
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が世界の知の交流と共有を図るために認定する「ユネスコチェア」に、上智大学の研究プロジェクトが選ばれ、2024年2月、覚書が締結されました。今回の採択を経て果たすべき上智大学の役割や、上智に集う人に与えるインパクトを、学術研究担当副学長が語ります。
SDGsに貢献する人材を育てるための教育・研究
今回、ユネスコに採択されたのは、ESD(Education for Sustainable Development)を軸とする研究プロジェクトです。ESDとは、人間の開発活動による現代社会の問題を自分事と捉え、身近なところから取り組み、問題解決に寄与する人材を育てる、「持続可能な社会の創り手」を育む教育。2015年にSDGsが国連総会で決議される10年以上前、2002年に日本がその概念を提唱し、世界に広まりました。今ではSDGsの達成に不可欠なものと捉えられています。
上智大学では、総合人間科学部教育学科の杉村美紀教授を中心とするチームの「アジアにおける持続可能な開発のための教育(ESD)をめぐる比較国際教育学研究」を、上智ならではの特色ある研究を育てる「重点領域研究」に選定し、日本とアジアの小中高校において、ESDの実践研究、制度や政策の比較研究などを行ってきました。
この杉村教授らの研究を発展させたプロジェクト「UNESCO Chair on Education for Human Dignity, Peace and Sustainability:人間の尊厳、平和、サステイナビリティのための教育」が、今後、ユネスコと連携して活動を行っていきます。
卓越したグローバル大学ならではのプロジェクト
「ユネスコチェア」は、教育、科学、文化の振興を図る国連の専門機関ユネスコが認定するもので、大学等の高等教育機関が設置した、地球規模の課題解決に資する優れたプロジェクトが対象となります。募集は年1回。1992年以来、世界で954件のプロジェクトが採択されています(2023年6月現在)。国際機関に認められた教育・研究プロジェクトとして注目され、大学のプレゼンスの向上、国内外の研究機関との学術的交流の拡大、学内の他の研究への波及効果などが望めます。
ユネスコチェアでは、どのようなパートナー機関と課題解決にあたるのか、そのコラボレーションの質や規模が重視されます。杉村教授らのチームは、上智大学が持つ国連とのつながりやイエズス会のネットワーク、各研究者が築いてきた各国研究機関との関係性をもとに、ボストンカレッジ・国際高等教育センター、国連大学サステイナビリティ高等研究所など8つの機関とパートナーとして手を結びました。
2023年春、上智大学として初めて申請に踏み切り、同年秋に採択の報告を受けました。本学にユネスコチェアが設置されたことにより、日本の大学におけるユネスコチェアの数は12となり、日本の私立大学としては本学が2件目となります。
世界に認められたプロジェクトに触れるチャンス
重点領域研究としての活動をさらに大きく発展させる形で、今後はユネスコチェアのプロジェクトチームとして、アジア以外の地域も含めた世界的な規模で、ESDの実践や評価を通した課題解決の取り組みが行われることになります。具体的な活動計画について、パートナー機関との協議を活発に進めています。
ESD研究のプラットフォームとなるWebサイトも立ち上げます。本プロジェクトの活動や成果の報告だけでなく、世界中のESD研究者、実践者がESDのグッドプラクティスを寄せる場にする構想です。日本の小中高大の先生方にも参考にしてもらえるのではないでしょうか。
学生にとっては、拠点に集う著名な研究者から最前線の知見を学ぶチャンスだと言えます。プロジェクトの核となる学問は教育学ですが、活動が広がるにつれて教員の行き来が活発になり、他の学問と連携した分野横断的な学際的取り組みが増えてくるでしょう。総合人間科学部の教育学科はもちろん、教育学科を含む「SPSF」(Sophia Program for Sustainable Futures:持続可能な未来を考える6学科連携英語コース)をはじめ、様々な学部・学科で、国際機関に認められたプロジェクトに関わる機会が生まれます。COIL(2か国以上の大学間で課題解決型の学習を行うオンライン授業の形態)による海外学生との協働においても、本プロジェクトのパートナー大学が相手先になる可能性が出てきました。
ユネスコはSDGsを実現するための鍵として、ESDの国際的な実施枠組み「ESD for 2030」を遂行しており、日本は世界のESDを先導する役割を果たしてきました。先般より実施され始めた新学習指導要領でも、小学校から高校に至るまで、「持続可能な社会の創り手」の育成が掲げられています。ESD先進国の研究拠点として世界に何を発信していくのか、今回のユネスコチェア採択をきっかけに、上智大学にはこれまで以上の期待と注目が集まるはずです。 教育に関わる方々には、私たちが積み上げていくESDの最新リサーチについてWebサイト等を通じて共有いただくとともに、生徒や学生の皆さんには、国際的な研究拠点が形成される過程に直に触れ、学問が世界に展開されていくダイナミズムを感じてほしいと願います。
