上智大学の“知の拠点”として活動する研究機関群に、2022年度、大学附置研究所2つと常設研究所1つが加わりました。「アイランド・サステナビリティ研究所」「人間の安全保障研究所」「イスラーム地域研究所」の3研究所を通した上智大学の研究の特色を、学術研究担当副学長が語ります。
社会課題の解決をめざし、各学問の力を結集
上智大学の研究機関には、研究機構に所属する機関と、所属しない附置研究機関の2つの形態があります。
研究機構は、全学部・研究科が1キャンパスに集まる特徴を生かすために2005年に設置されました。現在15の研究機関が所属し、それぞれが知見を交換し合いながら研究が進められています。予算、事務スタッフ、研究サポート学生等を機構として統一的に管理しているので、複数機関による分野融合研究、機構全体としての成果発表など、一体的な運営ができる点が特徴です。
一方、附置研究機関は、法人や大学に直接所属しており、大学が注力したい分野を重点的に研究できる特徴があります。
全ての研究機関の研究者の正所員は、各学部・研究科から集まっています。そのため、そこで得られた最先端の知見が教育活動にも絶えず還元されます。
ユニークな研究テーマで存在感を放つ3研究所
「アイランド・サステナビリティ研究所」は、「島」に着目した大学附置研究機関です。
島は、狭い面積に様々な地形的要素が詰まっており、外部との交通手段も限られています。それらは暮らしの豊かさや観光資源につながる一方、環境変化の影響を受けやすいという側面も持ち合わせており、海面上昇、災害、飢餓、人口の増減などの課題が顕著に表れます。
研究所は、こうした島ならではの課題に政治学、社会学などの社会科学系の知見、地質学や生物学などの自然科学系の知見を総合して挑みます。
これまでの調査対象は、ミクロネシアやカリブ海の海外の島々、奄美大島や佐渡島などの日本の島々。2021年に行った、マーシャル諸島共和国の食糧供給システムに関する政策立案は同国や国連から高く評価され、現在も政策への助言を続けています。
日本も言わずと知れた島国であり、島という地形が持つリスクは全土に共通しています。研究所では将来的に、国内外の島の研究を日本の国土全体に生かすビジョンを持っています。
同じく大学附置研究機関である「人間の安全保障研究所」では、社会科学系の研究者が5つのユニット(貧困/環境/保健・医療/移民・難民/平和構築)に分かれて活動しています。
例えば、貧困のユニットでは、バングラデシュ、フィリピンなどの貧困や稲作の状況を調査しています。特徴的なのは、経済学とデータサイエンスを融合させた手法。人工衛星が捉えた現地の衛星画像を解析し、水田に水が張られているか、夜間に光があるのはどの地域かといった、現地の農業や経済の状況を確認。人々の生産活動の様子を把握して、貧困の原因や解決策を探ります。
また、同研究所は一般向けのセミナーを活発に開催しています。年5回開催する「人間の安全保障と平和構築」は、日本を代表する専門家や政策責任者を講師に迎え、大学生や高校生、市民が共にグローバルな課題を考える機会になっています。
研究機構の常設研究部門に所属する「イスラーム地域研究所」は、イスラーム世界の人々における宗教観、ジェンダー観、食、旅行などの文化を調査、研究しています。
カトリックの大学にイスラームの研究所があることを不思議に思われるかもしれませんが、上智大学は国内有数のイスラーム研究拠点でもあります。キャンパス内には、イスラーム教徒が礼拝に使える「祈りの部屋」やハラルフード専門の学食が用意され、異なる宗教や文化を包摂した研究・教育環境をめざしています。
同研究所も、カトリック・ネットワークを活かして各国の大学や研究機関と連携しながら、イスラーム文化の解明を通して世界の多様性の実現に貢献しています。
人や社会を助ける研究は、SDGsの精神に通じる
「アイランド・サステナビリティ研究所」と「人間の安全保障研究所」の大学附置化は、日本の大学で初めての「ラウダート・シ大学」への加盟がきっかけの一つになっています。
ラウダート・シは、カトリックの行動指針を示す重要な文書「回勅」として、2015年に発表されました。環境問題と社会問題の不可分性などが述べられており、この課題にアクションを起こそうと動き出した世界規模の大学間連携が、ラウダート・シ大学です。上智大学は2022年3月、教皇フランシスコの呼びかけに応え、ラウダート・シ大学に加盟し、世界各国のカトリック大学とともに、持続可能な社会の実現を目指しています。環境や人権に直結する2研究所は、この連携の中でもとりわけ重要な役割を果たすことになるでしょう。
建学の理念であるキリスト教ヒューマニズムは、2研究所だけでなく、どの研究所にも浸透しています。「今、困っている誰かを助ける」ための研究、つまり社会課題の解決に向けたテーマが多数扱われているのが、本学の研究に共通する特徴です。SDGsという言葉が生まれるはるか前から100年以上の間、誰一人取り残さない社会をめざして力を尽くしてきた本学の姿勢は、これからも変わることはありません。