英語教育と教師教育の研究を進めながら日本の英語教育改革に取り組む

応用言語学の一分野である第二言語習得、特に英語の習得研究を行っている外国語学部の和泉伸一教授。英語教育と教師教育の研究を進める傍ら、入試改革、中高の教科書や学習指導要領の改訂など、さまざまな側面から英語教育の改革に取り組んでいます。

僕は応用言語学が専門で、とりわけ第二言語習得を研究してきました。第二言語習得研究は、どうすれば母語習得以降に別の言葉を第二言語、あるいは外国語として身につけることができるのか、何が障害となるのか、またどうやってその障害を克服できるのかを探究する学問です。

英語教育の世界はかなり広がりがあります。英語は言葉として重要なだけではありません。「英語で何をするのか、何を知り理解するのか、何を語るのか」という部分に注目して教えることの重要性を応用言語学で学び、第二言語習得の研究をするようになりました。

文法や単語中心の教育からメッセージ中心の教育に

今一番力を入れているのは、CLIL(Content and Language Integrated Learning)とフォーカス・オン・フォーム(Focus on Form:FonF)です。CLILは「内容言語統合型学習」と言われる教育法で、1990年代からヨーロッパで広まり始め、2000年以降日本に入ってきました。

CLILが日本に入ってくる前は、日本ではいわゆる詰込み型の受験英語で、文法や単語を文脈から切り離した状態で一つずつ覚えていました。人権問題や環境問題といった題材が教科書にあったとしても、そういったトピックについての議論は一切せずに、文法や単語などの形式ばかりに焦点を当てて覚え込ませようとしてきました。

そもそも、なぜ言葉が重要なのか。言葉はメッセージを受け取り、相手に伝えられるから重要なのであって、内容がなければただの形式に過ぎません。「メッセージを無視した形で言葉の学習や教育は語れない」という考え方が、ヨーロッパや北米から始まって、今、全世界に広まっています。

言語は題材に沿って教えることで身につきやすくなります。関係代名詞だけを頭に詰め込んで覚えるのは大変です。しかし、語られている内容をその文脈で理解することで、記憶の定着にもつながり、実際のコミュニケーションで使える能力となりやすくなります。

日本の英語教育を変えることが私の目標

私が第二言語習得研究に興味を持ったのは、日本の英語教育を変えたいと思ったところから始まっています。教育を変えるには、多角的にいろいろなことをやらなければいけません。大学で研究に従事するだけでなく、文科省の会議などさまざまなところで議論を交わし、第二言語習得の知見と現場の先生方の声を学習指導要領に反映させていきます。

入試改革も同時進行で進めなければなりません。例えば、TEAP(Test of English for Academic Purposes:アカデミック英語能力判定試験)は、上智大学と日本英語検定協会が共同開発した英語試験ですが、最初から日本の大学入試を意識して作られていることがTOFELやTOEICと違うところです。私も作成当初からずっと関わってきました。

教科書改革も忘れてはいけません。中学校や高校の教科書編集委員として第二言語習得研究者の知見を反映させるべく教科書改革に取り組んでいます。さらに、学内外での教員養成も大事です。教職課程で新時代の教育を担う人材を育てると同時に、学外では現役の教師に対する研修や講演を全国各地で行っています。こういった多角的な面からの努力をしていくことで、初めて英語教育改革が実を結んでいくと信じています。

この一冊

『普及版 モリー先生との火曜日』
(ミッチ・アルボム/著 別宮貞徳/訳 NHK出版)

死期を悟った社会学者で大学教員のモリー先生の話です。死は一歩一歩必ず近づいてきて、すぐやって来るかもしれません。「若い時から死を考え、生き方を考えれば、自分の人生は何なのかを考えて生きていく糧になる」という本です。毎日の生き方をいろいろと考えさせてくれる良書です。

和泉 伸一

  • 外国語学部英語学科
    教授

東京国際大学教養学部国際学科卒業、南オレゴン大学B.A.取得(政治学)、南イリノイ大学カーボンデール校M.A.取得(応用言語学)、ジョージタウン大学Ph.D.取得(言語学博士)。ハワイ大学マノア校客員研究員、オークランド大学(ニュージーランド)客員研究員を経て、2012年より現職。

英語学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University