医療ソーシャルワーカーの実践を可視化して地域ネットワーク構築に活かす

医療ソーシャルワーク研究が専門の総合人間科学部の髙山恵理子教授は、ソーシャルワーク実践の調査を通じて、効果的で的確な患者支援のあり方を研究しています。地域ネットワーク構築で医療ソーシャルワーカーが果たす役割とは?

重い病気で入退院する患者さんは、多くの場合、経済的、社会的、心理的な問題に直面します。その解決策を患者さんと一緒に考え、社会福祉の面から支援するのが医療ソーシャルワーカーです。私は主に退院時の支援に焦点を当てて研究しています。

医師、看護師、医療ソーシャルワーカー、介護士、社会福祉士など、保健・医療分野に関わる人たちの役割は目まぐるしく変化しています。その中で医療ソーシャルワーカーのあり方を考えるには、まず現状をきちん把握しなければなりません。そのため厚生労働省など行政の報告書に基づく調査、病院の運営管理部門の方々や医療ソーシャルワーカーへの聞き取りや質問紙調査を行っています。

こうした取り組みを元に2017年には医療ソーシャルワーカー向けの退院支援自己評価マニュアルを作成。患者さんの意思はきちんと確認できたか、病状だけではなく家族構成や生活状況、経済状況などを踏まえて退院後の生活を整えたり、転院先の医療機関を紹介したりすることができたかといった、ソーシャルワーカーとして退院支援に関する項目を示したものです。ソーシャルワーカーはこれを使って退院支援に関する自身の実践を評価できます。

調査中に気づいた地域ネットワークの重要性

マニュアル作りのための調査の中で改めて認識できたのが、地域を基盤としたネットワーク構築の重要性です。医療制度、社会福祉制度の改正や介護保険制度の成立により、さまざまに機能分化した医療機関や介護関係機関が生まれましたが、各種機関が患者さんを奪い合い、利益を追求するだけでは、患者さんは不利益を被ってしまいます。

しかし医療ソーシャルワーカーなら地域の病院などの連携を促進することができます。実際、インタビュー調査をすると、医療ソーシャルワーカーが地域のネットワーク作りで重要な役割を果たしていることが見えてきました。話し合いの場を設定し、議論をファシリテートし、地域によっては病院間で検査の単位を揃えたり、同じ用語を使いながら違った意味付けをしたりしていることに気づきました。例えば、食事の刻み方という細かいことだが患者にとっては重要な情報を共有したりするなど、さまざまな取り組みを通して、複数の病院があたかも大きな病院の病棟のように機能する仕組みを整えることに取り組んでいました。

研究成果を現場に還元し、変化を感じることが醍醐味

現在は、地域のかかりつけ医が自前で用意できない医療機器などを共同利用できるなどの仕組みを持つ、地域医療支援病院に着目。そこでの医療ソーシャルワーカーの役割に焦点を当てて調査研究を行っています。退院支援自己評価マニュアル、地域ネットワーク構築を含め、先駆的な事例やベストプラクティスを全国の医療ソーシャルワーカーたちと共有するのが今後の課題です。

研究で得られた知見や開発した方策が現場に伝わって、その変化が見えるところに、この研究の醍醐味を感じます。私は医療ソーシャルワーカーとして10年働いた後に、大学院に進学し研究者になりましたので、なるべく現場に近いところで研究したいですね。現場のフィードバックを受けて研究をさらにブラッシュアップしていくことが社会福祉分野ではとくに求められていると思います。

この一冊

『ソーシャルワークの作業場 寿という街』
(須藤八千代/著 誠信書房)

横浜の有名な日雇い労働者が多く住む街、通称ドヤ街でソーシャルワーカーとして活動した著者の記録。「特別な街だから」と敬遠されて、必要な支援と繋がれない住人たちと向き合ってきた経験が克明に描かれています。

髙山 惠理子

  • 総合人間科学部社会福祉学科
    教授

津田塾大学学芸学部国際関係学科卒。日本社会事業学校研究科にて社会福祉を学び、1983年より10年間東海大学医学部付属病院、松山リハビリテーション病院他にて医療ソーシャルワーカーとして勤務。その後、東京都立大学社会科学研究科社会福祉学専攻修士課程修了、博士課程単位取得満期退学。2000年より立正大学社会福祉学部社会福祉学科講師、助教授を経て、2005年より現職。

社会福祉学科

※この記事の内容は、2022年6月時点のものです

上智大学 Sophia University