網羅的に把握するためには、物理的な観測と化学的な観測の二つの視点が必要です。物理的な観測は、例えば、火山周辺での地殻変動や地震発生の様子を機器で計測するような観測であり、多くの場合、連続的に遠隔で観測することが可能です。

一方、私の専門である化学的な観測は、マグマから分離して上がってきた火山ガスや、そのガスが地下水に溶け込んでできる温泉水などを採取し、直接的に調べる観測手法です。研究者は通常、同じ火山を長年に渡って研究するので、温泉水や火口湖水の成分のちょっとした変化にも気づくことができる、言わば火山のホームドクターのような存在。上智大学は1960年代から草津白根山を化学的に観測しており、私の研究室でもこれを引き継ぐ形で研究を行っています。

山を訪れるたびに感じる変化。地球は生きている

温泉水や火山ガス、火山灰などは火山の地表面から採取するものですが、その化学組成を分析すれば、火山の内部のこともよく分かります。例えば、温泉水は先ほども説明したようにマグマから分離した火山ガスが地下水に溶けたものなので、その化学組成を調べることは、マグマの状態変化を調べることにもなります。マグマの直接観測はできなくても、温泉水を調べることで、地下深部のマグマについての情報も読み解けるわけです。 

この研究の醍醐味は、やはり地球が生きていることを肌で感じられることでしょう。季節ごとに草津白根山を訪れていると、源泉の水質が変化していたり、火山ガス噴気地帯の面積が広がっていたりと、さまざまな変化を目にします。普段の生活では、地球、つまり私たちの足元にある大地は変化のない存在と思いがちですが、実はその内側ではたくさんのものが動き、躍動しています。火山研究には噴火予知など防災研究としての側面もありますが、学問としての本質は、地球のことを知る研究、地球サイエンスなのです。 

裾野の広い観測モデルを作れば、噴火予知にも役立つ

火山ガス噴気地帯や温泉がたくさんあり、火口湖もある草津白根山はもちろんのこと、化学的な観測に適した火山は世界中にあります。研究者でなくても温泉が好き、火山が好きという人はたくさんいますから、そういった人たちも観測に携われる仕組みを作れば、有意義なデータはさらに多く集まるはず。そんな思いもあり、現在私が力を入れているのが、火山から採取した物質の成分を、簡単、効率的に分析する方法の開発です。

誰もが安全、確実に分析ができて、かつ低コストでできる方法があれば、例えば山道の管理にあたる人が月に一度くらいのペースで山中の温泉水を採取して調べるようなことも可能になりますし、そうやって日常的に火山を観察することは、平時の観測データの蓄積となり、火山活動の変化のいち早い察知にもつながるでしょう。

このような一般からの協力者にも参加してもらえる裾野の広い観測モデルを作ることは、私にとって一つの夢にもなっています。 

この一冊

『百億の昼と千億の夜』
(光瀬龍/著 早川書房)

中学時代から愛読しているSF小説。プラトンや釈迦、阿修羅王などが主人公として登場する壮大な物語で、読後には、この世界は何に支配されているのか、宇宙とは何かといった哲学的な問いが、心の底からふつふつと湧いてきます。

木川田 喜一

  • 理工学部物質生命理工学科
    教授

上智大学理工学部化学科卒、同理工学研究科化学専攻博士前期課程修了。同和鉱業株式会社を経て、上智大学大学院理工学研究科化学専攻博士後期課程に入学、中退。博士(理学)。1996年に上智大学理工学部助手、講師、准教授を経て、2016年より現職。

物質生命理工学科

※この記事の内容は、2022年11月時点のものです

上智大学 Sophia University