変わらないために変わる~新学長が考える「上智らしさ」の追求

学長
総合人間科学部 教育学科 教授
杉村 美紀

これまで16人の学長が、それぞれの上智大学像を思い描き、施策・運営に反映させてきました。17代目となる杉村学長がイメージする「上智らしさ」とは。大学の使命として掲げる「教育」「研究」「社会貢献」の3つの側面から語ります。

受け継がれてきた思いを再確認する1年に

学長就任1年目は、「上智らしさ」とは何か、改めて原点に立ち返ろうと思いました。カトリックのイエズス会によって創立された上智は、キリスト教ヒューマニズムの精神を根幹とし、「叡智が世界をつなぐ」という建学の理念を掲げてきました。大学の役割は色々ありますが、改めてこの理念を強調し、改革を進めるうえでの軸にしていきたいと考えています。

そのために、執行部内で共有したキャッチフレーズは、「変わらないために変わる」。時代が移り変わる中、歴史の中で紡いできた根本的な部分は守っていきたい。しかしながら、立ち止まっているだけでは、受け継がれてきたものは風化してしまいます。守るべきものは守り、一方、未来に向けて発展させていくために、求められている変化を受け入れ、自らの進むべき方向と軸を常に見据えながら、チャレンジしていくという意味を込めています。

多様性を前提に、人のために生かす学びを

教育面の上智らしさとして挙げたいのは、国際性と隣人性です。国々で異なる価値観を持つ多様性を前提に物事を考え、社会的に弱い立場の人も含めた「他者」に寄り添う――例えばAIがテーマなら、技術だけを追求するのではなく、AIを使える人と使えない人の間の格差、安全性や権利保護など、技術を扱う人間の倫理やものの見方も扱い、AIが人間の尊厳を守るためにどのような役割を果たすのかを考えるのが上智の教育ではないかと思います。

前執行部の先生方によって作られた「基盤教育」は、まさにこの考え方を体現しています。人間理解や思考、課題解決力など、変わりゆく時代に適応するための学び続ける力を大学生活を通じて培い、それを自身の専門と掛け合わせて、人のために生かす姿勢を体得していく仕組みです。

国際教養学部が先導するリベラルアーツ教育や、持続可能な未来を考える6学科連携英語コース(Sophia Program for Sustainable Futures)もそうです。どちらも英語による授業であることが注目されることが多いですが、英語という国際通用性の高い言語で、分野横断的に多様な考え方を学んでいる点にこそ特徴があります。2027年4月に理工学部で開設予定のデジタルグリーンテクノロジー学科も、デジタル分野や環境分野の技術に長けるだけでなく、国際社会の持続可能な枠組み作りに携わる人材を育成したいと考えています。

異分野の研究者同士の出会いをプロデュース

研究面での上智らしさを一つ、キーワードで表すとすれば「学際」です。人社系教員の研究室のすぐ近くに自然科学系の研究室があるといったように、多彩な学問分野が1か所に集結している点が四谷キャンパスの特色。そこで生まれる化学反応に期待しています。

異分野の教員同士の出会いを促す仕組みとして、学内者向けのリサーチマップを作りたいと考えています。多くの研究者がいると全員の研究分野を見渡すのは難しいため、まずは学内にいる研究者と研究分野を目に見える形にして、気になる分野があればすぐに話せるようにしたいですね。

加えて、研究者同士がお昼ご飯を持ち寄って気軽に話し合えるような場を定期的に設け、研究のコミュニティづくりを支援する試みも始めました。「そのテーマならあの先生がやっていますよ」とそれぞれがお互いの研究テーマに関心をもって協力していただけると、ワクワク感のある共同研究ができそうです。

国境や世代を超えた奉仕の心をこれからも

社会貢献も、社会的な弱者に寄り添い、開かれた視点で行うのが上智らしさだと思います。

1980年代の内戦中のカンボジアに赴き、現地にアジア人材養成研究センターを建設。以降30年以上に渡り、「カンボジア人による、カンボジアのための、アンコール・ワットの保存修復」作業を支援してきた石澤良明名誉教授(元学長)が率いるソフィア・ミッションは、その最たる例です。また、2019年にはタイに事業会社を設置し、大学生をはじめ、中高生にも現地ツアーやオンラインプログラム等を提供。貧困や環境問題といった社会課題に関心を持つきっかけづくりに貢献しています。

国内でも、学びを学内に閉じ込めず、社会に開く姿勢を持ち続けてきました。「国連Weeks」「アフリカWeeks」「Sophia Open Research Weeks」など、一般の方も参加できる学術イベントを多数開催。他にも、2020年に開設した、企業の方との連携を軸とした「プロフェッショナルスタディーズ」は、国際通用性のある教養を身につける産学連携プログラムですし、2024年から開講している「上智地球市民講座」は、社会人や大学生だけでなく、想定以上に多くの高校生が受講しています。さらに、グリーフケア研究所が展開する学びのプログラムは、グリーフを抱える者「悲嘆者」がケアされる健全な社会の構築に貢献しています。

今後は学外の受講者と、在学生の接点を増やし、キャンパスに世代や分野を超えた多様性をもたらしたいですね。

インターネットを通じて、世の中の大半の知識や技術が学べるようになった今、大学に通う意味というのは、その大学らしさ、つまり姿勢や価値観を肌で感じながら身につけられる点にあると思っています。上智でなければ成し得ない教育や研究、社会貢献のあり方を、私たちは追求し続けています。

上智大学 Sophia University