学生の外国語学習へのモチベーションを引き出すCLIL教授法とは

文学部英文学科 
准教授
リチャード・ピナー

CLIL(Content and Language Integrated Learning)は内容言語統合型学習と総称され、さまざまなテーマや教科科目を外国語で学ぶ教育手法です。真正性とモチベーションに重点を置いた外国語学習がなぜ学習効果を高めるのか、文学部のリチャード・ピナー准教授が語ります。

応用言語学は人間の言語行動を多角的に探究する科学です。私は外国語教育が専門で、教授法や学習法を含め、外国語のさまざまな側面を研究しています。

私の研究の拠点は教室です。アンケートや統計データを用いる代わりに、クラス内で学生や教師と直接関わります。授業を観察し、ときには私自身のクラスも含めて授業の様子を録画することもあります。自分の属する場所で自分自身を研究対象とする手法は、オートエスノグラフィー(autoethnography)と呼ばれます。学生たちと関わり合いながら、自分の考えや感じ方を調査することにより、自らの教授法について振り返り、学ぶ機会を得るのです。

自分のクラスを研究対象とする場合、その対象が多様性に欠けるという点が課題です。大学生を教える立場にあるため、当然ながら私の研究対象はほぼ大学生に限られます。しかし実際は、大学だけでなく、小・中・高、進学塾や英会話スクールを含め、日本の教育全体における言語教育に関心があります。いずれの領域でも、興味深い研究がたくさんできそうです。

そんな私の研究テーマの一つは、言語学習における真正性です。一般的に、あるものの最良の形を見たときに、人はそれを真に正しいものだと評価します。そのため真正な言語はネイティブスピーカーのみに帰属すると誤解されがちですが、真正な英語の定義はそんなに単純ではありません。約3億5千万人が母語として英語を話す一方、20億人が外国語として英語を話しています。私は英語の真正性の意味を見直し、英語のネイティブスピーカーと非ネイティブスピーカーの間に有意義な関係を築く方法を見つけたいと考えています。

言語学習の鍵は真正性とモチベーション

私は真正性を人と人のつながりにあると定義しています。真正性が学生と教師とをつなぐ橋となり、学習と教育を促進するのです。たとえば語学教育において、教師がコミュニケーション重視のアプローチを効果的だと考えているにも関わらず、試験対策のために文法やボキャブラリーの指導に重点を置くと、その教育法は真正ではないと、私は考えます。

真正性とモチベーションはセットです。モチベーションの高い授業を作り上げることは簡単ではありませんが、学生たちと学習目標を話し合ってアイデアを発展させ、授業を一人ひとりに合った形に最適化することで、教師はよりよい授業を行うことが可能になります。これが真正な学習体験であり、モチベーションとフィードバックの反復が学生と教師双方の意欲を向上させるのです。

英文学科の同僚である池田真教授を通して、私はCLILという教授法を知りました。CLILは学生の関心のあるテーマ学習と言語学習を組み合わせたものです。環境、フェミニズムやLGBTQといった社会課題、文学作品などを、学生が学んでいる外国語で議論します。CLILは学生たちのモチベーションを保ち、より真正な言語学習体験を提供します。

時代に合ったテーマの選定は、CLIL教授法で教師が直面する課題の一つです。柔軟に選択しつつも、学生の学習意欲が刺激されるよう、学生と真正なつながりを生み出すようなテーマでなければなりません。学生全員が自身との関連性を感じられるテーマを選択するには、教師がさまざまな方法を試さなければなりません。

新たな研究対象はデジタル文化における言語

私は言語とテクノロジーにも関心を寄せています。スマートフォンがコミュニケーションに与える影響は非常に興味深いテーマです。対面コミュニケーションに悪影響を与えているというのが一般的な考え方ですが、スマートフォンがきっかけとなって逆に会話が増えることもあるのです。良きにつけ悪しきにつけ、スマートフォンはコミュニケーションの新形態を促進しているに過ぎないのです。

インターネットスラング、拡散動画や釣り投稿など、インターネットを通して拡散するこれらの事象が持つあらゆる側面に興味があります。デジタル文化における言語についての講義を担当しながら、研究をさらに進めるつもりです。

この一冊

『Complexity in Classroom Foreign Language Learning Motivation』
(リチャードJ.サンプソン/著 Multilingual Matters Ltd)

著者は私の同僚で良き友人です。同時期に同様のテーマの本を執筆していた際に、お互いを支え合いながら仲間になりました。その彼が日本で英語教師をしていた経験をまとめた一冊です。彼の語学学習への取り組みが紹介されており、私に自分の役目を思い出させてくれます。

リチャード・ピナー

  • 文学部英文学科 
    准教授

ロンドン大学キングズカレッジ大学院英語教育・応用言語学専攻(修士号)。ウォーリック大学大学院英語教育・応用言語学専攻(博士号)。語学教師および指導教諭として約20年に渡る経験を持つ。2012年より上智大学に勤務。

英文学科

※この記事の内容は、2022年8月時点のものです

上智大学 Sophia University