中国近現代史の理解が新たな日中関係をつくる

国際教養学部国際教養学科
准教授
クリスチャン・ヘス

中国史が専門の国際教養学部のクリスチャン・ヘス准教授。ロシアと日本の植民地支配の影響を受けた大連を中心に、1920年代から1950年代にかけての中国東北部を研究しています。中国近現代史の理解がより良い日中関係のために重要とされる理由とは?

私の専門は中国史で、特に中国東北部の近現代史について研究しています。日本では満州として知られるこの地域には、1920年代から1950年代にかけての短い間に多くの劇的な変化が生じました。中国史の中でも最も興味深い時代の一つであるにも関わらず、この時代の中国東北部を対象とした研究はそれほど多くありません。

興味深い前近代の中国史や日中関係については研究が進んでいるものの、20世紀前半の中国史については文献の数が限られています。

その理由は政治的なものです。この地域に関係するロシア、日本、そして中国が、この時代に対してそれぞれ異なった歴史認識を示していることもあって、多くの歴史的な証拠や説話が失われてしまいました。私の研究では、その失われた部分を明らかにしようとしています。

東北部の中でも特に興味があるのが港湾都市の大連です。ロシアと日本による植民地支配の影響を受けた唯一の都市で、現在は中国の一部です。満州として知られていたこの地域は第二次世界大戦後に中国に返還されましたが、ソ連が軍事基地を配置していたため、中国返還後もソ連の影響を色濃く残しました。

私が初めて大連を訪れたのは学生の時。驚くべきほどの地政学的変化にさらされたこの場所に――植民地化したロシアによる支配、貿易港として活用した日本による支配、軍事施設を配置したソ連による支配、そして最終的に共産主義国である中国による支配を受けたこの場所に――私は魅了されました。研究では、それぞれの支配における共通点と変化など、変遷の過程を中心に調査しています。

大連では街中に日本による占領の痕跡が数多く見つかります。日本の占領は、結果として大連にとって良い形を残したものもあれば、当然そうではなかったこともあります。

中国政府は日本のネガティブな印象を植え付けようとしていますが、大連市民の対日感情は複雑で、中国政府が押し付ける語り口とは相容れません。現地の人々は日本に対して愛着と好感を抱いています。たとえば大連でもっとも人気のある語学は日本語です。政治が見せる印象と個人的な感情は、この地域では大きく違うのです。政治が日中関係の本当の姿を歪めています。

新たに在日中国人についての研究に着手

最近では、特に1930年代から1940年代にかけての、在日中国人の人口についての研究も始めました。ゼロコロナ政策によって中国への入国が困難になり、現状の政治情勢では中国国内での調査を継続することができないため、当面の研究テーマを日本にいる中国人に切り替えたのです。

韓国からの移民についての研究は珍しくないものの、20世紀初頭から半ばにかけての在日中国人の数については、あまり研究がなされていません。この時期の中国からの移民は韓国からと比較して少数です。彼らはどこから来たのか、どこへ行ったのか、何をしていたのか、そして今どこにいるのか、その多くはまだ明らかになってはいませんが、分かってきたこともあります。

たとえば1950年代の上智大学の卒業生には、台湾出身の中国人が数名いたことが分かっています。また戦後のアメリカ統治下では、中国人による政治結社が設立されていました。研究を継続して、もっと多くのことを明らかにしたいと思っています。

政治的な物語と人々が持つ物語のギャップを埋める

現状の中国の政治情勢を踏まえると、中国現地での調査や中国にいるパートナーとの共同研究は非常に困難です。史料に当たることができず、中国国外にいる中国研究者は大きな試練に直面しています。このことは国際秩序を脅かす要因になりかねません。日本を含めた諸外国と中国との関係が制御できなくなるかもしれないのです。地域の未来は良好な日中関係にかかっています。

東京に住む一人の教育者として、私の役割は「政治的な印象操作にさらされていない日中関係を伝えること」にあると考えています。政治によって作られたストーリーと、人々によって導き出されるストーリーの間にある隔たりを埋めたい。歴史と現代の国際情勢を切り離すことはできません。中国近現代史を教えることは、地域の未来にとって必要不可欠なのです。

この一冊

『1587, A Year of No Significance: The Ming Dynasty in Decline』
(Ray Huang著 エール大学出版)

これは、私が最初に受けた中国史の授業の教科書でした。中国史における1587年はとくに大きな出来事があった年ではありませんが、著者はこの年を徹底的に分析し「終わりが始まった1年」と位置づけました。歴史学の研究に創造的なアプローチがあることを教えてくれた1冊です。

クリスチャン・ヘス

  • 国際教養学部国際教養学科
    准教授

カリフォルニア大学デービス校B.A取得(歴史学)、カリフォルニア大学サンディエゴ校Ph.D.取得(中国近現代史)。英ウォーリック大学助教授を経て、2012年より現職。

国際教養学科

※この記事の内容は、2022年10月時点のものです

上智大学 Sophia University